聖女な訳がない
「二人とも落ち着いてください。これは仕掛けですよ」
「んっ?」
「どういう事ですか?」
メガネと王子の震えは止まったが、首を傾げている。
「んー…ですから、同じ行動をすれば、誰でも同じ現象が起きるという事です」
「だったら、私もやってみよう!それで何も起きなければ、君の起こした奇跡という事だろう?!」
いや、何で私の奇跡って証明したいんだよ。
違うっつってんだろ。
「いえ、こういう仕掛けは罠と違って、一回きりです。鍵になる道具を貰ったらお終いです。次回またあれば、別ですけど」
多分。
絶対ではないけど。
だが、王子は納得しないようだ。
「それでは君が聖女でないという証明にはならない」
「そうですよ!」
何なんだこいつらはもう!
そういうの、めんどくさいんだって。
余計な称号も、崇拝だって欲しくない。
寧ろ遠慮したい。
「違いますってば、もう。怒ってばかりで、力縄付けて罠に向かって歩かせる私が聖女の訳ないでしょう!?」
そう言えば一瞬黙ったが、王子がフッと優しい目で微笑む。
「それは私達に危険な事をさせまいという、心遣いからだろう?」
それは否定しませんけど。
「そうですよ。今の内にきちんと覚えていかねばならない事を、貴女は苦渋の決断で教えてくれているじゃないですか」
いや、苦渋の決断ではなかった。
八つ当たりなので。
もーーーあーいえばこう言う!
……だが、駄目だこいつらお花畑なんだった。
男侍らしていたあのミア2を天使だとか言っちゃう奴らだったっけ。
私は説得を諦めた。
別の方向から危機感を持たせるか。
「言っておきますけど、私は自分が聖女だなんて思いません。ですけど、私が聖女だなんて外で吹聴したら、この町のS級氏族の聖堂騎士団に無理矢理入れられてしまうかもしれません。そうしたら、一緒に冒険出来なくなりますよ。あの人達、この国の貴族子弟の集団なので」
私がそう言うと、王子とメガネは顔を見合わせた。
そして、苦々しく呟く。
「では、外では言わない事にする」
「ええ、言いません。でも!私はミアが聖女だと思います!」
「私もだ!」
言わないならいいよもう。
今説得するには材料が足り無すぎる。
次に来た時に誰かに祈らせて、聖女扱いしてやるわ。
私は心の中で誓って、また通路へと戻る。
最初辿っていた道をまた真っ直ぐ進むと、左に曲がる通路が現れるが、そのまま真っ直ぐ行くと、大きな金属製の両扉が現れた。
ふむ、これがさっきの鍵の場所か?
そう思って調べたけれど、罠も鍵穴すら無い。
私が扉の前から退くと、王子が両手で扉を押し開いた。
中には、何だか、嫌な物が並んでいる。
「アルとサーフは扉の所で待機してて下さい」
この部屋も胡散臭い。
向かって左側に長方形に部屋が広がっていて、真ん中に紅い絨毯が敷かれている。
それを挟むように、6体ずつの騎士鎧が剣を地面に突き刺すような態勢で、台座の上に立っているのだ。
動き出しそうだけど、地下3層でこれはなくない?
これはさすがに半分より下の階層にいるべき魔物と数だ。
一番近い鎧の台座を調べるが、仕掛けや罠はない。
絨毯に載ったら何かあるのかと調べるが、そちらも無い。
歩き回っても何も無いが、絨毯を例えば盗もうとしたりして床の上から重みが減ったりしたら、動き出すという罠なら考えられなくも無い。
この一群を相手にしても勝てる冒険者達なら、B~Cランク以上だろう。
そんな人達が潜って得られる宝物は、絨毯よりも遥かに価値が有りそうだ。
危険を冒してまで持ち帰るほどの価値がこの絨毯にあるとも思えない。
絨毯を歩いて向かった正面にも大きな扉がある。
罠はないが、鍵はあった。
鍵穴にこの鍵を差し込んで回してみようか、と私は振り返る。
王子とメガネが心配そうにこっちを見ているが、言いつけを守って部屋の中には入っていない。
鍵を開けた途端、鎧が動き出したらどうしようか。
私だけなら回避して扉まで逃げる事は可能だと思う。
でも、動き出した瞬間、王子とメガネは私を助けようとするに違いない。
仕方ない。
きちんと言ってからやろう。
私は入り口まで戻って二人に説明する。
「部屋の中には罠も仕掛けも無いんですが、この鍵であの扉を開けたら、もしかしたら鎧達が動き始めるかもしれません。扉の中も何がいるか分かりませんし、その場合は一旦この扉まで撤退します。だから、アルとサーフは…」
「駄目だ。それなら私が開けるから、ミアはここに残れ」
王子が毅然とした態度で言う。
「私も鎧を着ているのだから、一人なら扉まで戻れる」
力強い真摯な目。
でもだめ。
そこまでの力が王子には多分まだ、無い。
「駄目です。だって、聖女なんでしょう?聖女が開けなきゃ駄目かもしれませんよ?」
そう言うと、二人ともうっと言葉に詰まった。
まあ、実際は最悪の想定であって、何も起こらない可能性は高い。
「二人はここから援護して下さい。もし、そうなったら……頼りにしてますから」
王子とメガネは力強く頷いた。
これでよし。
ちょろくて助かる。
私は再び扉へと向かった。




