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いつもの日々に  作者: ルウ
幕間 修行
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インターバルと言う名の修業回 後編

莉奈が部屋から出た後、男が入ってくる。いつもの胸元を空けネックレスを掛けたチャラい恰好ではなく、首元を詰めたシンプルなジャケットを着た精悍なものとなっていた。至って真面目な格好だの桂二である。


「あれ明日香さん? 依頼で来たんですか?」

「そーよ。いくら恩人とは言えあの人、私を良いように使い過ぎだとおもうのよ。」

「はは、すみません。でもこれ必要な事なんで…それで頼んでた予備のグリモワール『エンサイクロペディア』知りません? 装備科の繰生くりゅうさんが量産機で組んでみたって聞いてきたんですけど?」

「え!? あー、ごめん。」


明日香は先ほど渡してしまった本を思い出して、不味ったとやってしまった様な顔をすると謝り、先ほどの一連の話をした。


「えー、莉奈さんに俺の予備になる魔導書を渡したんですか?」

「ごめん、今から地獄に行きそうな子を見てたら手を貸したくって。」


そう言われると桂二も仕方がないかと少し納得する。実は桂二も特別訓練に参加した事がる。その時は少し特殊な方法で参加したが、それでもとてもキツイものだったのを彼は覚えていた。

そして思った事は、仕方がないなと諦めた。


「まあ、この間支給された和製のグリモワールの性能が良いからいいよ。」


そう言って桂二は腰に下げている、革とチェーンで固定された文庫本サイズの魔導書を叩く。


「こっちは儀式の制御やフトダマのダウンサイズされた支援用AIを組み込んでて仕様が違う。あっちは百科事典代わりに使ってるから、あってもなくてもいいから、あっちで使ってもらった方がいいかもね。ただ、かってにあげちゃうと装備科の方から怒られるのでやめてもらっていいですか?」

「ごめんなさい。」


正論で怒られて明日香は項垂れて謝った。それを見て桂二は目を眇めながら溜息を吐くと、仕方ないなと肩の力を抜いた。


「こっちで報告しておきますからこの件は良いです。それより菊理に会ったなら、言わなかったんですか?」

「言えるわけないじゃない? 私が145番だって。一番最初に実験台になって、暴走して広範囲を更地にして生き残っちゃったんだから…気まずくて言えないわ。」

「…。」

「なに、その歳の癖に繊細って顔は。」

「そんなこと思ってませんって。」


気まずく思っているポイントはおかしくないとは思ってはいる。


「東哉君や誠一君も元気そうなのは知れたし、天子ちゃんはなんか変な方向に行ってるけど強くなった。莉奈ちゃんは元気そうだけど…ね? 下手に言って昔思い出して抉れたら嫌だし。」


ついでに面倒くさいなと桂二は思った。


「だから、桂二君にお願い。」

「ええ、俺? 確かに色々頼まれてますからやりますけど…。」

「昔を振り返るのも良いけど。今の友達と悩むのも良いと思うから。」


そう言って明日香は黙る。皆より早く地獄から逃れた事に少し負い目を感じながらも、昔の皆を思っての言葉。そう聞こえた桂二は、解りましたよと改めて言葉にする。


「ありがとう。」


心を込めて言われた感謝に桂二は笑顔で返した。




超高速で迫る木刀の刃、それを天子は能力の目で見ながら跳んで躱す。その先は空中、切り立った崖が向かい合う谷の中空だ。

逃れた木刀は空を切るが、それでは終わらない。崖に垂直に立つ白銀のレインコートの男は、天子と同じように宙へと跳んだ。

二人は同時に宙に浮く、薄っすら谷に立ち込める狭霧の中に張り巡らされた細い透明な糸の上に二人は立っていたのだ。

立っていたのは一瞬、天子は面食らったように木刀を真横にして掲げると木刀が当然現れたかの様に叩きつけられる。


「ぐっ!!」


余りの衝撃に木刀を取り落としそうになるが、耐えて受け流すように滑らせるとそのままの勢いで切りかかる。狙いは胴、だが白銀のレインコートを着た男は幽霊の様にスッと避ける。それは神技と言わんがばかりの究極の見切り、風圧ですら躱し切るミリ単位での回避。それ故に当たったはずなのに幽霊を切ったかのような錯覚を起こさせる。

普通そんな事が起きれば動揺して次のアクションが数瞬遅れるのだが、天子は今回の修業でこのような事は日常茶飯事だ。幽霊と戦っている様で一方的に叩きのめされている数日間を脳裏に浮かべながら天子は踏み込み、体を捩じりこむ様に蹴りを放つ。


