止めてやれ・・そいつらのMPはもうゼロだ・・
ノーツにも是非クレープを食べて貰いたい。
たいと思っていたんだけど。
めちゃくちゃ混んでるううう!?
どのテーブルの上にも、クレープが鎮座していますね。
ああ、原因よ。
「あ、ああ、ミアちゃんごめんなさい、今空いてなくて」
リサさんが私を見つけて、必死で謝ってくるけど、返って悪い事したなあ。
そんなに謝る事ないのに。
「大丈夫ですよ。厨房の方は平気です?もし平気ならお部屋に自分で運ぶので、お料理お願いしてもいいですか?」
「え、そんな、悪いわ?」
「全然大丈夫です。自分の食べる分くらい運ばせますよ」
にっこり言えば、リサさんもこくんと頷いて笑顔を浮かべた。
煮込み料理は既に出来ているし、サラダとパンを盛り付けるだけなので用意は早い。
クレープだけは出来上がったら運んでくれる事になった。
それぞれに料理を持たせて、私が先頭で部屋に戻る。
鍵を開けて部屋に入ったが、まあ狭いよね。
四人もいたら狭く感じる。
王子の部屋から持ってきた、鞄に布を敷いて即席のテーブルにした。
全部は載せられないけど、煮込み料理くらいは載せられる。
「さー食べましょう。頂きます」
「「頂きます」」
ノーツさんだけ大盛り。
もぐもぐほっぺを膨らませて食べている。
男らしい頬と、もぐもぐ動くほっぺは何だか触りたくなるんだよね。
流石にそんな事したら、王子とメガネが変に騒ぎそうだし、しないけど。
それに、冒険の話は楽しい。
王子やメガネも質問したりして、ノーツは快くその問いにも答える。
和気藹々と話をしていると、ノックをする音が聞こえた。
「クレープかな?」
扉に近かったノーツが戸を開けると、リヤちゃんがお皿を差し出した。
それに、ちょっと困ったように、付け足す。
「クレープだよ。ミア姉。あと、ミア姉に贈り物届けたい人が来てる」
「何だろう?心当たりが無い……」
「呼んでもいい?リヤじゃ運べなさそうだから」
ああ、だから困ってたのか。
私は頷いた。
うん?
一体何だろう。
部屋が余計に狭くなるんだが?
「手紙も預かってございます」
「……はあ。どうもご苦労様でした」
壮年のお仕着せを着た男性は、ぴしっと挨拶をキメて、姿を消した。
リヤちゃんも、気になるようだが今日は忙しいので、またね、と言って階下に戻る。
「な、何だ?贈り物とは……」
「誰ですか?相手は」
思ったとおり王子とメガネが騒ぎ出す。
知らんがな。
「はあ……さっきも言ったけど心当たりなくって……」
私は受け取った手紙を読む。
「直接届けに行くと受け取ってもらえないかと思い、供の者を遣わしました。喜んで頂けると信じて。貴女の信奉者より」
誰だよ。
こんなんじゃ分かんねぇよ。
私は手紙を封筒の中に戻した。
「分かりませんねぇ。何か貴族っぽいですけどねぇ」
「むう!名を名乗らぬとは無粋な!」
「受け取らないと分かっているのに送ってくるとは不埒ですね!」
げきおこじゃん。
二人が怒っているのを、ノーツはもりもり食べながら困ったように見ている。
仕方ないので、私は贈り物が入っている箱を開けた。
本だ。
送り主が分かった。
あの野郎か。
「うん、贈り主分かりました。多分、マティアスですね」
「なに?あの執事か?」
「多分?この本読んでたの今日ですし、高いから諦めたんですよね」
「そんなもの、幾らでも私が買ってあげるのに!」
王子が言うけれど、お前稼げてないじゃん。
二人とも、ギルドでしょんぼりしてたよね?
言いたくないけど、言う。
「今日の稼ぎ、銀貨三枚でしたよね」
びくり、と二人が肩を震わせた。
現実を突きつける。
だって、親の金で買ってあげるのに!とかかっこ悪いことこの上ないでしょう。
預金した白金貨達は、あくまで親の金ですもんね。
「この本は金貨五枚です。毎日働いて、半年かかりますね」
「ミア、もうその辺で許してやってくれ……」
先に音をあげたのは何故かノーツだった。
二人は拳を握り締めて、眉間に皺を寄せてふるふる震えている。
かわいそう。
追い詰めたの私だけどな。
「だから、頑張って成長して下さいね。これは冒険に必要な物なので、貰っておく事にしますけど、別に高いものがいいとか私は思ってないですし、二人が努力してるのはちゃんと分かってますから」
二人の頭を順番に撫でると、感極まったのか、二人は涙を流し始めた。
「ミア、必ず強くなると誓う……!」
「私も頑張ります……!」
えらい、えらい。
ついでに私はノーツの頭も撫でた。
「ノーツさんも。無事帰ってきてくれて嬉しいです。約束守ってくれてありがとう」
「いや……うむ、……うん」
本当に、フラグ立ってると思ったし、無事で良かった。
照れ臭そうに笑うノーツを見て、ほっとする。
王子とメガネも何か言いたそうにはしていたが、冒険の話が楽しかったからか、師匠だからか何も言わない。
「さ、クレープ食べましょう」
私が言うと、三人はクレープを手に取って食べ始めた。
今日も美味しいね。




