チョロ過ぎる
ダーヴィドは席を立って、立派な紙を持ってきて、さらさらと文を書いて署名も入れる。
私のほうにぺらりとその紙を置いた。
本当にさっきの内容が書いてある。
私も署名を入れた。
「これは冒険者ギルドに預けますね。ノーツさんにお願いしても?」
「ああ、勿論だ。責任を持って届ける」
「さあ、これで憂いはなくなったろう?教えてくれ」
さあさあ、と急かすように言われて、私は頷く。
「薬草を引っこ抜いてきて、部屋で育てたんです。一週間くらいしたら、薬草の色が変わってきて、それを使いました。種からじゃなくて、納品する予定の薬草を育てたんです」
「それが君の特性に拠るものだと?」
「ええ、多分。一度だけアーヴォさんにその薬草を望まれたので渡しましたけど、私と同じ色の回復薬を作ってましたね。多分回復量は高いと思います。彼には偶然見つけた突然変異の薬草と説明してあります」
ダーヴィドは指を組んで考え始めた。
私はお茶に添えられたクッキーをさくさく食べる。
あ、これ美味しい。
ちょっとミルキーな味がして、柔らかめの食感がいい。
好きな味だ。
もっと欲しい。
「クッキー美味しいです。これ、何処で買えるんですか?」
「ああ。いや売り物じゃない。我が家の料理人の作った物だからな。土産に持たせてやろう」
ダーヴィドは机に載せられた銀の鐘を鳴らす。
そしてやって来た従僕だか執事だかに、クッキーのお土産とお代わりを申し付けてくれた。
やったね!
「ふむ。では、君が育てた薬草を譲って貰う事は可能か?」
「植木鉢には6本植えられるので、明日から育てれば、お渡し出来ますよ」
ここでまたもや、ダーヴィドは机をトントンしながら考え込む。
まあね、数は少ないよね。
6本て。
でもなあ、日に当てるのに吊るさなきゃいけないし、手狭だからなあ。
「この家に住まないか?」
「へ?」
突然の飛躍に私が間抜けな声を上げると、王子とメガネが立ち上がった。
「駄目だ!ミアを男の屋敷に住まわせるなど!」
「駄目です!理由はどうあれ、邪な思いを持つに決まっています!」
偏見も甚だしいな。
あまりの言い草に私も閉口する。
だが、ダーヴィドは続けて言った。
「護衛として君達も、共に住んでも構わないぞ?」
勢い良く立ったのに、王子達は立ったままぽけっとしている。
「そ……それは悪くない条件だ」
「ミアと一緒に住めるなら……まあ」
チョロいなこいつら。
チョロ過ぎやせんか?
お前ら完全に快適な暮らしが出来るって方にシフトしてるだろ。
私だけが理由じゃないよな?
「いや、それは止めておきます」
私は断った。
結局誰かを頼り切るような、そんな生活はしたくない。
冒険する気が殺がれそうなのも嫌だし。
大事にしてほしい~ってご令嬢なら飛びつくんだろうけど。
そして、ダーヴィドよりも王子とメガネが落胆している。
おい、お前ら。
「将来的に、という話でもいい。考慮の一つに入れておいてくれ」
無理を言う気がないというのは良い事だ。
ダーヴィドは多分、最初からそのつもりだったのだろう。
あくまで将来、安全が欲しくなった時、匿ってほしい時、冒険者を辞める時……色々変化があった時の一つの選択肢。
まあ多分、私が選ばない選択肢ではある。
「いずれは、私もきちんと薬草を作れる環境を作りたいですし、その際にダーヴィドさんに材料を提供するのは勿論惜しみませんよ。でも、先になると思っていて下さい。もしこれが、私の力だけの効果なら、私が死んだらなくなるものですし、恒久的に上質な回復薬の製作が出来るような技術じゃないです」
「うむ。その為にも、この薬品の効果と成分もきちんと調べよう。代用品があるかもしれない」
それはいいことだ。
薬草の組み合わせで、変化する事もあるだろう。
でもでも、一つだけ我侭が言いたい。
「あの……私からのお願いもひとつ良いですか?魔力回復の核になる薬草が欲しいんです。育てられる状態の物を」
「それは試してみる価値があるな。早速ギルドに採取依頼を出しておく。俺も暫く君の回復薬の研究に没頭したいからな。依頼と依頼料は私がもつから、君は現物をギルドから受け取ってくれ」
「ありがとうございます!」
あーーーうれしいいいいい!
まさか高山にも迷宮にも行かずに手に入るなんて!
本当は自分で引っこ抜きたかったけど、まだ早いからな!
まだ餌を取り上げられた犬のようにしょぼくれている王子とメガネを見る。
ここは少し励ましておこう。
「実力次第でいつかお屋敷にも住めるので、頑張ってくださいね」
「分かった!」
「分かりました!」
いや、本当にチョロいな?




