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私とあなたの将来の話を

 ヘリアス様は鉄格子をつかみ、そこに額を押し当てながら、私に負けないくらい深いため息をついた。


「食事をしてくれて、本当によかった」

「季節の変わり目で体調を崩しかけていたのと、食べ飽きもあったんだと思います」

「食べ飽き……今までなかったが」

「火属性の竜は食べ飽きの傾向が強いみたいで、特にエアルは大変でした。この子はエアルと違って真面目な子だから、今まで頑張って食べていたんでしょうけど、飽きている状態でいつも通りの量を出されてストレスを感じたんだと思います」

「だから、食べきれる量に変えた、というわけか」

「はい。それと、食べやすいように水分を多めにしました。胃に負担をかけないように、少量ずつ具材の量を増やしていけば、元の体重に戻りますよ」

「そうか……」


 ヘリアス様はそれを聞いて、口元に笑みを浮かべた。竜を見つめる目には優しさがにじんでいる。

 心から竜を愛し、大切にしている人だと知って、胸がじわりと温かくなる。

 その時、ドゥルキスの主な管理者と思われる補助竜医師の男性が、おずおずと私の方に近づいてきた。泣いていたのか、その目は充血して濡れていた。


「あの、フィルナ様。ドゥルキスの食事は、どのように調節していけばよろしいでしょうか?」


 その顔には、私に対する敵意は浮かんでいなかった。

 すると、他の補助竜医師たちも、一字一句聞き逃すまいと一斉に近づいてきた。誰もが真剣な目をしている。


(よかった……ちゃんと認めてもらえた!)


 階級こそ竜医師の方が上だけど、補助竜医師たちの信頼と協力がなければ成り立たない仕事だ。

 ほんの少しでも彼らに認められたことが嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。


「そうですね、しばらくはこれと同じくらい水分量を増やした食事を三日ほどつづけましょう。その後は水分量を徐々に減らして、元の食事に戻しましょうか。肉も増やしてもらって大丈夫です」

「かしこまりました。食欲促進剤はどうしますか?」

「この子の場合は、なくても大丈夫だと思います」


 私が答えるたびに、補助竜医師たちが熱心にメモをとる。

 彼らの姿を見ていると、エアルの食べ飽きに悩まされたあの頃を思い出す。

 火属性の竜は数が少ないため、他の竜に比べても解明されていない事柄が多い。

 食べ飽きの症状が出た時は、「どうして食べないのか?」「何が悪いのか?」「このまま何も食べなかったら……」と毎日不安でいっぱいだった。そして、ようやく流動食を食べてくれた時は嬉しくて、声が枯れるまで泣き叫んだ。今思い出しても苦しくて、懐かしい記憶だった。

 大変な仕事だけど、竜医師になってよかったと心から思う。

 じわりと視界が揺らいで、私は小さく笑った。質問攻めが一区切りついた時でよかった。


(最近泣いてばかりね、私)


 さり気なく涙を拭うと、視界の端で、じっとこちらを見つめているヘリアス様に気がついた。


「あ、あの、ヘリアス様?」


 見られた恥ずかしさで、多少声がうわずっている。ヘリアス様は胸に手を当てながら「感謝する」と静かに告げた。


「そして、謝罪する。私はあなたを侮りすぎていた」


 ヘリアス様は謝罪する時でさえ、真っ直ぐに私を見て、決して目をそらさない。

 自身の感情に対しても嘘や誤魔化しを嫌うような真剣な眼差しに、謝罪を受けた私の方が少し戸惑ってしまう。


「い、いえ、そもそも私の妹が迷惑をかけましたし、その姉を信用しろと言われる方が難しいと思います」


 そんな状況でも、私を竜医師として指名してくださったこと、そして、お役に立てたことが純粋に嬉しかった。


「それでも、私の態度はあまりにも失礼だった。すまなかった。あなたは素晴らしい竜医師だ」


 何度も謝罪されて、評価されて、私はますます混乱する。

 家族も、ウィル様も、それくらいできて当然という態度だったから、何だか調子が狂ってそわそわしてしまう。


(こういう時、何と答えるのが正解なのかしら……。純粋に喜んでいいの?)


 その時、ドゥルキスが思いのほか甲高い声で鳴いた。

 物足りないと言わんばかりにこちらを見て鳴くので、ふっと笑みがこぼれる。


「おかわりが欲しいの? 待っててね、すぐ持ってくるから」

「あ、フィルナ様! 我々もお手伝いします!」


 そう言って、補助竜医師たちもついて来た。

 今度は補助竜医師たちと一緒に魚と野菜の煮物を作り、それをもう一度ドゥルキスに与える。まだ足りないのか、ドゥルキスは「もっと、もっと!」と主張して、補助竜医師たちを困らせて、喜ばせた。

 今までの分を取り戻すかのようなドゥルキスの勢いに頬を緩ませていると、ヘリアス様に「話がしたい」と声をかけられた。

 ヘリアス様に連れられて、私は竜舎の外へと出る。


「話とは何でしょうか?」


 ヘリアス様は私に向き直り、エメラルド色の瞳をすっと細めた。

 

(な、何を言われるの?)


 冷たい美貌の迫力に、収まっていたはずの緊張がよみがえり、鼓動が早くなる。

 ヘリアス様が口を開いた。


「私とあなたの将来の話をしたい」

「将来、の?」


 どういう意味だろう? 小首を傾げると、ヘリアス様は表情を変えずに淡々と、衝撃的な内容を告げた。


「私と結婚してほしい」

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― 新着の感想 ―
おいおいヒーロー様チョロ過ぎだろ~(笑) ドラゴンの胃袋は掴んでもお前さんは此からだ!
すげぇ、、、一人もまともな奴がいねぇ、、、初回からキチガイしかいねぇ、、、作者、、、ヤベェな、、、
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