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いつもの日々に  作者: ルウ
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いなくなった訳

莉奈が東哉の前から姿を消してから、一週間経った頃。


あれから書斎に何度も行き、東哉は自分の疑問を払拭するものがないか探した。

しかし、理解出来ない文字列を何度見ても解るわけなく、なに一つ収穫はない。

莉奈を捜す手がかかりを掴めぬまま、ただ時間だけが無駄に過ぎ、焦りだけが東哉の胸に降り積もっていった……。




「ん……」


東哉は眩しさを感じ、意識が眠りの淵から強引に引き上げられる。

光の煩わしさから逃げるように寝返りをうつ、瞼を開けるとベットに、窓からサンサンと太陽の光が差し込んでいた。

季節的にまだ春だ、少し冷えた朝の冷えた空気にたいして直射日光は熱い。

温まり始める部屋の空気に二度寝する気にもなれない東哉は、諦めて起き上がる。


「くぅ〜、痛っ」


ベッドから降りて背伸びをすると、東哉の背中がバキバキと音を立て身体が軋む様に痛む。

ここ一週間莉奈を捜すため走り回っていた東哉は、全身が筋肉痛になっていた。

軋む身体を無理矢理動かし、身支度をさっさと終わらせると部屋を出る。

階段を下りてダイニングに向かうと、いつもなら東哉の母さんが作った朝食のから匂ってくるバターやコーヒーの香は全くしない。

ダイニングの前に立つも中からは人の気配はしない、扉を開けて中に入るも、そこには一週間前にあったいつもの日々の風景はなく、朝の肌寒い空気だけが部屋の中を流れていた。


