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いつもの日々に  作者: ルウ
幕間 修行
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幕間  調査と試練

日本 岐阜山中


背丈ほどの草と低木が視界を塞ぐ、見上げればひのきや杉が立ち並び森の中の光量を下げている。

そんな鬱蒼とした森の中、道なき道を歩く男がいた。歩みの先に茂みがあれば掻き分け、一歩一歩確実に歩く男。

彼の姿は森林迷彩の上からギリースーツを纏った男だった。

唐突に男は地面に伏せ、周りを観察する。

よく見ると地面にある動物の足跡、周りを見ればそこは動物の通り道なのが解る。そして動物がかかりにくい高さに張られた細く見えにくいテグス。

しばらく緊張感に包まれる周囲、男は取り出したナイフで土を掘りだすと、そこからは糸に繋がった金属の棒が埋めてあった。


「またブービートラップか、これで6つ目。」


男は埋め直して、糸を辿る様に下がると『木の中』に潜り込む様に入り込む。姿が消える直前、紐を勢い良く引いた。

途端、埋めてあった金属の棒から勢いよく吹き上がる火花と煙。連鎖する様に近くに埋めてあったのだろう、先ほど男が言っていた通り6個所から同じように火花と煙は吹き上がっていた。

それを見てきたのか茂みを掛け分けるように走り寄る音が聞こえる。少し待つと森林迷彩を着た男と同じような迷彩を着た男達が六人集まった。男達は同じ服を着て、同じ装備そして同じ小銃を構えながら現れた。


「おい、誤作動か?」

「多分な。いや獣かもしれん、見ろ。獣道に仕掛けたトラップに繋がる糸が少したわんでいる。」

「トラップの感度高すぎないか?」

「イノシシが出るから、猪除けも兼ねてるんだ。材料が発煙筒とテグスだけだからコストも良いからな」

「仕掛け直すのも面倒じゃね?」

「それが俺らの仕事だ…。」


男達は再びトラップを仕掛け直すと帰っていく、その姿を見送った後ギリースーツを着た男が先ほどとは違い地面から生えるように現れた。


「こっちの方向か…。」


男は階段を下りるように地面に沈み込んでいった。




発煙筒で作られたトラップから離れる事1km、それはあった。森の中に切り開いた敷地似建つ建物。そこそこ広く太陽が当たる壁は一面ガラスで、白く高い壁に囲まれている。

先ほどの男達はここから来たのか、塀の外にあるプレハブの監視小屋に六人が入って行くのを男は見ていた。


「…ここにも結界、迷路のように張り巡らせている。思惟が使う奇門遁甲とは違う種類の結界か…。壁にあるのは、魔方陣? というよりは西洋系の儀式『ケルト迷宮』の可能性が高いな…。」


建物から少し離れた高い木の真ん中程から頭と腕だけ出して、男は双眼鏡を覗きながら呟いた。虱潰しに探っていくと更に見つかるのは様々な神話体系の儀式が見つかる。インド系のサンスクリット文字を使った天部の守護領域、神道系の神域、中華系の遁甲陣、その他三つは見つかる。

男は双眼鏡から目を離すと、要塞化してると心で呟いた。

一つの地域に及ぼすほどの系統が違う複数の『儀式』、はっきり言って正気の沙汰じゃない。いくら解明されつつある技術と言えども、いまだに解らない部分が大半の『儀式』をこんな風に使うは何を考えているんだと悪態を吐きたくなる。どんな相互作用が起きてしまうのか解らないのだ。

以前起きた『谷影村消失事件』を知ってる人間ならば簡単に手を出さない筈なのだ。

十数年前、霧島一族が住む村が一晩にして消えた事件がある。表の世界には緘口令がしかれ情報が回っていないが、調査に行った男は今でもあの惨状を覚えている。

巨大なスコップで村ごと削り取られ、何もかも無くなった大地。その周囲は爆撃にでもあったかのような村の跡地を中心に同心円状に吹き飛んだ木々。

調査して解った事と言えば、霧島一族が村の周囲を囲む結界儀式を刷新する為に新しい次式を導入したらしいという事。それを聞いた重金教授は、結界儀式と未知の儀式が合わさって1ns(ナノセコンド、一秒の十億分の一)で異界に飛ばされたのだろうと言う


「一寸でもバランスが狂えばここら一帯が異界に飲み込まれかねん…。」


下手に結界に手を出して肝心の情報が抜けないと思ったら、これ以上の調査は断念するしかない。記録だけでもとって撤退する事にした男は、数十枚の写真を撮ると空間に潜り込む様に男は消えた。




