女の子の冒険 急襲
莉奈が天子に捕まって、第三部隊に匿われたこの数か月。彼女にとって色々な事があった、そう色々。
まずは隠れ住んでいた時期に出来なかった能力者としての基礎知識や、行けない間の学業を補うための勉強としてサイファ学園都市へと送られた。そしてある程度の知識が付いた後は、現在どれだけ出来るかを見る為に第三部隊の訓練に放り込まれる。
莉奈にとっては前半はともかく後半は地獄だった。色々な訓練をした中でも一番辛かったのは数十キロの荷物を持ってコースはただ一直線と言う、三日三晩動き続けるトライアスロン形式の行軍だった。内容は詳しく言えないが、高低差を考えない直線で100キロの距離は酷いと莉奈は思う。
そしてもう一つの訓練もキツかった、それは単純だけど莉奈にはとても大切な訓練。それは、ただ避けるだけの訓練である。
その音に気付いたのは、いつもの訓練でよく聞いた音だったからだ。最初の訓練の後、隊長の風文は莉奈の成績を見て何を一番最初に覚えさせるべきかと考えた時にやらせたのが避ける訓練とサバイバル訓練だった。
最初はモデルガンとゴムで出来たコンバットナイフでの訓練だ。風文と一対一で行ったときはもう散々である、森林や遮蔽物のある場所でならともかく何もない芝生で、後ろからナイフを首に当てられたりモデルガンの銃口を後頭部に当てられたり。段階が上がる事で今度は光がない密室でやったりと、ハードな訓練を長時間続けたのである。
その結果が。
「あっぶな!!」
莉奈は尻もちを突き、頭に振り下ろされる鉈を回避する。その流れで横に倒れると同時に、後ろで鉈を振る男の足を狩った。もんどりうつ男に追撃をせず距離を取るべく、ゴロゴロと転がり少し離れた所で膝立ちとなる。
莉奈にとって避ける事と気配を察知する事は隊長お墨付きで自信がある。振り下ろされた直後の空気の動きで気付けたが、振り下ろされる直前まで気配を感じなかったどころか今でさえ気配を感じない。
薄暗い周囲が焚火に照らされ、ぼんやりと浮き上がるように見える相手は明らかにみすぼらしい恰好をしている。汚れた作業服に手拭いで覆われた頭、そこに見えるのは。
「ええっ!? もしかして、ゾンビ!?」
所々白い骨が見えた腐った頭部、口の周りは腐り落ちた場所から黄色い歯が見えている。
見た目は完全にゾンビ、腐った死体だ。
「うえぇ、臭いはしないけど見た目最悪。と言うか一体どこから。私の神域内で反応はなかったはず…見落としたか、突然現れたっ!?」
気付けば莉奈の神域の内側に気配のない何かが突然現れる、場所は真横。
「うわぁ!」
今度はジャージ姿の男が真横から鍬を振り下ろしてきた、莉奈は励起法を全開で足を延ばした反動をつかいバク転気味に避ける。しかし、莉奈の避ける先に再び反応、今度は二つ。
「二つ! 次から次へと何なの!!」
現れた影は袴姿とボロボロの服、前後に棒と太い木の枝を振るってくるのを、身体を捩じってタイミングをずらし避ける。そしてどんどん増えてくる人影。
「ヤバッ、多すぎる。このままじゃ。」
捕まってしまう、それどころかあまりにも攻撃的すぎる。どうなるかは火を見るよりも明らかだ。
だったら攻撃は最大の防御だと、莉奈は腰のポーチにつけていた唯一の武装を取り出した。
それは受ける為の革の両端に紐を通した、古代からある投石武器スリングだ。
地面に落ちてる小石を拾い、能力を起動。小石を中心に空気中の炭素を使った簡易的なかつとても硬い石をセットし振りまわし打ち出す。
小石を中心に周囲が格子状になったダイヤモンドの塊がゾンビの一人を打ち抜く。励起法で強化された鞭のように打ち出されたダイヤモンドの塊は、ゾンビの胴体に当たると銃弾よろしく突き抜けている。
「うえっ、もしかして私の能力じゃ制圧できない!?」
