贈られた花
能力解析
相手の同意の下で、能力を見る魔法である。
これは解析魔法を使っていると覚えられるようになる魔法だ。
一ヶ月毎日見ていた私は、いつの間にか覚える条件を満たしていたらしい。
鑑定が3レベルになっていた。
訓練が終わった後に魔法協会で魔法書を購入する。
20銀貨は地味に高いな!
最近大金ばかり目にしてたから、少し感覚が麻痺してる気がする。
結局昨日の大聖堂バイトの金額は70銀貨になってた。
ね?
あれだけフラフラになってその位。
でもFランクの薬草採取なんて、半日たっぷりで3銀貨だから、それを考えればマシだけど。
色々と世知辛いのである。
その世知辛さを今日、王子に知らしめる。
白金貨や金貨を「少ない…」とか言っちゃう感性だからな。
一般市民…もとい、底辺冒険者の稼ぎを体験させよう。
私は王子を連れて、東門の衛兵達と挨拶しながら薬草採取に向かう。
王子は、薬草の見た目が描かれた紙と見比べながら、薬草を摘んでいる。
「ミア、これか?これだな?」
いや、いちいち見せに来なくていいからね。
それです、それです。
私はうんうん、と頷いた。
「そうですね。根っこまでなるべく取って下さいね。掘らなくていいですけど」
「うむ。分かった!」
初めてのお仕事。
王子は目をキラキラさせて張り切っているけど。
夕方になったら凹むのかなぁ?
人生諦めムードになって、お城に帰ったりして?
……その位では帰らないか。
私は自分の分の薬草採取を始めた。
最近少し迷宮あたりが騒がしかったのもあって、薬草の需要は高まっているかもしれない。
でも採取する人は少ないから、価格上がってるといいなぁ。
そういえば。
苦労した甲斐があって、治癒を習得していた。
光魔法はもう5レベル。
回復も3レベルに上がっていた。
全体的な魔法の力は上がっても、個別の魔法はやはり使用頻度によってレベルが設定されている。
他にも魔物避け《アヴォイド・モンスター》なる魔法も覚えていた。
これは空間にかける魔法で、一定時間魔物の進入を防ぐ事が出来る。
だが、認知出来なくなる訳ではないので、強い魔物には効かないだろうし、追ってきた魔物や戦闘中の魔物相手にも効果はないだろう。
あくまで、緊急避難というか、野営の時や採取の時に、その場に近づけないようにかける程度の魔法だ。
迷宮内では階段が一つの安全地帯になっているという事だが、そういう場所にかかっている魔法はもっと高度なものなのだろう。
使っている内に範囲や持続時間、効果も上がっていくかもしれないが、根本的に違う魔法の可能性が高い。
考え事をしながらも、私は順調に薬草を摘んでいく。
ふと、伸びをしながら王子を見ると、何だか少し顔を赤らめていた。
「その、ミア……可愛い花を見つけたのだ。……君に、これを」
王子の手に握られているのは、見慣れた野花だ。
白くて親指の先程の大きさの小振りの花で、確かに可愛らしい。
私は何だかほっこりした。
「ありがとう、アル。……どうかな?」
花束の一部の花を抜き出して、少し茎を切って髪に飾って王子に言うと、王子は嬉しそうに力説した。
「可憐だ!よく似合っている!可愛らしい!」
全力投球である。
私は残りの花も、帰ったら飾るべく薬草とは違う袋に入れた。
そういや、花を貰うのは初めてだ。
ちょっと嬉しい。
「アル、私花を貰うの、これが初めてですよ」
「……そうか。……うん、それは嬉しいな」
最初、少し悲しそうな顔をした。
でも、王子はふわりと微笑む。
ああ、そうか。
前のミアに彼はきっと花も贈った事があるのだろう。
記憶が戻る前、というか全然別人のミアだった訳で。
そのミアと私はかなりかけ離れているだろう。
悪い魔女に騙されているかわいそうな王子様みたい。
嫉妬や悲しみはないけど、可哀想に思ってしまう。
でも全部穿り出して、別人なんですよ!と突きつけるのも何だか違う。
認めたくないだろうし。
関わっていく内に、違いを理解して、王子が決めていく事だ。
まあ、どっちかっていうとママだしね、今。
息子が、ママ、お花らよぉ!って差し出してくれたようなもんか。
産んだ事ないけど。
「さー、夕方まで頑張りましょうか」
「うむ、分かった」
夕方の鐘がなるまで、私達は地道な作業を続けた。
てか、冒険者さ……もしかして一般市民より底辺なのでは。
ランク上がってれば別だけど、もし薬草採取とかが普通より稼ぎ良かったら、私やるもんなぁ。




