魔力枯渇の弊害
「……目が覚めたか、ティア殿」
真っ白なヴェールに視界を遮られているから、夢から覚めたと気がつくのに時間がかかってしまった。
何だか変な夢を見ていた気がするけど。
「大丈夫です。少し、無理をしてしまったかもしれません」
「申し訳ない。もっと早く止めるべきだった」
アウリスが形の良い眉を顰めて言う。
美形にそんな風に心配されたら、勘違いする人続出ですよ。
私は首を振って、笑顔を見せる。
「まだ自分できちんと把握できていないわたくしの責任です」
「家まで送ります」
「いえ、ギルドに用事があるので、ギルドまで送って頂ければ助かります」
イェレミアスだったら、家を特定しようとしてんじゃねぇ!と怒鳴りたいところだが、多分アウリスは心配なだけだろう。
多分だけど。
美形だからって、贔屓してる訳じゃないです。
今日は馬を用意してきてくれて、乗せてもらった。
おお……初の乗馬!
馬から見る景色もまた良き。
走らせてる訳じゃなくて、軽快に歩かせてるだけなのに、すぐにギルドに着いてしまった。
私を馬から下ろすと、アウリスは中までしっかりと付いて来た。
「アウリス様、送迎ありがとうございました」
「いや、とんでもない」
「それから今日頂いたお薬の代金は、ギルドから返却させて頂きますので…」
「いや、それも不要だ。無理をさせるべきではなかった。詫び代と思ってくれ」
話が付きそうにない。
押し問答をしていると、エミリーさんがスッと間に入った。
「ティアさんは奥で用意をしていて下さい。あとは私に任せて」
「はい。では」
私は二人に会釈をして奥へと入って、着替える。
マジでもうさっさと宿屋帰って、ベッドにダイブしたい。
ティア用の着替えをギルドに借りた戸棚にしまうと、私は訓練場へと顔を出す。
そこには、薄汚れた子犬…改め、王子が居た。
沢山遊んで泥んこだ。
「帰りますよ、アル」
「ああ!」
でも元気みたいで安心した。
楽しかったのかな?
「ほら、清潔して」
「ああ、そうだった、清潔」
ああ、もう、眠い。
さっきまで眠っていたはずなのに。
厄介だな枯渇。
「アル、今日は私魔力使いすぎて、ご飯食べる気力も無いから、送って行けなくていい?」
「そんなのは、かまわないが、大丈夫なのか?」
うん、多分、大丈夫。
眠くてだるいだけだから。
頷くと、心配そうに王子は私の様子を見て、ふと背を向けてしゃがんだ。
「負んぶしてやろう。ほら」
「……えぇ?」
何かこう、アウリスの馬と比べたら、雲泥の差で思わず笑ってしまうけれど、何だかこれはこれでいいかもしれない。
たまにはいいか。
私は遠慮なくその背に乗った。
「ミアは軽いな」
「女性にそういうの、禁句ですよ」
寄りかかりながら言うと、そうか、と背中越しに聞こえる。
裏口から出てとか、指示したいけど、何もかもどうでもよくなって。
私はそのままうっかり眠ってしまった。
そして、朝目覚めると宿屋のベッドの上にいた。
昨日の事を思い出して、ああ、と溜息を吐く。
魔力の枯渇はやばいな。
思考能力も判断能力も落ちる。
下手したら眠るし、昏倒する。
そりゃそうだよね。
だってHp0だと死ぬのに、MP0の弊害がないっておかしいもんな。
しっかり眠れば回復するだろうけど、短くて浅い眠りじゃ少し動ける程度だ。
「大丈夫か?ミア!」
え?
声のした方を見ると、王子がいた。
床に。
何してんの此処で。
私の部屋なんだけど。
「どうして居るんですか」
「心配で……」
もごもごと困ったように言いながら眉を下げるけど、まあ、悪くは無い判断か。
いつも送って行ってたし、一人で帰らせるのも心配ではあったし。
でも。
でもさぁ。
この前まで同じ部屋に二人きり……とか赤面してた無垢な王子は何処に行った?
昇天しちゃったのかな??
「男女なのに同じ部屋で夜を過ごしてしまって、私傷物ですね」
「……な!……いや、ごほん……私が責任を取るから、その……大丈夫だ」
王子は赤面しながらちらちらこちらを見る。
「既成事実を先に作るって、狡猾ですね、いつからそんな人になったんですか」
「いや、何もない!誓って何もしていない!」
いや、そんなのは知ってるよ。
分かるよ、無理だって。
苛めるのはこの辺にしておこう。




