表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもの日々に  作者: ルウ
異郷の逃亡者
95/174

逃亡者とシェルター

イスマールにとってはこの国ははるか遠くにある、別世界と言ってもいい国だ。祖国と違って裕福で緑の多い国、人は礼儀正しく勤勉と聞く。そんな風に聞いた国へと、不本意ながら非合法で来てしまった。

こんな裕福な国でも裏があり、光り輝く世界にも闇がある。祖国を攻めて来た国でさえそうだ、そんな事は知ってたつもりだったが自分たちが巻き込まれて実体験となった。

この町に来るまでにイスマールは、逃げる為に情報を収集する事にしてアマルを護りながら周囲の会話に耳をそばだてていた。

能力者は覚醒すると、神域を使えるようになり励起法を悟り固有能力を覚える。その能力の基礎となるのは脳の演算能力だ。

イスマールはある日、能力に覚醒した。働いて今ある生活だけを精いっぱい生きるだけの生活だった彼の世界は、その瞬間どこまでも広がる程の全能感に満ちた。それと同時に目の前が霞掛かっていたかの様な自分の目の耳が、晴れたかのように周りの事を正確に知る事が出来てきたのだ。

これは能力者の演算能力が良い方向に作用した証明だ。イスマールはそれを使い、周りの会話をよく聞き、だれに習う訳でもなくヒヤリングだけ一週間で日本語をマスターしていた。

そうやって連れて来られて情報を収集する事一ヵ月弱、解ったこと言えばこの場所の名前は高見原、彼らの実験の目的は何かを作る為。


「何かを作る?」

「ああ、あいつら俺がこっちの言葉を理解できると思ってなかったらしくてペラペラしゃべってくれたよ。」


そりゃあそうだろうと斎は話を続ける為に、あえて突っ込まず今聞いた事と状況を整理する。

彼の名前はイスマール、中東の山岳地帯の村の出身。友人の妹を救うために誘拐組織に乗り込むも捕まる、その時に能力が覚醒したらしい。友人の妹の安全の為にあえて捕まったまま日本へ移送、高見原の地下へ繋がる港から研究所へ。


「それから一ヵ月弱ほどいた後に逃げたと…話は分かったんだが、ちょっと納得いかない事がある。その研究所って所、多分だが友人が一度調べていた場所だと思うんだ、その時に聞いた話だと出入りはそう簡単な事じゃない筈だ、どうやって脱出したんだ!?」

「ああ、それはこいつの所為と言うかお陰と言うか。」

「どういう事だ?」


イスマールが言うには、実験に入る前に体を整えると言う事で研究所の中での生活は故郷より数段良い場所だったらしい。その時に出されたいくつかの薬が友人の妹アマルへ投与された事が切欠と言う。


「能力覚醒薬?」

「ああ、少なくともあいつらそう言ってた。こう血の色をした透明な薬だ。あいつらの話を聞くに、俺等みたいな能力者ってのは脳が成長しきる時期に能力を覚醒する事が多いらしくて、それが12歳頃。でもこいつは…。」


イスマールの視線は自分の足の上に座って眠る三・四歳ぐらいの少女の旋毛を見つめる。確かに三・四歳くらいでは脳が成長している最中だ、彼の話が正しいとするのならば能力が覚醒していないだろう。ただ、覚醒薬という事は…。


「脳を成長させる薬って事か?」

「解らん、本当に覚醒するだけの薬だったのかもしれない。薬を飲み続けて二週間後くらいにそれは起きた。こいつの周りの空間が歪んだんだ。」

「歪んだ?」

「ああ、こうなんて言ったら良いのか解んないけど。こう、空間がギュッと握りしめたらこう、なるかなって感じで…?」


今一想像が追い付かない説明だった。聞いた事を纏めると、薬を飲んで三日程経ってからだったらしい。突如、空間が歪んだと言う。

それからだ、アマルの周りの空間が時々歪むようになったのだ。それも、日替わりで色々な歪み方をすると言う。


「捻じれたり縦にズレたり左右が歪んだりとか色々だ…そんな日が十日ほど続いたころに起きたんだ。」

「何が?」

「その時は何時もの様に空間が歪んで捻じれたと思ったんだけど、室内で別の風景が見えたんだ。」

「別の風景?」

「ああ、最初は遠くの風景が投影されているかと思ったんだけど。その風景から風が吹いてきたんだ。」

「…それはもしかしてワームホールって奴じゃないか?」


ワームホールそれは空間の位相幾何学的な構造で、簡単に言えば抜け穴の形をしたワープ装置だ。


「なるほど、そのワームホールを利用して脱出したのね。」

「ああ、風があるって事はもしかしてと思ってな。こいつを抱きかかえて跳び込んだんだ、そしたらこの町のどっかに出たんだ。それから二人で逃げて、隠れて…今日の朝に見つかって逃げ回ってたら、あんたにここに連れ込まれたって所だ。」


そういう事かと斎は考える。という事は今の状況から考えるとまだ追っている可能性が近いなと察すると、こういう時は…そうだと何かあった時の為の桂二が教えてくれた事を思い出しつつ、携帯に送ってくれたファイルを開く。


「ぶっ!!」

「どうした?」

「なっ何でもない!!」


開いたファイルを見て、タイトルで思わず噴いてしまう。『東哉でもわかる‼もしもの為の避難‼』とか書いているのだ。確かに東哉は突っ走って人の話を聞かないよなーと思いながらPDFをスライドして読んでいく。


「…運が良かった。偶然だが、時間が稼げるぞ。」

「どういう事だ?」

「この場所は一時的に隠れるにはいい所だって事だ。」


この町の植生はとても変わっている。以前にも話したが、街を覆う樹のほとんどは『珠木』と呼ばれる特殊な樹だ。その特殊性は、能力者の能力を阻害する効果だ。

桂二の書いてくれた緊急時のマニュアルによると、もし町の中で能力者に襲われたり追われたらまず樹の多い方に行くと、識者はともかく能力者の探知から外れやすいらしい。


「多分この場所はその珠木って樹で出来た空間だから見つかりにくいと思う。相手が一人なら、時間はかなり稼げる。」

「…わかった、でも応援を呼ばれたら見つかるぞ。」

「この場所は繁華街の真ん中にある公園だから長時間閉鎖は出来ないと思う、いくら何でもやり過ぎたらだれか不審に思う。…だから、今私達がやる事はどうやってここから逃げ出すかだ。」


少なくとも忌避の鐘が鳴った時点で増援がある可能性に斎は思い立つ。この公園が広く入り組んでいるからそう簡単に見つからない筈でも、能力に頼らない追跡方法はいくらでもあるはずだと考え、斎は一刻も早くここから出て桂二に連絡を取らなければと結論付けた。

二人はここからの脱出へと考えている中、二人の助けは意外な方向と展開を見せる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