初めてのカフェ
クリーム色に花を描いた可愛らしい壁紙の内装と、焦げ茶色のツヤツヤのテーブルセットの綺麗目なお店。
四人席に案内されて、紅茶とスイーツを頼んだ。
シフォンケーキにタルト、プリンもある。
よくプリンが凄いスイーツみたいに描かれる世界があるけど、どうなんだろう?
作り方簡単すぎるし、カスタードがある世界なら、あるだろ?と思ってしまう。
何せ牛乳、卵、砂糖という単純な材料だ。
そのどれかが欠けてたら難しいけれど、代用品は数多ある。
革命なのは、プリンそのものよりも、ぷっちんのほうじゃね?
あの形態もそうだけど、滑らかさが大好きだった。
安くても美味しいものは美味しい。
アルトはそっぽ向くように、コーヒーだけ頼んで外を見ている。
アンニュイなイケメン。
王子はチョコレートケーキをうまうまと食べている。
子犬。
私はそのチョコレートケーキに、一掬い生クリームを載せてあげた。
王子は嬉しそうにニコニコする。
可愛いな。
ご褒美もらった子犬かな?
「あっれぇ?アルトじゃん。こんなとこでめずらしー」
「もしかしてデート?って訳ないか。カップルのお守り?」
声の主は女性だ。
私はぱちくりしながら、二人を見た。
服装からして、魔術師と神官?
黒のうねった髪のお色気女子は、紫の瞳で妖艶な美人。
もう一人は直毛金髪で、青い瞳の元気そうな女子。
「うるせぇ。話しかけんな」
えぇ?
アルト塩過ぎじゃない?
「どうも、アルトさんの弟子のミアです。こっちは友人のアルクです」
私はとりあえずぺこり、と頭を下げた。
女子達はニコッと微笑を浮かべる。
「あたしは、アイヤ。こっちはヘイディ。よろしくねお嬢さん」
「わー珍しい髪の色だね。可愛い」
ヘイディは手を伸ばして、私の頭を撫でる。
だが、何故かアルトがその手を振り払った。
「気安く触るんじゃねぇ」
何で???
私は何ともいえない気持で両者を交互に見る。
「おーこわ。お気に入りちゃんに手を出すと引っかいてくるよ、この黒猫」
「ご機嫌ななめだねぇ。まいっか、いつもの事だし」
二人は笑いながら、奥の席へと歩いて行った。
いつもの事?
えぇ?
「アルトさんていつもあんな感じなの?」
「女性に対して失礼ではないか?」
王子も一応空気読んでた。
読めない子かと思ってたのに。
まあ、知らない人同士だからね。
「何だ、文句でもあんのか?」
仏頂面だ。
ご機嫌ななめだわ。
「無いですけど…私にはすごく優しいじゃないですか、アルトさん」
「は?優しくした覚えはねぇけどな」
「えーそうですかぁ?優しさに満ち溢れてると思うけどなぁ。ちゃんと指導してくれるし、心配して森までついてきてくれたし、危ない時にも隠れてろって言ってくれたでしょ?それに…」
見たらアルトの顔が今までになく真っ赤になっていた。
「もういい、やめろ……」
そうだね。
やめてさしあげないといけないね。
大丈夫かな、アルト。
他にもあるけど、これ以上語ったら爆発しそう。
王子はといえば、首を捻っている。
「何故だ?…もしかしてミア」
「黙って」
恋愛脳王子は言ってしまいそうだから、遮る。
トドメを刺しに行くな、トドメを。
否定しながら爆発しちゃうだろ。
「何となく分かりました。大丈夫ですよ。人間関係なんて色々ありますもん。合わない部分があるのは仕方ないです」
「……そうだな」
まだ赤味の消えない顔で、アルトはまた外の方へ顔を向けた。
王子はもにょもにょして何か言いたそうだが、私が目で制するのを見て、諦めてケーキを食べ始める。
私は分かってしまったのですよ、ええ。
最初に思ったとおり、アルトは猫。
しかも一人が大好きで、時々さみしくなる猫ね。
だから、ぐいぐい構い倒してくる相手が嫌なんだと思う。
気まぐれにぐいぐいきて、放り出すようなタイプとは根本的に合わないんだろうな。
構ってほしい時にだけ、構ってあげるのがベスト。
もしかしたら、そういうところが女性と合わないのかもしれない。
大抵の女子は、構ってほしいし構いたいもんね。
ドライでクールな人と付き合うと、大体私の事大事にしてくれないとか言い出すやつ。
あと、つまんない、とか。
つまんないのはなぁ!お前の方だよ!って言いたくなる。
でもまあこの世界だと、ドライな人は多いかもしれない。
明日をも知れない命だからなぁ。
「アルトさんはケーキ食べないんですか?これそんなに甘くないですよ」
「いや、いい」
興味を示してチラッとケーキを見るが、私の背後にチラッと視線を走らせて、ぷい、と外を向く。
ああ、あの人達が気になるのね。
そりゃそうか。
またこれをネタにからかわれたら嫌だよな。
でも、折角だから。
「ちょっとお花摘みに行って来ます」
席を立って、店員の元へ行く。
甘さ控えめの焼き菓子を買って、自分と王子用の甘そうな焼き菓子と、リサさん母娘へのお土産も買う。
食べ終わって店を出てから、今日は靴屋にも行く。
履き心地の良い靴は重要だ。
長時間履く事になるから、なるべく自分に合った物がいい。
私は予備の革靴二足と、オーダーメイドで一足仕立てて貰う事にした。
宿に配達してくれるって。
やったね。
靴屋で計測してもらったりしていたら、割と時間がかかってしまった。
外はもう夕暮れだ。
女子ーずは今後も見守って行きたいと思っています。
でも口出すと怒るから怖いね。
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