女の子の冒険 迎撃
神道流と聞くと、香取神道流(正確には天真正伝香取神刀流)と言う兵法が思い浮かぶ方が多いだろう。だが以前言った通り、能力者が使う武術のほとんどは、励起法や固有能力を前提とした技が組み込まれている場合が多い。
裏の世界の武術、日本では四つの神道流が能力者の武術としては有名だ。元々八つあったのだが、時の流れにおいて四つだけが残った。
一つ三剣神道流、剣術と弓術を得意とした武術。
二つ守部神道流、剣術と組打ち術を得意とした武術。
三つ水門神道流、剣術と秘器術(暗器術は中国の言い方となっているのでこちらにしています)を得意とした武術。
四つ霧島神道流、剣術と体術を得意とした武術。
この四つだ。天子はその内の霧島神道流を習得している。特徴は励起法と特殊な歩法による『超高速』三次元戦闘と、儀式を使った『切断』の技。
天子は空を駆けていた。それは例えとか比喩ではなく本当に飛んでいるのだ。正確には空中を走っていると言うのが正しい。
彼女が羽織る漆黒のレインコート。霧島一族の戦闘員が着る儀式を使って編まれた服、通称『黒霧』はあらゆるエネルギーを吸収するトンでも防御服だ。それは位置エネルギー運動エネルギーだろうが何でもだ。
それはどういう事だと言えば、起動した状態でこの黒霧を空中に置けば宙に置いたまま固定されてしまうほどだ。
天子はその性質を利用して、空中に固定した黒霧を踏切にして跳ぶを繰り返しているのだ。地上においては高速移動が出来る天子は、このような方法で空を駆ける。空中には障害物はない、目的地までの最短距離で駆ける姿は世界最速の鳥ツバメより早いマッハ2。
それはまるで流星の様だ。
「莉奈ちゃん。」
天子の頭にあるのは、昔の記憶だ。あの頃とても酷い生活、虐待されそれを守ってくれた背中の記憶。
あの頃の彼の背中に憧れた、彼の傍に居たい隣に立てるようになりたい、その為にも強くなりたい、そう思っていたし、今でも思っている。
そうであるならば誠一と同じような、私も大切な人を護れる自分でありたい。そう思っていたのだ。
だから、戦う力を持っているとはいえ莉奈を傷付ける訳にはいかない。
天子は木刀に仕込んである刀『波波木』解放の仕掛けを解くと鯉口を切る。キャンプ地が見え囲まれている莉奈とフレイア、一掃する為に少し手前に着地する。着地の衝撃で土煙が上がると同時に能力を起動、これで相手から見えなくてもこっちからは見える。
「ふっ!!」
一息で周囲を切り払う動作からの神速の八連撃。左右切上げの黒雷・火雷、袈裟切り逆袈裟の鳴雷・伏雷、胴・逆胴の裂雷・若雷、唐竹・逆風の大雷・土雷。
それを連続で行い周囲のゾンビを八体斬り倒した。
「霧島神道流『八雷神』。…莉奈ちゃん大丈夫!?」
近付くとポカン口を開けた莉奈と、表情なく周囲を警戒するフレイア。
「あ、天子。だ、だだ大丈夫!?」
「大丈夫だよ?莉奈ちゃんは?」
「わわ、私も大丈夫だけど、あなたひ、人をっ」
「ああ、大丈夫だって。多分こいつら人間じゃない。」
あっけらかんと言う天子に一瞬攻撃を忘れてしまう莉奈。どうもさっきの大丈夫は、人を殺してしまったかもしれないから大丈夫だったらしい。莉奈ちゃんはとても優しい子だね、と暢気に考えながら次々と寄ってきたゾンビ達を斬り倒す。
「ほら、斬った奴ら見て。」
「えっ、斬った切り口から黒い靄が出て崩れはじめてる。」
「多分こいつらの元は死体かもしれない。恐らくは死体から作られた何かだと思うけど…黒い煙…、もしかして反魂香?」
天子には、何となく解っていた。行きのトレーラーの中で見せられた神社の写真と、周囲に薄っすらと漂う死臭。それが彼女の師匠から聞かされたかつての事件と連想させられたのだ。
「多分よ。前聞いた事があった『反魂の術』、『死人返し』の禁呪が使われた事件と似てる。」
「死人返しって?」
「字面そのまんま、死人を返す。生き返らせるって事。以前聞いた話じゃ能力者の人が自分が死んでいる事に気付かず、斬られてから自分が死んでいる事に気付いて骨になったって。」
「うぇえ。」
