幕間 桃山の願い
パチパチと火が爆ぜ、火の粉が舞う。
四方には竹が立てられ、紙垂がたれた縄が掛けられてた。よく見ると紙垂には細かい神代文字がビッシリと書き連ねていた。
そのしめ縄の中心には木が組んであり、その上には子供の死体が並べられていた。
岐阜県山中 桃山財閥研究所 儀式場
そこは紫門が調査していた山の中の建物の中心になる場所だ。四方を建物の壁に囲まれた中庭と言っても良い位置。壁には梵字が魔方陣の様に書かれて渦を巻いている。
そして子供たちの死体が焼かれている横では、白髪交じりの髪をオールバックにした黒い狩衣を着た男が手で印を組み何かを唱えていた。
「………。」
その声は人に耳には言葉と認識されない奇妙な音で、耳に入ると何故か頭で理解してしまう奇妙な音だ。
音と共に炎が踊り、火の勢いが増していく。
炎が渦を巻き、纏まり色を変える。
鮮やかな赤から、清廉な青へと変わり、神が放つ白き輝きへと。
「………!!」
光がうねり、渦巻き、踊る。
そんな神懸かったような光景にを見下ろす影が一つ。囲む壁の一画にガラスの窓があり、そこから見下ろすスーツ姿の初老の男がいた。後ろ手に手を組み、厳めしい顔で冷ややかに見つめる男の名は桃山国彦。桃山財閥の一手を取り仕切る、この界隈では『怪腕』と呼ばれる事業者だ。
その彼の後ろでは、白衣を着た研究者達がモニターに映る情報を観測しながら分析を行っていた。
「空間内のエネルギー増大!!」
「『儀式』による空間歪曲炉は安定。」
「エネルギーの回路構成は安定、回路上in spatium合成が…異常発生!!」
「共鳴場が発生、儀式場に不確定の歪曲場が発生します!!」
実験は途中まで順調だった、しかし突如として起こるイレギュラー。それを見て国彦は声を上げる。
「実験の中止!! 『結界儀式』を維持して、『生成儀式』と『発雷儀式』のライン供給をカットしろ!! 壁面の加速紋を減速紋へ変更、エネルギーをゆっくり落とせ!!」
空間内のエネルギーが高まっているこの状況での異常はかなり危険だった。儀式場に集約されているエネルギーの総数は、原子炉並みに高まっている。それを、空間を歪曲させる儀式により中に留めている状況で、留めている歪曲空間に対して別の歪曲場が発生するとどうなるか。
歪曲した空間に歪曲した空間をぶつけるとどうなるか? 状況や条件によって異なるが、大体は位相を中和し消えるのだ。すると原子炉並のエネルギーが集約され高まったモノは、一気に吐き出される…、要するに爆発だ。
「バランスを崩すな。今の状態を維持しながら落とすんだ。ここ一帯が吹っ飛ぶぞ!!」
「位相中和で空間歪曲が低下していますが、45%は維持何とかなります!!」
「エネルギー低下、in spatium合成が規定通りに行きません。」
「目的物質の生成失敗、『賢者の石』が生成されます。」
儀式場の炎が収まると、そこには闇と木と死体が燃えた煙が周囲に漂い。燃え残った灰の中には緋色の金属が、リングの様に固まって幾つも落ちていた。
「今回も失敗だったか。」
「申し訳ありません。」
ソファに座る国彦会長に前には、狩衣を着た儀式を行っていた男が研究員と共に深々と頭を下げていた。
「謝罪はもういい。それより実験の失敗は何だ?」
「前回と前々回の結果と同じ『ノイズ』が入っていると考えられます。」
「精神波の維持の混入によるノイズか…ノイズフィルターやノイズキャンセリングの開発は出来ないのか?」
「無理です。外からのノイズならばそれで何とかなるのですが、内部からのノイズなのです。」
「内部から…か。やはり、お前の能力の弊害か。各務、どうかならんのか?」
そう言うと一番前にいる狩衣姿の男が悔しそうに顔を顰めて黙り込んだ。各務と呼ばれた狩衣の男、彼は風文や紫門が追っている研究の主軸を担っている男だ。
彼の能力は第三部隊の人間が予想していた通り『増幅』。その名は『残響』と言う、あらゆるエネルギーを伴った事象を過去から復元し増幅させるという能力だ。
今回は能力を使い、以前の儀式を再現する事により目的の物を生成する予定だったが材料の死体の残留精神波まで増幅してしまったため、それがノイズとして儀式を邪魔して不安定化したのだ。
「どうもなりません。能力者の発動中枢は、脳内に液体化した賢者の石と演算野にあります。演算野は脳の各部分に渡っている為にどうしても精神と結びついてしまいます。」
「そうなると切除もダメか。薬物は?」
「それもダメです。そもそも精神と能力が結びついてる為、薬物を使った時点で出力が低下して使い物になりません。」
「能力亢進が精神と結びついている…か。」
「そもそも能力自体が脳全体に根付いてる為、脳を器質的に改造するのは不可能に近いです。」
桃山国彦には作りたいものがあった。
それは連綿と続く桃山の家に伝わる言い伝えであり、親から子へと伝わる継承された宿命であり、国彦が幼少から刷り込まれた命題である。
作りたいもの、それは。
「…他にも、この場所ではダメなのかもしれません。」
「どういう事だ!?」
「会長が求めるものは、そのモノを作り上げた場所が必要なのかもしれません。」
「作り上げた場所…遺跡か。」
「はい、アレを作るには必要なモノがいくつか足りません。」
各務がしたり顔で伝えた事は、国彦が欲しいものを作り上げるには足りないと言い出した。
事実、今の段階までなる為にかなりの研究を重ねていたのだが、研究度は進行の二割ほどでしかないのだ。
そもそも、この話が始まったのは高見原村長宅の倉から見つかった進化計画書と共に見つかった舎人の手記から知れた高見原地下遺跡。
そこから高見原地下遺跡を見つけ、石板に書かれた文章を読み解いた所から始まった。
「数十年前から始まる研究ですが、現物か設計図。少なくとも材料が何か解らない限り研究が手探り状態になります。ここまでやってきましたが、基礎研究から先が見えないのです。」
「ならば、やはり。」
「はい、何かしらのブレイクスルーの為に新たな『遺跡』を見つけるべきです。」
各務はそう言うと国彦に新たな方針を取るべきだと提案した。
それに国彦は、仕方がない…かと頷いた。
「ならば、その方針で行こう。各務、見つければ何とかなるのだな?」
「はい、私の研究者のプライドにかけて貴方の、桃山一族の願いをかなえて見せましょう。」
「頼むぞ。我らの…いや、この国だけではない世界を導く神を!!」
「作り出すのだ!!」




