ブラックはお断り
アルトと訓練をして、王子をギルドに預けると、私はティアとして大聖堂に向かう。
大聖堂の前には聖堂騎士団もいて、知っている顔がこちらを見て歩いて来た。
「ティア殿も来て下さったのか」
「はい。微力ながらお手伝いさせて頂きます」
会釈をすると、アウリスが誰かと話しているのが珍しいのか、騎士団の人々の注目を浴びる。
私は勝手知ったる大聖堂なので、治療院へとそのまま足を進めた。
「申し訳ないがティア殿」
「はい、何でしょう?」
声をかけられて振り返ると、アウリスがとても気まずそうに目を伏せている。
何だろ。
アウリスのファンに狙われるとかかな?
今は色恋に関わってる暇は無いんだが。
「その、貴女はどの氏族にもパーティにも属していないと聞き及んでいる」
「そうですね」
おや?色恋じゃなくて勧誘のお話?
それはそれでめんどくさいな。
「今は所属する気がないと、ギルドからも聞いているし、注意はしたのだが、聖堂騎士団からも勧誘があるかもしれない。それと、今回怪我をした冒険者達からも」
「分かりました。全てまるっと断らせていただきます。お気遣い感謝致します」
丁寧な人だ、アウリスは。
ていうか、確かにいちいち断るの面倒くさい。
首から「勧誘お断り」の札でもさげとく?
かといって、自意識過剰なんだよって言われるのも恥ずかしいな。
まあ、対処は追々考えよう。
私は自分の場所にある椅子に腰を下ろして、怪我人の治療を始めた。
怪我を治しながら治療院の中を見るけれど、いつもより回復要員が少ない。
昨日から忙しかったのだろうし、精神力が尽きれば魔法も使えないからかもしれないが。
回復する薬ないのかな……?
あればガブ飲んで頑張れるけれど。
お昼を越える頃には、頭がくらくらし始めた。
眠いような、鈍痛に支配されているような、そんな感覚。
痛みは無いけど、何だか重い。
私は休憩を取る為に、大聖堂の中庭に行った。
噴水がある、質素だが綺麗な庭園だ。
マイナスイオンを浴びたくて、噴水の傍のベンチに座る。
ぼうっとしていると、中庭を囲む廊下を騎士達が歩いて行くのが見えた。
ベールが割と厚いので、遠目には誰がいるのか顔までは分からないけれど。
でも、その中の一人がこちらに歩いて来た。
騎士鎧に身を包んだその人は、身分が高そうな青年だ。
銀の髪に、緑の目の笑顔も美しい騎士。
もてそう。
「初めてお目にかかる。聖堂騎士団副団長のイェレミアスという。ティア殿に折り入ってお願いしたき事があるのだが」
「始めまして、イェレミアス様。氏族加入のお誘い以外でしたら、出来る限りお応え致しますが」
立ち上がって淑女の礼を執ると、イェレミアスは苦笑した。
「先手を取られてしまったな。……ふむ、では、大聖堂に毎日通って頂けないだろうか?」
「それも難しゅうございますね。わたくしにもわたくしのやりたい事や、やるべき事がございますので」
イェレミアスは、こちらを値踏みするかのように見下ろしている。
何か失礼な人っぽいな。
ああ、そうか。
アウリスの注意したい、話を聞かない奴のメインはこいつなのかもしれない。
「人を援ける事以上に崇高な使命はあるだろうか?」
「貴方にとって援けるべき人は、冒険者や同じ氏族の方だけかもしれませんが、わたくしにも援けたい相手がおりますので、そちらを優先させて頂きます」
にっこり微笑んで見せれば、イェレミアスは溜息を吐いた。
傲慢な奴は嫌い。
だから自分の思想を押し付けるなと言いたくもあったけど、何だか相手をするのが面倒。
てめぇの知らねぇところで人助けしてんだよ!って言った方が楽だったからそう言った。
実際してるし。
王子っていうバブってる子がギルドでママの帰りを待ってるんですよ。
まだ初めてのお使いすらさせられない子なんで。
手も目も離せないんです。
「そうか。ならば、仕方ない」
「おい、何をしている」
あきらめてくれたかな?というところで、アウリスの声が聞こえた。
イェレミアスは、再度溜息を吐いてアウリスを振り返る。
「丁度今振られたところだ」
「声をかけるなと言った筈だが?」
「お前の誘い方が悪いのだろうと思って助力しようとしただけだ」
うわぁ。
嫌な奴だ。
アウリスが口説けなかった私を口説き落として、手柄にしたかったのだろう。
セコいな!
だから毎日通えとかブラックな事も言ってたんだな。
氏族には入りませんでしたが、毎日通ってくれるってさ!とか言いたかったのか。
人のMPなんだと思ってんの??
使ったら減るんだよ、こっちはよぉ!