天子が気を使って曖昧に説明したが莉奈にはきつい話だった。と言うか目の前の絵面も最悪なので、容易に想像できたようだ。
「それでこれどうすればいいの~」
「どうするって言ってもね、終わりそうにないよね。数減らないし、むしろ増えてる…フレイアさん大技行ける?」
「現在のエネルギー残量は約68%。状況から一回なら使用可能です。」
「ならやる事は一つ、合図したらお願い。」
莉奈の声を後ろに、天子は前に出る。左右にいたゾンビを切り払い回し蹴りで吹き飛ばすとさらに踏み込み、膝立ちで座り込んだ。
「ちょっと天子!! なんで座ってんの!!」
群がる敵を前に座り込む、まるで生贄か囮になるかの様なその行動に莉奈は目を剥く。
だがそれはちょっと違う、それは神道流が持つ技が一つ『圏』と言う自分の間合いに入った瞬間に対処する迎撃用の技。
「ちゃんと合わせてね…霧島神道流『雷圏』。破れるものなら破って見せなさい!!」
裂帛の気迫と共にゾンビを挑発すると、今まで三人に群がっていたのが天子一人へとターゲットが集まる。
「天子何考えてるの!!」
「莉奈さん大丈夫です。」
「大丈夫って、いくら天子でも、一人じゃ!!」
「大丈夫です、見てください。」
淡々としたフレイアの言葉に従って見れば、天子の周囲にはゾンビが一定の間隔をあけて倒れていた。ドーナツ状の空白地帯、それを一歩でも越えるとゾンビ達は足を切られて倒れる。飛びかかろうとすれば、刀で払われ座ったまま蹴り飛ばされる。それを繰り返す事により天子はゾンビを寄せ付けていなかった。
「でも、今でも増えてる。このままじゃ…。」
「そのための私です。私には四つのアーティファクトが装備されています。一つが雷の槍を打ち出す『サンダージャベリン』。二つ目が高出力プラズマで焼き切る『フレイムソード』、三つ目が空を駆ける事を可能とする『猫の戦車』、四つ目がその全ての兵装のエネルギー源『ブリーシンガメンVer.2』」
フレイアの右手が上がる、それに左手をそっと添えると両手の手袋がホウと仄かに光りはじめた。彼女の両手は見えない剣を握っている様で、その姿は女性剣士に見えた。
そしてそれと同時に、天子に群がるゾンビ達をさらに囲むように仄かに光輝く剣が現れた。
「四つのアーティファクトを同時に起動する事により私の切り札、私のオリジナルの兄が持つと言う剣の名前を頂いたシステム『ビクトリーソード』!!」
「フレイア!!」
天子の声に、フレイアは見えない剣を振り下ろす。
剣で作られた檻が一気に中心に向かって集まる、その隙間を抜けるように天子が脱出する。それと入れ替わる様に剣が突き刺さったゾンビが、中心へと勢いと共に集められていく。
「穿て!!」
中心に集められたゾンビ達に更にひときわ大きな輝く剣が大地に突き立つ。
「リリース!!」
瞬間、爆発した様な光と音。天子はフードを目深に被り防ぎ、莉奈は少し遅れて手で覆う。
雷が落ちた時と同じ、衝撃波が音速を越えた音だ。
莉奈は光に焼かれた目が回復するまでつぶっていた目を開いた時には、ゾンビ達の姿はもうなかった。
どころか。
「え、ええー。」
芝生は焼け焦げ荒れ地が見えており、天子がいた中心部は炭どころか何も残っていない。
というかちょっとしたクレーターの様になっている。
「あー、しんどい。でも何とかなった。」
「天子、大丈夫?」
「だいじょーぶ…それより、フレイヤさん周囲の敵性反応は?」
「ありません。おそらく生産中か打ち止めかもしれません。」
「そうだと良いけど。でもやる事は一つ。」
天子は左手につけた腕時計で時間を見ると11時30分を少し過ぎた所。
「莉奈ちゃん。まだいける?」
「いけるって…まだ何かあるの?」
「私今調査から帰ってきたところよ?? 消えた人間の行先がわかったのよ。そして分かった途端この襲撃。多分関係あるわ、だったらここからは時間の問題、相手が準備を整える前に叩く。」
「え、どこに?」
フレイアが持ってきたタブレット端末を持ってきて地図アプリを起動、元からピンを付けていた場所を天子は指さす。
「ここって、あの神社?」
天子はそうだと頷いた。




