夢の中の少女達
「アウリス様……わたくし少し気分が優れなくて…」
そう言うと、アウリスはイェレミアスを押し退ける様にして、私の肩を掴んだ。
「ティア殿、大丈夫か…?」
「……魔力を使い過ぎてしまったのかも知れません……」
まだね。
育ってないんですよね、色々と。
幼い頃から転生してりゃ、勝手が違うんだろうけど、一ヶ月前だもんね。
中の奴は恋愛脳のぱっぱらぱーだったぽいし。
「ああ、では魔力回復薬をお持ちしよう。一日に一回しか飲めないが、それを飲んで休むといい」
「いえ、回復するのでしたら、またお仕事に戻ります」
アウリスは困ったような顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
ていうか、今気づいたけど身を削って回復かける意味ある?
回復薬飲めばよくない??
結局あれか。
権威の為の奉仕か、これは。
まあ、私も成長させたい能力だからWin-Winだけどさ。
回復薬に頼るより、大聖堂の回復の方が安いですよっていうのと、そういう回復要員抱えてる大聖堂しゅごいって宣伝。
そして、使いまわされる人達。
私はアウリスから薬を受け取ると、飲み干した。
うーん、不味い、もう一杯。
あ、一日に一回って言ってたっけ。
紫色の液体を飲むと、驚くくらいに簡単に頭の重さは消えていった。
やっぱり魔力というか精神力?が枯渇しかかってたんだなぁ。
MP大事。
MP回復薬も作りたい。
服用間隔が一日ってのもエグい。
もっとこう、短い時間で飲めないものか?
だから迷宮攻略時間かかるんだろうな。
という訳で回復再開。
授業とか習ってないから分からないけど、この世界って詠唱あるのかな?
普通に呪文名しか私言ってないけど。
それでもしかして消費激しくなってるとしたらやだなぁ。
結局冒険者からは特に勧誘はされず、感謝はされたので、首から札を下げなくて良かったな、うん。
やっぱり午後になるとふらふらになったけど、後は帰って寝るだけ。
王子の面倒もみないとだけど。
心配だったのか、アウリスが様子を身に来てくれたようだ。
「大丈夫か?ティア殿、顔色が…」
「……え?」
顔色?
聞こうとしたけど視界が眩んだ。
気がつくと、真っ白い部屋に居た。
窓の外にはテラスと広がる青空が見える。
何だここ?
夢の中かな?
「ねぇ、貴方さぁ、転生者でしょ?名前、何ていうの?」
「……覚えてない」
誰だこの女?
嫌な予感がする。
「ごめんねぇ、私さぁ逆ハーと王子ED目指してたんだけど、最後バグっちゃって。何かざまぁ返しっぽい流れになったから、逃げたんだよね。ってか、気失ったら此処にいて」
「ほおん?」
「でもさ、今上手くいってるじゃん?だからまた変わっ」
女が言い切らない内に、私は女の顔に拳を叩き込んだ。
ゴフッと女は声を漏らす。
何だろこの世界?
夢なのに血が出るんだ。へーぇ。
良い子は真似しちゃいけません。
「……い、いきなり、な……」
「はぁ?こっちの状況見えてたならさ、私の性格も分かってるでしょ?都合の良い事言ってんじゃねぇ」
本当は女子に暴力振るうなんてよくないけどさ、こいつはいらん。
「大変になったら逃げて、美味しそうなら戻るなんて、馬鹿にするのもいい加減にしろ」
私は崩れ落ちた女子の襟首を掴んで、テラスの方へ近づいた。
「えっ、ちょ……な、何す…」
「生まれ直してこい」
ぽいっ。
襟首掴んで背負い投げの要領で~!
テラスから投げ捨てる。
まあ、夢?だからいいよね。
そうじゃないとしたら、この状況にぶちこんだ何かしらの存在がどうにかするだろう。
知らんけど。
そう思っていたら後ろでガタッと音がした。
部屋の中にはベッドとクローゼットがある。
私はクローゼットに近づいて開けてみた。
そこには、女の子が震えて縮こまっている。
手を伸ばすと、逃げるように端っこに身を寄せた。
「大丈夫だよ」
そう言うとその女の子はこちらを脅えたように見上げる。
小さな子供のようなその子を、私は抱き上げた。
「投げないで……」
「投げないよ」
ああ、さっきの。
見てたのか。
そりゃ怖いわ。
うーん、夢だとは思うけど、もしかして。
「貴方が本物のミアなの?」
「……分かんない」
頼りなさそうな風情で、ぽつりと答える。
そうだよね。
いきなりこんな状況だもんね。
「そっかぁ……私と交代する?」
「いや」
今度はやけにはっきりきっぱり否定した。
そっか、嫌か。
思わず苦笑が漏れた。
「これ、夢なのかな…夢じゃない何かなのかな……」
「……うーん……分かんない」
「そっかぁ……」
分からないなら仕方ない。
私は女の子をベッドに降ろして、その横に寝転がった。
頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑う。
いつの間にか私は寝てしまった。