高見原中央区 サイファ警備保障高見原支社 五階 支社長室


「というのが今回の調査結果だ。」

「お前の予想じゃ奴は此処にいると思うんだな?」

「恐らくな。追跡調査を重ねてようやく見つけた痕跡が、この場所の近くにある配送センターで消えている。周囲を探していると儀式の反応があったから探ってみればここがあったと言う訳だ。」


フムと鼻を鳴らしてソファーに身体を預けて写真を眺める風文。その前には来客用のソファーに座って、フレイアに淹れてもらったコーヒーを飲んで寛ぐ紫門がいた。

そう解る人はいたと思うが、ギリースーツを着て調査をしていたのは彼である。


「お前でも結界は越えられんか?」

「無理をすれば行けると思うが、谷影村の事件を調査した俺としては無理して出す気にはならんよ。中に入り込んだら違うとは思うが、そこに行くまでの準備が難しいな。」

「そこまでか。しかし、そこまで強固な要塞化までした建物…何かあるな。」

「ああ、もう少し別方面で探ってみるが…おそらく、直接乗り込む必要があるかもしれん。」


直接乗り込むほどの何か。風文は獰猛な笑顔を浮かべ、もしその時が来たら声を掛けろと紫門に言うと立ち上がり机の上に置いていたジェラルミンのアタッシュケースを持つ。


「どこかに行くのか?」

「天の浮舟だ。新隊員が脆弱だから異世界に行く。」

「………お前、手加減してやれよ? いくら精神的に合理的かつ揺らぎにくい能力者とは言えども若いんだから。」


新隊員と聞いて誰が連れていかれるか予想できた紫門は風文に苦言を呈する。


「まだ高校生ぐらいなんだろう、17くらいか? 耐えらないんじゃないか? 我らが主神様を経由してくる、よその世界の神の依頼はハードだぞ?」


色々な世界を旅してポテンシャルを引き出しスキルアップを行う『特別訓練』。それは世界の管理者であり主神である、天之御中主神を名乗る天中観星という少女が他世界の神からの依頼を受け、それを下請けである風文達が解決すると言う流れを称していうものである。

他世界にいる神からの要請は様々であるが、風文が受ける依頼のほとんどが荒事である。

例えば、他世界に自分の世界が管理する魂を持っていかれた、世界の壁に亀裂を入れられ何人か落ちた、連れていかれた、召喚されたなどが最近多くそれに対する対処もしくは報復の依頼が多い。


「お前の事だから国落としや、国崩しに手伝わせるんだろ? 人の生き死に耐えられるのか? 場合に寄っちゃその手にかける必要もある。やれるのか?」

「やれるのかじゃなくて、やれるようにならなきゃいけないんだよ。」


風文の言い分にそりゃ仕方がないかもしれんがなと紫門は苦笑いを浮かべる。


「俺らの隊は今から危険に飛び込むことが多くなるだろう、お前が今言ったように要塞の様な場所に行く機会もあるだろう。」

「ああ。」

「俺みたいに危険な場所にわざわざ飛び込むような奴や、奴らに復讐するって話なら仕方がないさ。うちの隊は基本、世界の均衡を護るのが建前だからな。だがな、あの娘は守るためと俺に言った。」


肩越しに語る風文に紫門は珍しいと笑みを深める。


「そんな相手には出来るだけしてやりたくなるのは、間違いか?」

「…間違いではないな、命の取り合いになった時に一番にやる事は自分の命を守る事だ。命を懸けてやるなんて馬鹿のする事だ。頭のいい戦い方ってのは、命を懸ける戦いにしないように立ちまわる事だからな。」

「そうだ。命を懸ける戦いは周りの事を考えていない自己中心的な馬鹿のする事だ。もし死んだらどれだけの悲しむ人間が知らないから愚か者だからだ。そんな時に一番危ないのが躊躇ためらいだからな。命を奪う事を恐れたら、自分の命を奪われる。」


それは風文なりの優しさだ。命をかけた戦いにおいて、お互いに命の危機にさらされる。そんな時に致命的になるのが躊躇いだ。躊躇った一瞬、その一瞬で生と死を分けることがある。

風文はそれをなくす為に訓練をすると暗に言っているのだ。


「…だけど、少し手加減してやれよ。俺らの時代とは違うんだからな。」

「解ってるさ。…ああ、それとだ一つ追加で探ってきてほしい事がある。」

「なんだ?」

「ここ数年の考古学学会を調べてくれ。」

「考古学? 生化学や遺伝子工学じゃなくてか?」

「ああ、ちょっと気になる事があってな。」


そう言って風文は扉に向かう。


「並行してやってる事があるから一月程かかるぞ。」

「かまわない、彼らの訓練が終わるのにそれくらいになる…頼んだ。」

「頼まれた。やり過ぎんなよー。」


そう言って風文は部屋を出ていく。その背中を見送りながら紫門は莉奈の先行きを案じた。


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