託児所と書いてギルドと読む
無事預金を終えると、何だか冒険者ギルドの中がいつもより騒がしい。
ていうか緊張感みたいなものがある。
何だろ?
何かあったのかな?
「ミアちゃん、ちょっといい?」
「あ、はい」
私は呼ばれて奥の部屋に行く。
ギルドの騒々しさと関係あるのかなぁ?
「あのね、明日は大聖堂に行って貰いたいの」
「迷宮で何かあったんです?」
そう聞くと、エミリーは厳しい顔で頷いた。
経緯はこうだ。
北の迷宮は今20階層までの踏破で止まっている。
南は最高で25階層。
今回問題が起きたのは、南だ。
その25階層か、26階層で大規模な罠を発動させてしまったらしい。
最深部に挑んでいるパーティだから、Aランク以上の筈だが、現在行方不明。
安全地帯の20階以下に潜っていた他の人々も、その罠で凶暴化したモンスターに苦戦を強いられて、怪我人が急増したという。
そこで、私のアルバイト先の大聖堂が急募!回復職!となったわけだ。
はたと気がつく。
「あれ?ノーツさん達も危なかったりします?」
「いえ、ノーツは今回北の迷宮だから大丈夫よ。罠が向こうと連動してるって話はきかないから、今回の件では問題ないわ…ただ、階層が階層だから危険な事には変わりないけど」
「そうですか。なら、良かった」
怪我人や死人が出てる以上良かったはないのだけど、やっぱり自分の知り合いじゃないとほっとする。
でもどうするかなぁ。
王子。
あの子一人で大丈夫かしら。
完全にお留守番をさせるママの気分である。
不在の間に何かあったら、寝覚めが悪い。
私はいい事を思いついた。
「あ、じゃあアルクの面倒をギルドで見てて貰えます?」
完全にギルドを託児所扱いにしている。
でも仕方ないじゃない?
「いいけど……どうしたらいいのかしら?」
「んーと、実戦経験少ないので、剣術の勉強してる人達と適当に試合させといてください。お昼はあの、ギルドの酒場で適当に食べさせて、私が大聖堂から戻ったら回収するので」
えー、これ完全に託児でウケる。
エミリーも考えてから、うん、と頷いた。
「時々様子を見るわね」
「私は朝にチラッと訓練したら、すぐ行くので」
「ええ、助かるわ」
話し合いが終わったら、アルトにも事情説明。
ギルドからちょっと用事頼まれたんだよって事にして。
王子には帰りがてら全部説明した。
もちろん、指輪をしっかりネックレスに通して身に着けるのも確認した。
これでよし。
「ミアは凄いな。一人で何もかもやって……」
「これでも私たくましいので。もし、帰りたくなったら遠慮しなくてもいいですからね」
別に傷つける心算も、軽んじる心算もない。
王子の決心はちゃんと見せてもらった。
でも心変わりというのは、いつでも起こり得るのだ。
そうなったら、私は止めない。
一人でも大丈夫。
私の笑顔をじっと見た王子が迷ったように口を開いた。
「ミアは大丈夫かもしれないが、私は大丈夫じゃないからな。心配するなと言われてもしてしまうんだ」
困ったように眉を下げる王子は、きゅうんと鳴く子犬みたいだ。
かわいそう。
「そんな顔しなくても、覚悟はちゃんと見せてもらったので、前みたいに追い返したりしませんよ。早く育ってくださいね」
「うむ、頑張ろう」
「あと、能力開示でちゃんと管理もして下さいね」
「ああ。ミアにも見てもらいたいものだな」
他人の見れるやつもあるのかな?
水晶玉で出来るんだから方法はあるよね、多分。
「調べておきますよ。じゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
一緒の宿だったら、このめんどくさい送り迎えもしなくていい気がするなぁ。
帰り道にふと思う。
別に近いから苦じゃないけど。
それに、リサリヤ母娘の宿屋から出たくないっていうのもある。
二人に癒されてるもんね。
でも、もっと成長して迷宮に潜るようになったら、きっとそうも言っていられない。
王子の成長ばっかり上から目線で観察してたけど、私もかなり発展途上なのだ。
せめてペアで討伐とか挑戦出来るようになれたらなぁ。




