女の子の冒険 探索と急襲
いつの間にか知らない場所に入って一週間になる。治孝は座ったまま見上げると、彼を探すようにウロウロする男達。
あれから何が起きたか解らない治孝は、自分を探している男達を見ながらしばらく呆然としていた。そして自分が安全なのを確認した後、置かれた状況を段々と理解していった。
この場所に落ちた直後の動揺していた自分では解らないが、今なら解り始めた。
この空間は自分が作っている、どうも自分は接触した部分の空間を別の次元まで膨らまし入り込める事が出来るらしい。自分が何でこんな能力が使えるかは解らないが、ともかく助かったと思ってこの状況をから抜け出せていない事に気付いた。
上を見ればずっと自分を探し続ける男達、出る方法は何となく解るが出てしまえば捕まって何をされるか解らない。男達がいない場所で出ればいいのだが、どうも自分はこの空間を作るだけが精いっぱいで、この空間を動かせないので無理がある。
こうなったら男達が居なくなるまで根競べかとこの空間に籠る事約一週間、完全に予想外の長さである。食料は背負ったリュックサックに大量に入っていたし、水は持っていたペットボトルと空間の端が池に繋がっており、そこから手を伸ばして水を取っている。
そうして時間が経つにつれ、どうやって逃げれるか男達を観察している内にある事に気付く。
男達の数は減っているが、一定の数までは少なくならない。一番多い時で30人近く、少ない時で10人。しかも、常にいる人間は見るたびに同じ人物だった。
そして、もう一つ気付いた事がある。それが、彼がここから中々出ることが出来ない理由だった。
深夜の森。その森は管理された森であるせいか、とても杉の木が多い。その杉の木の幹を蹴りながら、猿以上の動きで跳び回る影。それは漆黒のレインコートを着て、夜闇の森を無音で跳び回る天子だった。
「あー春ごろのここら辺は花粉症の人は地獄だよねー。」
彼女は益体もない事を呟きながら、両手に持っている小柄をどんどん投げては移動を繰り返していた。投げている小柄はちょっと特殊な形をしていた、普通は日本刀の鞘につけてある緊急用の小型の武器なのだが、投げている形は紡錘形の板の形をしており、中空が開いている特殊な形をしている。
実はこれ、前回使った虫笛が出す周波数の振動が当たると共振して、同じ周波数の音を周囲に広げる『共鳴器』と呼ばれるものだ。
これは天子が役に立つかもしれないと以前貰ったものを複製してもらっていたものだ。
天子はこれを128本、広範囲にわたって木の幹へと投げ当てた。
「さて、これで最後。いくよ!!」
天子は近くにある一番大きな木の上に立ち能力を起動し、虫笛を勢いよく回し始める。前回と同じように音が波となり、天子の目には波が共鳴器に当たり増幅されて波を出し、それが他の共鳴器に当たり音を出す、それを繰り返す曲線の幾何学模様が見えていた。
世界に広がる音の波が形作る、幾何学模様がみえる。それを綺麗と、うっとり見ていると、気付く。
「見つけた、空白地帯が道の様になっているから、解りやすいわ。…多分、あっちの方。」
携帯のマップを立ち上げると、空白地帯は枝分かれして色々な場所へと広がっていることが解る。それを遡ることにより、その行き先を突き止める。
「こっちの方にこう行っているから…ここは?」
虫笛を止めて今回の行方不明者がいなくなった場所を記した地図と照らし合わせる。
「やっぱり、いなくなった人たちは皆、結界針で出来た道に重なっている。…そして、行先はあの神社。」
その行先は少年が消えたと思われる、古ぼけた神社がある森だ。やはり、あの神社何かあるなと天子がこれからの事を考えている時、彼女の目に夜には見られない筈の音の波が見えている。
「あっちは…しまった!! 莉奈ちゃん!!」
それは彼女達が拠点としているキャンプ地。天子は何かあった事を確信すると、励起法を最大深度まで一気に励起すると、木の頂点から落ちる。
木の途中、中央部の幹に足の裏を当たると落下が止まった。これは以前莉奈に説明した励起法の余剰エネルギーを利用した物質強化、莉奈には教えてはいなかったが『鍛』と呼ばれる霧島神道流における励起法技術のひとつである。天子はこれを武器に使うと言ってはいたが、これは元々励起法で踏み込んだ時に足が地面にめり込んでしまうのを防ぐための技だ。
今は励起法で対象を強化する事により、『摩擦力』と『分子間力』を信じられないほど強くして一時的にくっ付いているのだ。木の幹に励起法のエネルギーを極限まで流し込み、天子は極限まで身体を引き絞り幹を蹴る。普通であれば幹が折れるほどの踏み込みが、鉄骨の様に固まった木に伝わり天子の足に反発力として伝わる。
「私の本気はマッハ2、キャンプまで約10kmなら約14秒!! 持ちこたえて!!」
焦燥感が浮かぶ天子は、願いを口にしながら流星のごとく空を駆けた。
「あー、今晩の夜食どうしよう?」
時間を遡ること天子が気付く五分前、莉奈は今夜の夜食についてのんびり考えていた。
昼に言われていたが、莉奈は戦闘センスがあまりなく唯一の取り柄の遠距離攻撃でさえB止まり。自覚はしてはいたが、今いる部隊にとっては後方による補給以外の事はさせてもらえなかった。
実はそれこそが、莉奈が東哉のもとへと帰れない最大の理由だったりする。今だに狙われているかもしれない現在、もし東哉のもとへと戻ったら以前ならともかく、強くなりつつある東哉の足を引っ張りかねないのだ。
もし戻って何かに巻き込まれた時、自分が足を引っ張ってしまう事で東哉に何かがあったら後悔してもしきれない。それを考えたら変えることが出来ない。天子もそれが解っているから気を使ってあえて口に出さないように気を使ってる節もある。
「………クヨクヨしても状況は変わらない…か、よし!! 返ってくる天子に美味しい夜食作るか!!」
莉奈は頭を切り替えて今夜の夜食を考える。前日はフツーに晩御飯と同じクオリティの物を作って怒られた。
流石にバターたっぷりの卵とウインナーと玉葱、それとジャガイモを使ったキッシュはやり過ぎである。どう考えてもカロリー爆弾ともいえるような料理に、寝る前の夜食はない。
それを踏まえて、今日は軽いスープ物でもするかなと莉奈はオリーブオイルを取り出すと、深めのスキレットになみなみと入れて野菜を炒め出す。全然反省していない、と言うか解ってはいない。
そう解っていない。
気付いていない。
その莉奈の後ろには、ボロボロの服を着た男が鉈を振りあげていた事に。




