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いつもの日々に  作者: ルウ
異郷の逃亡者
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逃亡者と孤独を感じる少女

高見原 楼閣町中央通り公園


香住屋斎17歳、高校二年生。お茶を専門に販売している『かささぎ』という店の店長の娘。

兄は一人いて和風喫茶店『翡翠かわせみ』の店長。

成績は常に上位をキープしており、最近はトップ10を維持している。得意科目は数学と物理と理数系。将来は工学などを専攻して、それを生かした職に就きたいと思っている。

好きなものは、兄のいれてくれたお茶とプリン、そして…。




「あー!!」


夏休みも終わりに近づいていたある日。

香住屋斎はイライラしながら、公園に入っていたキッチンカーから提供されたクレープを食べていた。

彼女は最近の間の悪さと、友人たちの集まりの悪さにイライラしていた。

始まりは夏休み前、東哉と兄の喫茶店で会って自分の異変について相談しようと思ったのに、相談し損ねた事。

夏休み前の事件の時、彼女は生徒会長を追い詰めたあと何かに後ろから襲われた。気絶する直前、後ろをちらと見た時に透明な何かとしか言えないモノに殴られたんだとしか解らなかった。その時だ。殴られたからか、それともその透明なものを見たせいか頭の中で何かカチッと噛み合った気がしたのだ。

その後の展開は良く解らない、生徒会室で東哉に助けられたかと思ったら黒いレインコートを着た何者かに気絶させられて、気付いたら何もかも終わってたのだ。

その顛末は後で東哉に電話で聞いたのだが…。


「直接、感謝の言葉を伝えようかと思ったのに…何であんなふうになってたのか…。」


電話した時の東哉の様子から、何か悩んでいるなと察して相談になるつもりだったのだが醜態をさらしてしまっていた。東哉は東哉で自己完結して、いつも通り突っ走っていったし。


「他のみんなもみんなだ。浩二の馬鹿はともかく、天子も東哉も一体どこに行ったんだ!!」


浩二は夏休みが入ると同時に、北海道の親戚の家に手伝いで行くと言って夏休み丸々帰ってこないのは小学校のころからだから仕方がない。ただ今年は、東哉は思い立ったら吉日と言ってから音信不通、天子はちょっと用事で行ってくると言ってそれっきり。莉奈は…。


「みんな、どこに行ったんだよ…。寂しいよ。」


クレープを食べる。とても寂しくてイライラする。

夏休みももう終わる、それまで斎はいつも通りの生活をしていた。そういつものだ、勉強をして家の手伝いか兄の家の手伝いをして小遣いを貰って、東哉達とは違う女友達と遊びに行ったり、夜になったら家族団らんで食事をしてテレビを見てお風呂に入ってスマホ片手に眠りに入るそんな日常だ。

でも、彼女はそんな当たり前な日常に後ろめたさを感じていた。

自分と周りの人間に被害が及ぶことを恐れて姿を消した莉奈。

彼女を追いながらも、帰ってくる場所を作る為に強くなろうとする東哉。

自分の勘では陰で何かしている、最近何を考えているか解らない天子。

浩二はともかく、斎は周りが動いている中で…置いて行かれているような気もしていた。

その所為で自分も何かしないと、と軽い強迫観念に駆られたのだ。

そしてそれに拍車をかけたのが、今斎の左手にある珠だ。


「これもなんだかな。」


彼女の手にあるのは透明な珠があった。パッと見た目は水晶の球と見まごうものだがこれは違う。彼女自身が作ったものだから、これの材料は解ってる。

これの材料は石ではなく、純粋な水だ。

あの日、何かカチッと嵌ったような感覚の後、自宅のベットの上で目覚めた時に気付いた。

自分の中で何か知らない感覚があり、知らない力を操れる力を持っていたのだ。

手に入れた力は誠一と同じ水分子操作だが、彼とは違い身体の外の水を操る真逆の力。


「水を操れるのは解った。正確にはH2Oの水分子のみ…とは言え何に役に立つか解らないな。」


水を周囲にばれない様に水晶玉の様に使ってコンタクトジャグリング(物体を体から離さず意のままに動かすジャグリングの事)の練習をしているように見せかける。桂二から聞いた能力者である事の危険性から考えると、正体がバレるのが不味い気がするからだ。


「とは言え、あるものをこのまま腐らせておくのもなぁ」


貧乏性の斎は使えるなら何としてでも使ってしまわないと勿体ないと思う性格なので、この能力をどうにかして使えないかと考えていた。色々と試行錯誤はしてはいるが、最近では水仕事で洗剤を使わずきれいに汚れを落としたり、水を介した感知で美味しいお茶が簡単に入れられるぐらいだった。


「水に関係したものにしか出来ないなんて使い方が限局的なのか、それとも私の使い方がへぼなだけか判断がつかない…。」


だからこそ、東哉に相談してなんとか打開しようと思ったのに。

そう考えると、東哉に対して怒りがふつふつと湧き上がる。

そして、クレープを食べるのだ。




走る、走る、走る。


その人影は、その姿を消す様に駆けていた。いや正確には、瞬間移動する様に駆けていた。

高見原の樹に囲まれた入り組んだ迷路のような空間を縦横無尽に飛び跳ね、駆け巡っていた。

昼にも拘らず樹々が生み出す薄暗闇は、彼の着た暗色系の服を見えにくくしていた。人影は路地裏に積まれた謎の木箱の陰に滑り込む様に隠れると、ヘーゼル(ハシバミ)色の瞳が周りを油断なく周囲を警戒する。荒れた息を落ち着けるように深く深呼吸を二度・三度したところで体を強張らせた。

砂を踏みしめる音が聞こえたのだ。

人影は身体を隠すように、さらに木箱の影へ身を潜める。

金属がこすれる音とザッザッザッザとリズムよく歩く足音が、人影が潜む木箱へと近づいてくる。それから逃れるように人影は身体を抱きしめるように縮こませた。

ゆっくりと近寄ってくる足音、それは突如木箱から少し離れた場所で止まる。

そこには黒を基調とした、ゆったりとした服にジャラジャラと鎖を身にまとった男がいた。


「諦めろ。それを返して戻るんだ。」

「い、いやだ!! 返さない、帰らない!!」


人影は何か大切な何かを抱きしめて弾む様に影から飛び出す。


「逃がさん!!」


足音の主は体に巻き付けていた鎖を投げる。それは普通に投げた起動ではなく、蛇が獲物を追うような意志を持った動きだった。

追う鎖を人影は路地裏の壁を蹴って、ピンボールの様に弾み避けていく。


「くっ固有能力が厄介なっ!!」


鎖の男は顔を歪めながら埒が明かないと、一本また一本と鎖を増やしていく。


「我々から逃げられると思うな。それは世界を変革する為に必要だ!! 絶対に返してもらう!!」

「知らない!!」


鎖が迫る跳んだ瞬間の人影の足に迫る、人影は捕まるかと思った瞬間捕まりそうになった足とは逆の足で鎖を蹴る。迫る鎖の勢いと蹴った足の力が合わさったためか、逃げ回る以上の力が出て大きく吹き飛ばされる。


「しまった!?」


噴き飛んだ方向は路地裏の出口、そこから先は広い公園だ。逃げられる可能性が高いのを気付き、鎖の男は走り追いかけた。

奇しくもその跳んだ先は、楼閣町の中央通り公園である。


「うおっ!? なんだお前は!?」

「早く逃げろ、巻き込まれる…ぞ。」


そして能力者同士は巡り合う、誰かが仕組んだ様に。


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