「…………」


お湯を沸かし昨日買っておいた食パンをトースターに放り込む。

あまりの静かさにテレビを付けようとした東哉だが、もしニュースに聞きたくないニュースが出たらと考えてしまい見る気にならなかった。

インスタントのコーンスープにお湯を注ぎパンにバターを塗るとテレビもつけず、簡単な朝食を済ませていく。

部屋の中を時計の音と東哉がたてる音だけが響く。

食べ終わり食器をシンクに片付けると、学校に行く為に玄関へと向かう。

一足しかない靴を履き、静かな玄関の扉を開けて出た。

振り返って見た家が何かを失って死んだみたいで、胸に言いようのない喪失感を抱え。東哉は、学校へ向かう。


「……行ってきます」


いつもの、だけど返事が返ってこないとわかっている言葉を残して。




学校に向かって歩いていると、後ろの方から浩二がやって来た。


「おっす東哉、おはよう!」


朝っぱらから熱苦しいほどの笑みを浮かべて、挨拶してくる。

それを見て東哉は何かを振り切るように溜め息を吐き、ヤツを放置することを選択し足早に去った。


「おぃぃぃ!?何で鬱陶しいもの見た様な顔をしておいていくんだ?」


足早に歩き去る東哉と、追う鬱陶しい浩二。

しばらく黙って歩いていたがはたから見たら楽しそうな追いかけっこだと気づいた東哉は、次第に歩く速度が走る速度へとギアチェンジされていく。


「てめっ、お前が寂しがってんじゃねえかと人が心配して気を使ってやってんのによ。なんだその態度は?」

「やかましい!!人の心配なんぞ、お前のキャラじゃねえだろうが!!一回、鏡で自分の顔を見てみやがれ!!」

「何だとてめぇ!!この俺の鬱陶しい性格なら解るが、ハンサムなこの俺の顔をけなすな!!」

「突っ込むところが、おかしいだろうが!!自覚してんなら付いてくるな! この猿顔‼ いや猿‼」


そんなやりとりをしながら、二人は並んで学校へ向かって歩く。




教室に着いたら既に天子と斎が来ていて、入って来た二人に気付くと声をかけてきた。


「おはよう。東哉、浩二」


「おはよ〜、二人共。朝から仲がいいねぇ…何で二人とも汗だく? 一部の人へのご褒美?」

「聞くな…てか、一部の人って…?」

「知りたいかな?」

「やめときます…」


天子が意味深に笑っていたが、東哉は何もなかったかのように聞かないふりをした。この墓穴は多分地獄に続いている。


閑話休題


「そういえば〜、明後日林間学校だけどみんなちゃんと準備してるかな?」


天子が皆に聞くように見回しながら言った。


「……林間学校って?」


東哉の信じられないような言葉を聞いて三人は驚いていた。


「いや、先週ぐらいに先生が言ってただろ」

「あ〜、ど忘れしてた」


髪を掻きながら東哉が言うと三人共『まあ、しょうがないか』という顔をしていた。


「まったく、あんたって奴は……そうそう話が変わるけど。東哉、あんた隣のクラスに自称情報屋って人がいるんだけど、莉奈の話聞いてみる?」


斎が何だか怪しい情報を言ってきたが、正直今は藁にも縋りたい気持ちの東哉には効果てきめんだった。とても興味を引いていた。


「そんな奴がいるのか?」

「正直うさん臭いとは私も思う。だけど、伸ばせる手はなるだけ伸ばしたいじゃない?」

「…そうだな、一応昼休みにでも行ってみるか」

「それじゃあ、私も行くよ。名前だけ教えても誰かわからないと思うし」


ちょうど話が一段落した所で始業のチャイムがなり、皆はそれぞれの席に戻った。




午前中の授業が終わり昼休みになると、東哉と斎は急いで隣のクラスへ向う。

昼休みに入りごった返す廊下を進み、組の前に来た時ちょうど誰かが教室を出ようとしていた。


「東哉、この人」

「……ん?」


斎が目の前の男子を指差す。

指を差された男子は急な出来事に困惑の表情を浮かべていた。


「えっと、急にゴメン。俺は船津東哉ふなつとうや。……七瀬桂二(ななせ けいじ)君だよな?」


謝罪と自己紹介をすると、その男子は東哉の顔を見て何かを納得した様だった。


「あぁ、俺が七瀬だが……そうか、あんたがあの船津か」

「ん?俺の事を知ってるのか?」


話したのは今回が初めてだった。なのに探る様な目で、興味津々な笑顔で見てくるのだ、何故だと不思議に思い東哉は聞いてみた。


「そりゃあお前、多くの男子達から怨嗟の声が俺の耳に入ってくるからなぁ」


笑みを浮かべながら答えた七瀬、男子から恨まれる理由がわからない東哉は疑問しかない。

考えてる事が顔に出ていたのか、そんな東哉を見て七瀬は彼の肩をたたきながら更に笑みを深めた。


「まぁ、知らない方が幸せな事もあるさ。それで俺に何の用だ?」


肩を軽く叩かれ疑問を流されたが、それどころではない東哉は逸れていた話を元に戻したから文句は言わず事情を説明した。


「……なるほど。それで俺の所に来たって事か」


俺の説明を聞いたは納得したのか、頷いている。


「あぁ、何か知らないか?」


正直情報屋といっても同じ高校生なのだから、たいしたことはないと東哉は思っていた。

しかし、彼の予想は思いっきり外れる、いい意味で。


「それがな、ちょうど友人からの頼みで調べてたんだ」

「……えっ?」


まさか自分達以外にも他人に頼んでまで莉奈を捜している人がいる事に東哉は驚いた。


「まぁ、誰なのかは伏せさせてもらうけどな。それで、調べてたら目撃情報が昨日入った」

「本当か!どこでだ!?」


思わぬ情報に、七瀬につかみ掛かりそうな勢いで聞いた。


「少し落ちつけって。場所は明後日ある林間学校の近くだよ……まぁ、この情報を信じるかどうかはあんた次第だけどな」


それだけ言うと七瀬は掴んでいた手をやんわりと外すと、意気揚々と歩き去って行く。

微かな希望の光、それが見えたのが嬉しくて、少し肩の力が抜けた。




放課後、東哉は莉奈をまだ捜し回っていた。有力な手掛かりは聞いたがそれはそれである。その途中で、ビルの工事現場の前に来ていた。

東哉はあの時の光景を思い出す。


落ちてくる鉄骨、突然の事で動けない莉奈、そして触れた途端折れる鉄骨。


ここには何か手掛かりがあるのではないかと思った東哉だが、解り切った事だがこの場所には特に何もなかった。

あの時莉奈に向かって落ちた鉄骨が急に折れた。上に何かがあるかと見たが、あるのは樹の枝葉で蓋がされた空。この場所が関係していたわけじゃない、普通鉄骨はあんなに簡単には折れない。

そう考えると…それじやぁと東哉が考える。


「……それじゃあ、莉奈が?」


莉奈の周囲の鉄骨だけ折れた事。

莉奈が逃げ出し、行方をくらませた事。

この点を考えればそう思ってしまう。

ありえない事でも、もしもと言う仮定だと辻褄があう。

しかし、あんな現実離れした事を莉奈がどうして出来るだろうか?

考えれば考えるほど東哉はありえない事にたいしてまさかと考えつつも、常識として否定し底のない沼に沈んでいく様だった。

思わず溜め息をつき喉も渇いた東哉は休憩がてら、近くの自販機で缶コーヒーを買う。

タブを上げ開けると煽るように一気に飲み干し、持っている缶を握り潰す。


「……ふぅ」


一息つき、もう一度あの状況を思い出す。

鉄骨が莉奈に落ちて来て、それが直前に折れて……。


「っ!?」


鉄骨が折れた所をイメージした瞬間。

俺が握っていたはずの缶が、抵抗もなく一瞬にしてにサァッと崩れた。

俺は何が起きたのかわからず掌を見つめるが、やはりそこに金属の粉が手にこびりついていた。


「……何がどうなってんだ?」


微かな希望と今起こった事に対する疑問に挟まれながら、東哉は困惑と焦燥の中で林間学校までの時間は過ぎていった。


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