恨まれたら困るので自力でどうぞ!
昼食を終えて宝石店へと向かう。
高級そうな貴族向けの喫茶店や飲食店がある並びに、リーメント商会は店を構えている。
その店の前に、またもピンク頭。
おい……お前、またかよ。
何でいるんだよ。
聖堂騎士団に行きなさいよ。
ショーウィンドウ越しに中を見ているけど、私達に気づいて文字通り飛び上がった。
「な、何でいるんですか……?」
「いや、それこっちの台詞なんですけど……まあいいや、私達は売買したい物があって寄ったの。冷やかしじゃないよ」
そう言うと驚いた顔をする。
何でや。
それからおずおずと、上目遣いで言い出した。
「私も付いて行っていいですか?」
「良くない。前も言ったけど、初対面の印象最悪だし、友達でも知り合いですらない人を商談に参加させる訳ないでしょ?あと今日言ったよね?男性を追いかけるのはいいけど、私を巻き込むなって」
「……でもお金ないし、一人じゃ入れないし……」
知らんがな。
私はノーツと王子とメガネを先に店に入れる。
「とにかく、私の近くに寄らないで欲しい。じゃないと貴方と本命の事も邪魔するけどいい?」
「や、やめてよ!」
今のところ一番アリサが狙いやすいのはイェレミアスだ。
落とせるかどうかも分からない……ん?
エストリとマティアス狙い?
……ははーん。
くっつけるのはこっちでも良さそうだけど、あの二人は異様に警戒心が強そう。
頭も良さそうだし、イェレミアスみたいに騙されたりしなさそうだもんな。
下手にアリサを紹介したら、私まで恨まれそうなのは嫌だ。
やっぱり、なしなし。
自分で何とかして。
「エストリさん狙いなら、騎士団で回復してお金貯めてから買い物に来るのがいいと思うよ。あとやめてって言ってるのにこうやって食い下がられるの私も迷惑なので、次何かしたら邪魔する事にする。貴女の許可なんていらないから」
別にどうやって邪魔するとか考えてないし、寧ろ応援したいけど面倒なのは困る。
なので脅しはかけておく。
お互いに魅了みたいなチートなくて良かったな。
もしある同士が戦ったらどうなるんだろう?
気になる。
アリサは黙ったので、私も三人を追いかけて店に入る。
振り返ったらマティアスが扉を押さえて待っていたので、少し驚いた。
「どうぞ、ミア嬢」
「どうも」
ぺこっと会釈して、マティアスの前を通り過ぎて奥へと向かう。
今日は王子も鎧姿のままで来たが、問題ない。
昨日の夜磨いたのか、首飾りの光沢が増しているように見えた。
「ふむ、これはスリジア銀ですか。ネックレスに使われているのは珍しいですね」
「ああ、溶かして加工した方が利益は出るだろう」
「こちらは血髄石ですか、珍しい。タラゴーナ産か……」
「石の出所は分からぬが、意匠からして加工したのはタラゴーナであろうな」
ふむ、何だか分からん。
この世界の地名とか、アイテム名全然分からん。
少しは勉強しないとだな、これは。
ていうか、あれ?
まだあった筈だけど、2つだけにしたのか、持ち込み。
「両方合わせて金貨25枚で如何でしょうか?」
「ふむ、良いだろう」
二人はまた握手をする。
そこで、初めてエストリは宝石類から顔を上げて私を見た。
「まさか、ミア嬢がノーツ様とお知り合いだったとは」
「二人の剣の師匠なんですよ」
「ではノーツ様、例の贈り物はもしや……」
にこやかにエストリがノーツに訊き、ノーツの顔がかあっと赤くなる。
「まあ、そうだ、うむ」
「それはそれは。職人に腕を揮って貰わないとですね」
あ、それはもしや、お抱え職人!?
一応確認しておこう。
「お抱えの彫金師が居るという事ですか?」
「ええ、居りますね。この街一番、いやこの国一番の職人だと自負しております」
良いことを聞いた。
私はにっこり頷く。
いざとなったら王子辺りを弟子にしてもらって学ばせよう。
「素晴らしいです。では私達はこの辺で帰りますね」
ノーツは時間がかかるような事を言っていたので、私の言葉に頷いた。
王子もマティアスからお金を受け取って立ち上がる。
メガネもメガネをクイッとして…
あ、忘れてた。
「眼鏡、買いました?」
「あ、いえ、まだです」
「眼鏡と片眼鏡が欲しいんですけど、扱ってますか?」
私の問いに、エストリはにこやかに答えた。
「ええ、取り扱いは御座いますが、装飾などに拘らないのであればお手頃な価格で販売している知り合いの道具屋を紹介致しますよ?」
「じゃあ、そっちでお願いします」
マティアス、とエストリが呼びかけると、マティアスが表の店へと促すように掌で指し示すので、私達は移動する。
店のカウンターで、マティアスが紙にペンを走らせた。
「地図と、簡単な手紙を認めましたので、どうぞお持ち下さい」
「ありがとうございます」