とマズイと焦る莉奈は次々と小石を拾い、塊を作り出していくが塊は突き抜けていくだけで足止めにもならない。莉奈はさらなる手に出る事にする。
今度は空気中の窒素と酸素・炭素を使う不安定な物質、外側を結晶で中を液体にしたニトログリセリンだ。
「噴き飛べ!!」
投げると同時に莉奈は大きく後ろへと跳ぶ。
瞬間、爆発。
スリングで撃ち出したニトログリセリンの球が着弾、爆発したのだ。
「やった!?」
残念フラグである。爆発した煙の中から、爆発した場所が抉り取られたかのように吹き飛んだゾンビがバランスを崩しながら莉奈に近づいて来ていた。
これはマズい、何をやっても効いてない。恐らく死んでいるであろうから痛覚がないから怯まない、欠損しても大丈夫。
ゾンビやばい、道理で映画じゃあんなに強いわけだと莉奈は焦りながらもこの場を切り抜ける方法を模索していた矢先、雷の華が咲いた。
「えっ、この攻撃は!?」
見れば乗ってきたトレーラーを置いてある駐車場の方向に、黒のハーフパンツに白のチュニック、腕を出した黒のロングジャケットを羽織ったフレイアがいた。
「フレイアさん!!」
「莉奈さん大丈夫でしょうか?」
「え、ええ。大丈夫だけど、今のはいったい!?」
莉奈の疑問に返答するより前に、大きく跳躍して莉奈を護る様に前へと立った。そして右手を水平に出す、その手には肘まで隠す様な指抜きの手袋。綺麗な幾何学模様の文様が描いており、その文様に沿うように光が薄っすらと走る。
「サンダージャベリン」
抑揚もなくフレイアが呟いた言葉と同時に、複数の雷で形成された槍が周囲に浮かんだ。次の瞬間、その槍は撃ち出され周囲へのゾンビへと殺到し再び雷の華を咲かせた。
彼女は古代遺跡から発掘されたアーティファクトだ。この場合のアーティファクトとは、古代遺跡から発掘される高度な技術で作られた遺物の事を指す。フレイヤは北欧の古代遺跡で土砂に埋もれて発見された人形だ。
はるか昔、北欧神話の終末『ラグナロク』以前の話。
豊穣の女神フレイヤが黄金の首飾りブリーシンガメンを大地に住む小人(ドワーフと言う話もあり)に作ってもらう時、一晩自分の身体と引き換えにしたと言う。その時に作られたブリーシンガメン、その対として作られたのがこのフレイヤ人形だ。
ブリーシンガメンは元々黄金の装飾品だが、小人が妙なサービス精神で付けたのが外付けエネルギー供給用万能バッテリー装置。そしてそれを運用する為にお遊びで作ったのがフレイア人形と言う訳だ。そしてそれに武装を付けた、右腕の手袋型プラズマ操作儀式武器『サンダージャベリン』、左腕の手袋型プラズマ放射型儀式武器『フレイムソード』、両足の重力操作儀式装具『猫の戦車』。遊びで作った割にはかなり強力になった兵器である。
「本機に搭載された武装です。出力を70%で連続稼働していますが、問題が発生。」
「えっ、どういう!? ええっ!!」
説明も疎かに周りを見れば、ゾンビが増えていた。フレイヤが雷で倒したゾンビを引いたとしても30体以上、しかも今も増えている。
「こんなに一体どこから!?」
「不明。知覚範囲外から続々と増員されていると推測。周囲一帯に何かしらの儀式結界を感知。それが要因と示唆。」
どんどん増えていくゾンビ達、莉奈も倒しているが増えていく数の方が多い。このままでは囲まれて詰んでしまう。
「フレイアさん、本隊に連絡は!?」
「莉奈さんの最初の爆発の時点で連絡済み。増員に10分かかるそうです。」
「10分も持たないわ!! どうすって、ええ!? 今度は何?」
再び爆発、と言うか質量があるものが墜落した様な振動。目を向ければ、大きな土煙と、刀を振りぬいた黒いレインコート。
「天子!!」
「お待たせ!! 生きてる?」
猛スピードで戻ってきた天子だった。




