ふむ、なるほど、分からん
「素敵ですね。他に売れる宝石ありますか?」
間髪いれずにそう聞くと、ううん、と王子は首を捻る。
「宝石を持ってきたつもりはないが……」
「ふむ。何かの飾りにはついてそうですけどね」
剣もギラギラだったし、荷物も鬼ほど多いし。
「とりあえず今日は、このいらないタイツと、宝石だけ売りに行きましょう」
「……え?いや、タイツは…」
「使いませんよ。夜会に行くんですか?」
「その予定は無いが……」
じゃあ問題ねぇ!
私は笑顔で鞄を持つと、王子に差し出した。
王子は諦めたように、それを手にする。
剣だけベルトに差し込んで……服と比べるとみすぼらしいけど仕方ない。
まずは古着屋へ行って、王子が着用していたタイツです、と売り込む。
鞄も特に魔法付きでもないからそのまま売った。
金貨5枚になった。やったね。
「割と安いのだな……」
王子はちょっとしょんぼりしているが、タイツと鞄で5金貨は高いよ!?
「いや、古着の割に高いですよ。需要だってそこまでないだろうし、王子の持ち物だという付加価値も一応加味されてると思いますよ」
現代の金額に直せば50万だよ。十分だよ。
「そ、そうか。では次は宝石店だな」
「宝石店では適度に偉そうにしていいですよ」
貴族っぽい方が売れそうだし。
でも王子は首を捻って難しいな、と言っている。
まあ散々駄目駄目言ってきたし、匙加減は難しいよね。
「売りたい物があるのだが、店主は居るか」
「私がこの店の主でございます。よろしければ、こちらへ」
店主は店番かと言いたくなる位、若い。
若いといっても二十代から三十代だと思う。
銀色の髪に、青灰色の瞳のイケメンだ。
通されたのは奥の部屋。
店の前にも奥の部屋の前にも用心棒らしい男達が立っている。
あまり荒くれ者には見えないのは、店の信用に関わるからだろう。
早速香りの良いお茶も運ばれてきて、私は護衛ですという顔で椅子の横に立ったのだが、王子は目敏く注意してくる。
隣をぽふぽふ叩いて。
「ミアも座れ」
「はい」
私も素直に従っておく。
そこまで大都会という訳でもないし、詐欺をしにきた訳でもないので、特に名前を詐称する必要も無いだろう。
王子は紅茶に手を伸ばして、香りを嗅いでから言う。
「ブルーム産の春摘みか。中々良い趣味をしている」
「おや……流石でございますな。この時期で無いと中々手に入りませんもので」
「今日はこれを売りたい」
胸元からハンカチを出して、その上に先程の月長石を載せる。
店主がほお、と目を見張った。
うん、その価値全然分からんけど。
とりあえず、紅茶も飲んでみる。
美味しい。
流石、ブルーム産の春摘みですね。
ちっとも分からんけど。
「手に取っても?」
「うむ。構わん」
店主はハンカチごと手に乗せて、目にルーペを着けて色々な角度から確認する。
すると王子は、何やら話し出した。
その指輪の曰くとやらを。
何かの物語みたいで、私の初めて聞く話だ。
店主も宝石を見ながら、時折耳を傾けて頷いていた。
「我が家に伝わる宝石で、実際はどうか分からんがな」
最後に王子スマイルで、嘘じゃないけど本当かも分からないよ、みたいに付け足す。
え?これ、詐欺じゃない?大丈夫?
変なところで度胸あるな、こいつ。
「ふむ。確かに品は良い物の様ですな。台座は悪いし、古いが……20金で如何でしょう?」
「良いだろう。そなたの目も商売も信用に足りそうだ」
二人はにこりと笑んで握手を交わした。
店主が片手を上げると、奥から執事らしき隙の無い男が出てきた。
黒髪を後ろで一本にまとめている、鋭い灰色の眼をしている男だ。
ベルベットの台座の上に上質な皮袋に入れられた金貨を差し出してくる。
「どうぞ、お確かめください」
王子が私を見て、私が皮袋に手を伸ばして確認する。
「確認しました」
「うむ。ではまた、寄らせて貰おう」
「是非、御贔屓に」
深く礼をした店主と執事に見送られて、部屋を出て、それから冒険者ギルドに行く。
今日だけで25金貨稼いだんだが??
どうなってんの?
目立つ王子は表に立たせて、私だけ受付で預金を済ませる。
ついでに王子の為の魔法書も3冊買った。
私も使っている能力開示と清潔と鑑定だ。
これは、金策手帳もつけた方がいいな!
私は再び王子を連れて、王子の部屋に戻った。
「じゃあ王子、お片づけしましょう」
「分かった」
夜会用の服は2着、そこそこ綺麗な貴族の坊ちゃん服は3着、あとシャツとタイツを纏めて一つの鞄に入れて、部屋の隅に置いておく。
「服はもうこれ以外は全部売りましょうね」
「む、……むぅ……」
眉を顰めるが反論はしない。
だって着ていく場所が無いものね。
うっかりそんな時が来た時に為に二着は保留したけど。
でもその時になってみないと分からないじゃない?
流行とかもあるから、この先何年も経ってからなら、取っておく意味はあまり無いと思う。
かといって、この街だけで大量に古着屋さんに売ったら価格崩壊しそうだし、たまーに一着ずつ売るとかしかないかも。
もっと大きな都市に持っていって売る方がいいのかなぁ?
その道のプロに相談した方が良さそうな気もする。
古着屋のおじさんに聞いてみるかな。
出来れば大きな町に行商へ行く人がいて、沢山買ってくれたら楽なんだけど。
あ、そうだ。
「王子、これ魔法書です。覚えてください」
「ありがとう、ミア」
王子は素直に受け取って、魔法書を開く。
うにょってるうにょってる。
シュッと魔法書が消えて、王子は軽く頭を振った。
「ふむ、こんな物があるとは知らなかった。凄いな、ミアは」
「いえ、凄いのは作った人達でしょう。迷宮でも見つかるそうですし、楽しみですね」
「ああ!」
まだ全然実力足りてないけどな!
宝石も味も、嗜んでない人には全然分からないと思う。
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