トラブルメーカー
アウリスに手を引かれて、彼の愛馬に乗せられる。
そして、呆然としたままのアリサと取り囲む騎士達を置き去りに、ギルドへと戻ったのである。
ミアに着替えて、訓練場に王子とメガネの様子を見に行く。
今日もボロボロになって、ひんひん泣いてる。
ノーツは今日も良い仕事をしてくれたようだ。
「お疲れ様です、ノーツさん」
「ああ、ミア。二人ともよく頑張っていたぞ」
いいお父さんになりそう。
男らしさもあって、優しい笑顔。
「じゃあ、お昼奢ります。食べに行きましょう」
「ああ」
「ええ」
「分かった」
ノーツ、メガネ、王子が返事をして、私が急かさなくてもきちんと清潔を使っている。
よしよし、いい子だ。
朝昼と「黄金の野うさぎ亭」で食べるし、夕食はノーツとアルトの大好きなお店に行こうかな?
メガネと王子にもいつもと違った物食べさせてあげたいし。
「ノーツさん。夜ご飯もご一緒しませんか?おすすめの店にこの二人も連れて行ってあげたくて」
「ああ、いいぞ。今日も薬草採取か?」
「はい」
「じゃあ、ギルドで合流しよう」
そんな話をギルドの広間でしていると、甲高い女の声が響いた。
「ノーツさあん!お会いしたかったですぅ」
あ、さっきのやべぇ女だ。
そして、やべぇ女は私をギッと睨む。
「あんたが原作クラッシャーなのね?!」
「意味分からないんですけど、いきなり何なんですか」
睨むと、一瞬アリサは怯んだ。
何だよ。
言い返さないとでも思ってたのか?
こちとらNPCじゃねぇんだよ。
「転生者でしょ?」
「いいえ?何ですかそのテンセイシャって。意味分からないです」
厳密に言えば、違う。
前世の知識は夢みたいなもので、確実性があるわけでもない。
アリサの頭の上にはハテナがたくさん浮かんでいるようだ。
ていうか、ほんと面倒くさいな。
「ノーツさんの知り合いじゃないですよね?」
「ああ、初対面だ」
とても迷惑そうな、困った顔をしていらっしゃる。
ですよね。
「初対面ならきちんとした挨拶をしないと、印象悪いですよ?ちなみに私の貴女への印象は最悪です」
しっかり目を覗き込んで言うと、彼女は何も言い返さなかった。
彼女にとってお手軽なゲームだとしても、私にとっては命がけの人生だ。
壊されてやるつもりもない。
いつまでも構っていたら時間の無駄なので、私はノーツ達を振り返って促す。
「じゃあ、ご飯行きましょうか」
「ああ」
ノーツに王子にメガネを連れてギルドを出て行くと、アリサは出入り口からこっちを見ていたようだが、諦めたのか追いかけては来なかった。
トラブルメーカーだなあの人。
乙女ゲームって大体学園が舞台だと思うんだけど、RPG要素が強いものでもあるんだろうか?
よく分からないけど、気にするだけ無駄だな。
今更、私が築いた人間関係にどうこうと口出しされたくもないし。
あっ、でも強制力とかあったりすんのかな?
「ノーツさん、さっきの子可愛いとか思います?」
「……いや?別に」
無いみたい。
少し思い浮かべて、ノーツは首を横に振った。
王子とメガネを見てみると、二人も首を振る。
「ミアより可愛い女性はいない」
「ミアは誰よりも可愛らしいです」
いや、そういう事聞きたいんじゃないんだわ。
曇り眼の二人にまで聞いたつもりはなかったけど、彼女の影響力はなさそう。
「きっとノーツさんの信奉者なんでしょう。気にしないで下さい。私もいきなり訳分からない事言われて驚いただけなので」
「むう……何だか面倒だな」
ですよね。
これからも厄介事運んできそうな予感。
ああやだなあ、折角生活が落ち着いてきたと思ったのに。




