妙な生き物と反省する二人
次の部屋は、罠も鍵も無く、王子が開けると中には何もいなかった。
最初はそう思ったのだが、何だか空気の流れがおかしいような気がして、私は二人が入るのを手で制する。
じっと目を凝らすと、ふわりふわりと薄い光の塊のような物が漂っている。
「見えますか?」
「ええ、僅かに」
「何だろう……見た事ないな」
うーん?
これは魔物なのか、精霊みたいなものなのか?
この世界での扱いもよく分からない。
「投げてみるか?」
「いえ、私が近づいてみますので、一応援護に入れるようにしてて下さい」
王子は手に持った棍棒を投げたそうにしている。
いきなり投げて敵対するよりは、中立か敵対か知りたい。
中立ならばわざわざ戦う必要もないのだ。
戦力は温存するに限る。
何にしても近づかないことには、宝箱も探せない。
だが、ふわふわは特に私に反応する事も無く、ただ漂っているだけ。
ちょっと触れてみようと手を伸ばしたら、それが落ちた。
「えっ?」
触った途端実体化して、ふさふさの丸い物になって、地べたに落ちている。
周囲のふわふわは特に攻撃してこない。
地べたの丸い生き物?はみゅ~と鳴き声を発した。
思わず拾い上げると、毛の中に目と口だけある生物だ。
「みゅ~」
「お前は一体何だ……」
「みゅ~」
「じゃあ、みゅーって呼ぶね」
私がそういうと、嬉しそうにジャンプして私の肩に乗る。
他にもふわふわはいるけど、あんまり連れ帰ってもな……。
メガネと王子を振り返るが、二人ともあまり興味はなさそうだ。
可愛いのに。
「奇妙な動物?ですね?」
「精霊というか霊体?ではないのだな」
「みたいですね。かと言って魔物でもなさそうですけど……とりあえず宝箱開けますね」
罠を解除して鍵を開けると、中には、銀色の小さな短刀が入っていた。
おお、攻撃の通じない系の奴にも通じそうな武器だ。
小さいけど。
まあ、悪くはない戦利品だな。
ゴブ達がいきなり5匹も居ると思わなかったし。
何処かの部屋から出てきて大集合してただけかもしれないけどね。
王子の背負い袋に戦利品を入れて、部屋を後にする。
部屋から出て左に進むと、左右に道が続いている。
とりあえず、そのまま真っ直ぐ突き当りまで行くと、角で左に曲がる道。
ちなみに今はメガネを力縄で繋いで歩かせているので、地図作成は王子にやらせている。
基本的には地図作成は後衛の仕事だ。
斥候が行う事もあるが、先行しなければいけないのと、両手を開けておかないと対処できない事が多々あるからで。
同じく前衛も基本的にはすぐに戦闘に入れるように武器を携帯しているし、斥候のフォローに入る役目もある。
地図作成を斥候が行う場合、先行して罠の有無を調べたりしつつになるので、調べて進んで、地図作成という形になり時間がかかるのだ。
なので、基本的には知識系の技能が高い魔術師が安定、だと私は思っている。
だが、それと同時に技能に職制限がないこの世界においては、基本を知っている事は有利に繋がる。
出来るならば全員が、基礎の技能は覚えていく方がいい。
角を左に行けば上に続く階段方面の道と繋がる筈だ。
だが、メガネが曲がり角から一歩そちらに進んだ時に、罠が発動した。
ジャキン!という音と共に、床から鉄の棘が生える。
「わっ!」
慌てて後ずさったメガネを、私はひらりと回避する。
メガネはその勢いのまま、王子を巻き込んで倒れた。
「あー革靴、良いのに替えておいて良かったですね。革だけのだったら、足怪我してたかも」
「あ、あわわ・・・」
メガネは震えた。
王子は巻き込み転倒から起き上がる。
私はメガネに手を貸して、立たせた。
王子は元々鉄鎧の装備なので頑丈だが、私とメガネはそうでもない。
横から貫かれたら痛いだろうな。
「さ、どうします?もう一巡しますか?」
力縄をぷらぷらさせて聞くと、さっと顔色を悪くした二人が無言で左右に首を振る。
やっぱり神経磨り減るよね。
私で言えば、目隠し状態で罠がある道を進まされるくらいにしんどい。
「……悪かった」
「……もうしません」
二人の謝罪を受け取った私は、メガネの腰から力縄を外して丸く纏めて縛ってからベルトに下げる。
そして、罠を飛び越えて、真っ直ぐ進んだ。
王子とメガネは転ぶのが怖いのか、廊下の端の隙間をそろそろカニ歩きしてこちら側に来る。
慎重なのは良い傾向だ。