霧島神道流 足技 『稲光』


踏み込みと同時に前に蹴る技だ、励起法により強化されたその蹴りは槍のごとく伸び白銀のレインコートへと迫る。


「ごっぶっ」


天子がようやく捉えたと思った瞬間、彼女の腹に同じように蹴っている白銀のレインコートから伸びる足が突き刺さっていた。

と同時に蹴られたところから突き抜ける衝撃、口から肺の空気が出てしまい腹にある神経叢を抜けた衝撃のせいで体が硬直する。


まずい、早く、励起法で、復帰を。


そう考えても遅かった。

白銀のレインコートを着た男は細い糸の足場に蹴った足で踏み込むと、腰だめに持っていた木刀を抜き放った。

それは彼女が誠一に放った技に似通っていた。


「剣連舞・落雷改」


左右の連撃からの足技の蹴り上げからの浴びせ蹴り。

手加減してくれているのだろうギリギリでガードが間に合ったが、最後の浴びせ蹴りはとても強くあまりの衝撃に足場を踏み外し。


「あっ…。」


落下した。

薄っすらと立ち込める狭霧で高さが解らないが、ここは50mから100mの谷間に作られたこの修行場。その真ん中あたりで足を踏み外した天子の顔は真っ青だ。


「う、うわわっ!!」


慌てて近くの糸に手を掛けようとするが、残念手の長さが足りない。空を切る天子の手、子の高さであれば最大深度の励起法で五点着地すれば無傷で何とかなると彼女は覚悟を決めていたら手を掴まれた。


「戦いの位置取りが上手く出来ていない。最後の『稲光』は良かったが、励起法の余剰エネルギーによる物質強化の『雷纏らいてん』の精度が低いせいで踏み込みが遅くなっていた。」


平坦な声で見上げれば、白銀のレインコートのフードから見えるのは無精ひげが伸びた精悍な顔の青年だった。そのまま引き上げられ抱えられると、所々に張られている糸を使って谷底まで着地する。


「ありがとうございます先生。ところで、いつも言いますけど身だしなみはしっかりしてください。」

「ああ、そうだな。最近忙しくて忘れていたんだ。」


そう言って天子を谷底に下したのは、190㎝位の長身細身で無精髭が伸びているにも拘らず誰が見ても二枚目と振り向く程の美男子っぷりを持った青年だ。

彼の名前は霧島葵きりしまあおい、今は亡き霧島神道流を伝える能力者集団・霧島一族の生き残りの一人だ。


「今言った通り、熟練度が足りない所が多い…が、教え始めてから数年で此処まで出来るなら十分だ。」

「ははー私も伊達に特別訓練行ってませんよ。」


天子は一瞬、焦点の合わない遠い目をして乾いた笑いを浮かべてしまう。彼女も実は特別訓練こと異世界巡りを行った事がある。その時は色々な事が出来ないとまずい事があり、様々な事を出来るようになったのだ。


「それでも、まだまだなんですね?」

「そうだ、そもそも神技とも言われるような技を使えてから普通。息をするように無意識に出来るようになって特級くらいだ。」

「それって、一生無理なんじゃ?」

「また異世界行くか?」

「丁重に辞退させて頂きます。」


再びの特別訓練の誘いに天子は深々と頭を下げて拒否する。思い起こすのは修羅の如き訓練と戦いの日々だ、力を欲してはいても人間性と引き換えにするのはちょっとと天子は拒否をする。


「ならばどうする? 地力を上げるにはあとは地道な訓練しかない。」

「そこで何ですが、私は先生に教えて貰いたいことがあります。世間一般で言う『必殺技』をです!!」

「必殺? 君には色々な技を教えているはずだが? 『流刃』『群雲の雷』『連剣舞』『迅雷』『八雷神』適切に使えば大体の相手は制圧できるはずだ。」

「いやそうなんですけどね…。」


そう言って天子が話すのは先日学校であった戦いで見た誠一の技だ。遠目であまり見えなかったが、それでも暴走変異体を一撃で葬り去るあの技を見て天子は自分に足りないと思った。


「…『流刃』で斬ってしまえば同じじゃないか?」

「いやそうじゃなくってですね。」

「…むう。今は君が必要な技はないな…それこそ地力を上げるしか、いや一つあるな。」

「っ!! なんですか先生、教えてください!!」


迫ってくる天子を掌で押さえながら、葵は少し離れろとジェスチャーで伝えると少し遠くにある天子の身長程ある大きめの岩に向かって木刀を構える。

腰を少し落とした、その瞬間抜刀する。天子は一体何をしているんだろうと頭を傾げ見ていると。


「ええっ?」


ゆっくりと岩がズレて、斜めに真っ二つになっていた。天子が近寄ってみて見ると、綺麗な鏡の様な断面を見せた大岩があった。


「先生これは?」

「『流刃』は元々神道流の各流派にある技だ。それはいわゆる基礎でしかないが、霧島神道流ではその発展形として『雷鳴』と言う衝撃波を線として打ち出し離れた対象を斬り裂く技だ。儀式技の中では中間距離で使う、調整して使うと衝撃波だけを打ち出して吹き飛ばす事も出来る。…覚えるか?」

「!! お願いします!!」


これは使えると天子は喜ぶ。この技があればこの間ゾンビに囲まれた時に中間距離で制圧できるし戦術が上がる。

そんな風に喜ぶ天子に、葵は表情がない顔に薄っすらと笑顔を浮かべていた。




そうして百人百様、彼ら彼女らは力を付けていく。

彼らが持つ過酷な道筋を乗り越えるため、選んだ道を歩き切るため、自分の思い描いた未来を勝ち取るため。

それぞれがそれぞれの思いを抱えて、暑い夏は始まったばかりだ。


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