女の子の冒険 手掛かり
落ちる。絶体絶命の瞬間に感じたのはその感覚だった。
治孝は振り上げられた鉈を見た瞬間に走馬灯を見た、短い14年と言う時間を一瞬で見たような感覚だ。助かりたいと言う一心で、脳がアドレナリンを噴き出して何とか助かろうとする現象。
思いがけずそれは脳の活性化を引き起こし、彼の目覚めかけていた才能を引き出したのだ。
何時まで経っても来ない痛みに周りを見れば、見た事がない場所にいた。左右を見渡せば、どこまでも黒い空間、目を凝らしても黒しか見えない。手探りで周りを確認すると、水の中にいるような感覚。池にでも落ちたのかと慌てるも、息が出来ているので一体何だこの状況はと上を見てみれば。
「ひっ」
そこには透明なガラスを覗き込むような男達の顔があった。
ジュウジュウと滴る肉汁が焼ける匂いがする。それもその筈、バーベキューコンロの上にはスキレットがのせられており、更にその上には分厚い牛肉がニンニクと焼かれているからだ。
その横では三脚から吊り下げられた鍋からコンソメの良い匂いが漂っていた。
「莉奈ちゃんの作るご飯ってさー。」
「んー?」
「男飯って感じだよねー。」
「ぐふっ。」
じっくり肉を焼いていた莉奈に精神的な致命傷。実際、この二日の莉奈の作る献立は『焼き飯』『ナポリタン』『ローストチキン』などと、炭水化物・肉・手軽の三拍子がそろった男飯である。
「べ、別に女の子っぽい料理出来るよ?」
「はいはい、あんまり見栄を張らないでいいわよ。」
「見栄じゃないって!!」
天子がクスクス笑いながら莉奈を揶揄う、彼女は三脚に吊り下げられた鍋の中身をかき回すと少しだけ取って味見。甘い玉ねぎの味とコンソメが合わさってシンプルながらに深い味わいになっている。
「んー、いい味。とは言うけどね、実際ニンニクそんなに使って炭水化物に脂とか完全に男飯よ? 東哉君は喜ぶからいいと思うけど。」
「東哉には言っちゃダメ!!」
「はいはい。」
流石に自分でもこれはどうかと思ってたのか、莉奈は天子に口止めをしてきた。天子はそんなに気にするなら戻ってやればいいのにと思いながら溜息を吐いた。
「それより、昨日から思ってたけどこの立派なキャンプセットどうしたの? 自前?」
「んーん。違うよ、うちの隊員の山上さんがキャンプマニアで…」
「あ、いーわ。大体わかったから。」
なんなんだろう、あのオタ…マニアック集団は…部隊ですべてのジャンルを網羅したいのだろうか。あの部隊員の底知れなさと突拍子もなさに天子は溜息を吐きつつ、疑問を口にする。
「そういえば莉奈ちゃん、戦闘訓練はどう?」
「うっ…それ聞いちゃう?」
「それは…ねえ?」
聞かれた事に言いよどむ莉奈に、天子はハハーンと察する。
今からの事を考えると知っておきたいが、莉奈を見る限り誤魔化しそうだ。であれば、知っている対象に聞くしかない。
「フレイヤさーん。莉奈ちゃんの戦闘評価はー?」
「ちょっ、それはズルい!! フレイヤさん話さないで!?」
「今後の作戦行動に関して必要になります。現在、菊理莉奈の戦闘評価は近接戦闘 D 銃火器戦闘 C 能力者戦闘近接 E 能力者戦闘遠距離 B サバイバル A 医療 B他8項目で総合評価 C⁺です。」
「思いの外低いわ…。第三でやって行けるの?」
「………。」
第三部隊による戦闘訓練、それは14項目ありそれを基本S・A・B・C・D・Eの六段階で評価されている。その総合評価で莉奈はC⁺(シープラス)平均より少し高い位である。
ただし、第三部隊においては平隊員の最低総合評価はB⁺⁺である。
「…それは低い。能力者近接がそれじゃあ戦いに出せないよ?」
「私、後方支援だもん。本当は戦い苦手だもん。…訓練はもう嫌…死ぬ、死んでしまう。」
「キャラが壊れてる…フレイヤさん、どんな訓練させたの?」
「第三部隊で行われている普通の訓練ですが?」
ああ、成程と天子は何となく納得する。第三部隊の訓練は天子も一度参加したことがある。数十kgの荷物を持った状態で100kmの距離を『真っすぐ』山の中を踏破したり、励起法を使いながら数時間戦い続けたり、身一つで無人島を一ヵ月生き抜いたりと大変な訓練山盛りだったりする。天子としては、少しぬるいと感じる訓練だが非戦闘員だった莉奈には地獄だろう。
「莉奈ちゃん大丈夫だって!!私みたいに垂直の崖を駆け上ったり、数十キロの荷物担いで水の上走り続ける訓練とかよりマシよ。」
「どういう慰め!?」
余りの返しに莉奈は絶句してしまう。よく見れば天子の目の光がない、莉奈は程度は違えど苦しみが解る人間に感動して抱き合ってしまった。
「あの、傷を舐め合うのはよろしいですが追加の調査依頼の報告が来ています。」
「フレイヤさん言い方!!」
「言葉一つで人は傷つくんだよ!!」
淡々と言うフレイヤに、二人は猛抗議しながら報告書を手に取った。
「もう、人の心の機微ってのを学ばないとね? えーっと、回った場所の写真と釘だか杭だか解んないアレの調査結果ね。」
「なんて書いてある?」
「回った場所は事前調査と変わりなし、痕跡を消した後もなしだって。…問題はもう一つ、釘や杭じゃなくて針?」
調査報告書にはやはり失踪者の痕跡は一切なかった、しかしもう一つの掘り出した釘の方が手掛かりだった。
それは『結界針』と呼ばれる特殊な『儀式道具』で、その名の通り針で空間を固定し針と針を結んだ空間を分けることが出来る。さらに分けられた空間内は追加された儀式によって特定の効果をもたらすことが出来るのだ。
「特定の効果って?」
「横に刻まれた神代文字を解読すると精神干渉効果があるらしいわ。精神干渉効果は人避け、認識改変、認識阻害、誘導などがあり、今回は誘導効果…これは。」
「誘導って事は、今回の被害者は無理やり連れ去られたんじゃなくって誘導されて自分から行ったって事?」
「かもしれない。」
天子は以前、高見原タワーで戦った時に鐘の音と共に人がいきなりいなくなった現象を思い出す。きっとあれも同じ『儀式』なんだと思えば、今回の状況は想像がつく。
「だったら、あれ一つじゃないかも。」
「そうだね、誘導するって事は『どこに』誘導するかだもんね。」
「そういう事…莉奈ちゃん、今夜はここにいて。私はちょっと走り回ってきて、針の位置を探ってくる。」
「大丈夫なの?」
「心配しないで、私の足の速さは雷神のお墨付きよ。だてに瀬戸内の真夜中海上無人島間耐久レースをしてないわ!!」
「目のハイライトが無くなってる!?」
そうして二人の方針は決められ夜が更ける。




