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いつもの日々に  作者: ルウ
女の子の冒険
86/174

女の子の冒険 リザルト!!

「総評の締めとしては及第点だ。」

「あうぅ。」


高見原中央区 サイファ警備保障高見原支社 五階 支社長室


支社長室のソファーでタブレットに映った報告書を見て、風文が言い放ったのがその台詞だった。タブレットを机に置くと、顎に手をやって溜息を吐いて言葉を続ける。


「まずは一つ、天子に頼り過ぎだ。まあこれは良い、天子に依頼したのが私だからな。とは言え頼りすぎなのは少し臆病過ぎじゃないか?」


そう言われると支社長デスクの前に立っていた莉奈は恐縮するしかない。ちなみに天子は来客用のソファーに体を預けながら、フレイヤに淹れてもらった紅茶を飲みながらそれを見ていた。


「二つ目、知識が足りない所が多々ある。目の付け所は良い、自分の攻撃手段が少ないのを自覚しているなら日々精進あるのみだな。」

「はいぃぃ。」


今回の事での問題点その一、莉奈の精神性はともかく攻撃手段が少ない事、決め手…要するに確実に仕留める『必殺技』めいたモノがないのに関わらず研鑽を怠っている事。自覚はあるみたいだが、手数を増やす事ばかりだったようだ。


「三つ目、もう少し情報ツールを使いなさい。今回の写真から読み取れることは結構多かったぞ?」

「えぇ、私解らなかったんですけど。」

「…はぁ。これ見てみなさい。」


そう言ってタブレットをクルリと回して莉奈に見せると、ピンチアウトしてその一部を見せる。


「調査班も気付かなかったから仕方がないかもしれないが、この部分を拡大すると。」

「…ん? これは魔方陣?」

「そうだな、猪の骨に隠れてはいるが魔方陣だ。それと奥には祭壇があるが、日本式の祭壇じゃないのが解るな?」

「…はい。これは?」

「それはブードゥーの祭壇だ。報告書に書いてあったから少し気付いていたのか思っていたが、偶然だったか。」


風文はハアとため息をつくと話を続ける・


「あれはアフリカやハイチの民間信仰、ブードゥーの伝統儀式『ゾンビパウダー』で復活した正真正銘のゾンビだ。」

「マジですかっ、本物!?」


思わず天子が反応して聞いてしまうが、風文は無視して話を続ける。

ゾンビパウダー、それは生ける死体を作るとされるブードゥーの秘術だ。表現としてはおかしいが表向きのゾンビパウダーは脳を壊す恐ろしい薬だが、裏の『儀式』薬では本当にゾンビを作り出す。


「ブードゥーのゾンビパウダーの成分は日本の死人返しに使われる『反魂香』と成分が似ていてな。天子が斬ったゾンビの肉片から似たような成分が出たから間違いない筈だ。それでだ、ゾンビの対処法は大体同じ、バラバラにして焼く事もしくはフレイヤの様に一瞬で吹き飛ばすかだ。」

「それが解ってなかったから?」

「当たり前だ。最初から気付いていたらそれを軸に作戦考えれるだろう? 最初の襲撃は仕方がないとは言え、神社に入る時にほとんど策なし天子の攻撃力に頼るとかないわ。結果的に上手くいったからいいものの、天子の殲滅力と偶然生き残ってた興水少年が居なければゾンビの仲間入りだ。」

「すみません…。」


そう今回は運がよかった。天子の殲滅力がなければ囲まれて終わり、偶然覚醒した興水少年が居なければ塀を越えた所で捕まってゾンビの仲間入りだったかもしれなかった。


「後、何で農薬なんだ…もういい奴があっただろうに。」

「それは、行く前にやってた勉強で禁止薬物の一覧を見ていたのでつい…。」

「…やっぱりもう少し力を付けさせるべきか…よし、特別訓練を明日から行う。装備科に行って装備を整えて来い、フレイヤ連れていけ。」

「了解しました。」

「え、ちょっと。特別訓練って…フレイアさん、まって。説明を、説明と拒否権をーーー!!」


そう言って莉奈は首根っこを捕まえられてどこかに連れていかれた。天子は『それはとても大切な事なのよ』と呟き、遠い目でそれを見送った。そして部屋に残るのは天子と風文の二人。


「それであの場所は一体何だったんです?」

「気付いたか?」

「そりゃあもう、ツッコミどころがある神社じゃないですか。ゾンビはともかくブードゥーはウケますって。なんでアフリカの宗教儀式が日本にあるんですか、反魂香も中国からだけどアフリカよりもましですけど神社には違和感しかない。最初に偽神薬がらみって言ってたのにそれに関する痕跡もないし。それと私を残すって事は、何かあるって事ですよねー。」


