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深夜のオフィス街にて
歌用ではありません
風の音がしない夜だった。
空気はどこまでも澄んでいて、遠くのビルの輪郭が赤い光で縁取られている。
航空障害灯が、まるで心臓の鼓動のように、ゆっくりと街を脈打たせていた。
東京タワーの灯りが、かすかに霧を染めている。
ほとんどの窓は、眠っている。
それでも、ところどころに小さな光が点いている。
まだ誰かが仕事をしているのか、それとも、帰りそびれたまま夢を見ているのか。
その光だけが、この街の夜を「生きているもの」にしているようだった。
歩道の端を、ひとりの影が通り過ぎる。
ヒールの音が響くたび、ガラスの向こうの夜景がわずかに揺れた。
誰もいないはずのビルが、ふとこちらを見つめ返す。
――都会の夜は、孤独で、あたたかい。
そんな矛盾を包み込んで、またひとつ、赤い光が瞬いた。




