鍛冶屋へGO
「折角なので、薬草採取は中止にして、この後鍛冶屋にも行きたいんですけど」
「俺はかまわんが……」
ノーツが答えると、王子とメガネも頷いた。
二人だけ行かせてもいい気もするけど、まだ早いかな。
おじさんに聞いた鍛冶屋への道を辿りながら、ノーツに質問する。
「ちなみにノーツさんの剣てどんな感じですか?」
「ああ、これか?ミスリル銀だな。錆びないし、銀じゃないと倒せない魔物も多い」
「高そう……」
やっぱりねぇ。
ミスリル銀は定番だよねぇ。
王子も興味深々でノーツの剣を見ている。
「うーん。遺跡で見つけた品だから価格は分からないが、高いのだろうな」
暢気に返されたけど、絶対高いやつ。
でもそうか、迷宮や遺跡で見つかるのなら、ちょっといいかも。
整備さえすれば使えるだろうしね。
剣のサイズも形状もまちまちだから、ゲームみたいに絶対に装備出来る、出来ない、なんて事はないだろうけど。
やっぱり武器は何より使いやすさだと思う。
男子の武器談義を聞きながら、鍛冶屋に辿り着いた。
やっぱり壁の近く、外周に位置する場所にある。
工房からはもくもく煙が出ていて、扉を開けると熱気が吹き付けた。
「あのーすいません。武器屋さんから紹介状持ってきました」
「は?嬢ちゃんみたいな女の子が働けるワケねぇだろ?」
「いえ、注文ですけど」
働きに来たんじゃない。
でも紹介状って言われたら、そうかと思われても仕方がない気がした。
親方らしき人は、弟子に作業を任せて怪訝な顔で近づいてくる。
熊みたいに大きい人だ。
私はその熊に丸めた紹介状を渡す。
紐を解いて紙を広げて、熊は珍妙な顔をして首を傾げた。
「ふむ。分かった」
「調理道具をお願いしたいんです。ええと、設計図は描いてきました」
私はポーチから紙を取り出して、カウンターの上に広げる。
文字で注釈も書いてあるが、こうだ。
クレープを簡単に作れるような、ホットサンドメーカーみたいなやつ。
形状は丸くて薄い鉄板を合わせられる様にしたもの。
だって、いちいち引っくり返すの面倒じゃない?
だったら、挟んだまま裏表を火にかけられる形状がいい。
ついでに蓋を閉じたら生地の種が、丁度良く広げられるのがいい。
一々塗るの大変だし。
等々、要望盛り沢山の調理器具だ。
ついでにホットサンドメーカーも頼もうかな?
二枚分、計四枚のパンをサンド出来て、尚且つ三角に切ってくれるタイプね。
そっちもさらさらと紙に書き足した。
「変わった依頼だが分かった」
「大きさは直径がこの紙くらいなのがいいです」
「特注だし初めてのモンだからな、値段は安くねえぞ?」
私は頷いた。
そりゃそうだよね。
時間もかかるし、手探りだもの。
設計図はあるとはいえ。
「設計図もあるからな、試作に一週間てところだな。何処に連絡すりゃあいい?」
「冒険者ギルドか、黄金の野うさぎ亭にミアって名前で通じると思います」
「分かった。任せな」
「お願いします」
これで取りあえずはよし。
いやー夏にあの工房には絶対入りたくないな。
暑過ぎる。
サウナみたい。
ああ、サウナ体験したいんだったらいいのかな?
水風呂入りたくなりそうだけど。
「凄いですねぇ、あんなに暑い場所で仕事出来るなんて」
「慣れだろうな。向こうも思ってるぞ。命かける仕事するなんてすごいって」
「……確かに。狼と戦うのは凄く大変でした」
ノーツの言葉に、私も頷く。
一歩間違えば死んでいたのは私と王子の方だ。
改めて、あれは危険だったと言える。
私の表情を見てか、ノーツも厳しい顔をして頷いた。
「ならば、明日も鍛え上げなければな」
王子とメガネもノーツの厳しい声音と表情にびくりと肩を震わせるが、反論はしない。
きっと明日もひんひん泣きながら、鍛えられるのだろう。
こう見えて、二人とも頑張り屋さんである。
「そうだ、サーフの装備ももうちょっと良くしないと。せめて部分的でもいいから革鎧つけよう」
「そうですね。アルクにもノーツさんにも叩かれて痛いですし……」
メガネが曇って黄昏ている。
かわいそう。
どう考えても布装備っていうより、普段着だもんね…。
ノーツと王子というわんこ達も釣られて眉を下げている。
身に覚えが沢山あるからだろうな。
前に購入した防具屋さんで、おまけしてもらいつつ、丈夫な部分鎧と革靴も買う。
全部王子の背負い袋に入るから楽だ。
ついでに市場で、冒険の時に必要な銅製の薬缶や鍋も買って詰め込む。
コップや食器類も、割れたりしない金属製だ。
セットでカトラリーの入る鞄付き、銀貨10枚はお買い得。
ピクニックとか楽しそう!
水袋も丈夫そうなのを買った。
王子もメガネも持ってなかったし、私も予備で一つ買う。
そうか…私を守るって言ってたけど、王子もメガネも冒険者になる気はなかったのかな。
だとしたら、現在進行形でエライ目に合わされているな。
かわいそうに。