風文はニヤリと笑うと、ブラインドを降ろしプロジェクターを起動する。


「莉奈君が燃やした木、仮の呼称として反魂樹の燃え残りからこれが見つかった。」

「何か黒くてゴツゴツした小さな王冠みたい? なんですこれ?」

「君はまだ見た事なかったか…我々の脳内にある有機流体金属『賢者の石』は空気に触れると結晶化するんだ。それぞれの結晶の形は違うがね。」

「という事はこれが賢者の石の結晶ですか。」

「そういう事だ。そして反魂樹に埋め込まれていた男の顔を莉奈君に聞いて描いたのがこれだ。身元も解ってる。」


プロジェクターに映しだされるのは、男の顔写真とプロフィール。

君塚吉彦きみつかよしひこ35歳K県K市在住、独身無職・首都圏の体育大学を卒業するも就職に失敗。職を転々としてフリーターで日々の生活を繋ぐ。


「最後が…桃山薬品の治験に参加、風文さんこれって。」

「間違いないな。桃山が裏でやってる実験に巻き込まれた線が濃厚だ。その男の部屋の中で見つけた治験案内と日時をPMDAに問い合わせてもそんな治験はないと言われたらしい。」

「偽神薬の実験ですか?」

「多分な。元々この行方不明事件は桃山薬品の追跡で気付いたからな、何かあると思って君たちに調査を任せたんだ。」

「それでそちらは本筋を調査ですか?」


風文はニヤリと笑って肯定した。莉奈と天子がこの件に対処している時。第三部隊の本隊は桃山薬品の追跡と調査を続行していた。二面作戦だったと言う訳だ。


「まあ、こっちは罠だったから丁度良かった。」

「罠、ですか?」

「君の所の誠一がとどめを入れた能力者暴走変異体がでた。こっちは狼男だったが何とか隊員だけで倒せたよ。」

「大丈夫だったんですか?」

「死傷者はゼロだが重傷者10、軽傷者が20でた。3分隊ほど行動不能になった。」

「能力者の重傷は普通の人間で即死ですからね…でも死んでないなら。」


能力者は普通の人間と比べてかなり頑丈である。励起法で強化されるのはその人間そのもの、筋力や耐久力だけではなく瞬発力や五感、治癒力まで強化されるためちょっとした傷は傷にならず重傷が軽傷に致命傷が重傷扱いになる。

とは言え、傷付いたのは確かなので天子の顔は曇り、風文は怒りを飲み込んでいた。


「まあ、この借りは万倍にして返すとしてだ。君は今回の件でどうおもった?」

「正直なところ、力不足を感じましたね。力があればもっとスムーズに今回の事もスムーズに行けた気がします。」

「…そうか、では私の方から提案だ。君もそうだが全体の底上げをしたらどうだ?」

「底上げですか? 確かに必要ですね。」

「そこで君達にそれぞれに訓練先を斡旋しようと思ってね。」


風文がプロジェクタースクリーンに映すのはそれぞれの名前と訓練先だ。


「私は…先生が帰ってきてるんですか!?」

「ああ、中東の人身売買グループを潰してきたらしい。君は彼とだ。水上誠一は彼の師と。」

「思惟さんですか、以前お世話になったんで挨拶しとかないといけませんねー。」

「船津東哉は訓練メニューを更新して桂二と訓練。折紙彩は、体術はともかく知識が足りないから学園都市行きだ。」

「あーはは。それは仕方がないかな。彩ちゃんガンバ。」


自分も含めて色々試練が降りかかるのが確定した。が、彩だけは毛色が違う試練に天子はライバルながら心で手を合わせた、基礎勉強を短期間で詰め込まれるのはある意味地獄だから。


「あれ? さっき連れて行かれた莉奈ちゃんの特別訓練って、まさか?」

「ああ、上に連れて行ってから『世界』をまわってくる。」


それを聞いてマジかこの人と天子は顔を引き攣らせる。

「まさかアレですか!? 私も先生と一緒にやりましたけどかなりキツイですよ!?」

「今言ったメンバーの中じゃ一・二を争うぐらい能力値が低いんだ。ちょっとした荒療治さ。」

「異世界巡りは荒療治じゃなくて荒行です!! 莉奈を修羅の道に突っ込む気ですか!!」


莉奈が段々不味い事になってるんじゃないかと天子は頭を抱えながら東哉にどう言えば良いかと溜息を吐いた。


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