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いつもの日々に  作者: ルウ
悪意の残響
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幕間 和喫茶『翡翠』にて

高見原 岩永区森岩町 岩永公園横 和喫茶『翡翠かわせみ



高見原の地図としては海側に海見区、その南には桜区。海見区と桜区の間には中央区が細長くあり、それを挟んで南に津野区、北に誠一達が通う学校がある岩永区がある。その岩永区の中央区と海見区の境ほどにある岩永公園の隣に以前、落ち込んでいた東哉が連れ込まれた喫茶店である。


「はあ…。」


そして前回同様、東哉はまたここで落ち込んでいた。落ち込んでいたと言うよりかとても悩んでいた。それをカウンター越しに見ていた斎の兄、晴喜がヤレヤレと溜息を吐きながら東哉に少し熱めのほうじ茶を出した。


「また溜息を吐いて、また悩み事かい?」

「いえ悩み事と言うか…熱っ」

「淹れたてだから熱いよ。少し冷ましてから飲みなよ…で? 今回の悩みは?」


そう聞かれて思わず黙ってしまう。悩みは決まっているのだが、話したくないと言うか話せない。口を噤む意味で熱いほうじ茶を飲む。

少し熱いが苦みが少なくあっさりとした飲みごたえ、飲んだ後から香ばしい香りがふわりと鼻に抜ける。


「なるほど、話さない。と言うか話せないのかな?」


意味深な顔でうんうんと頷く晴喜に、相変わらず妙に鋭い人だと東哉は苦手意識を爆発させていた。柔らかで包容力がある大人の男の笑顔、甘いマスクでやられれば大概の女性はやられるんだろうが残念だが東哉は男である。


「うーん、僕には話せないなら…おーい。」

「はーい。まだ昼休みが…あれ、…東哉っ!?」


奥のスタッフルームから現れたのは和風の給仕服を着た斎、いつも学校でのしかめっ面じみた目つきの悪さではなく可愛らしい姿に合ったあどけない表情である。


「えっ?」

「う、うわー。こっち見んな!!」


実は斎、兄に頼まれて週に何回かここでバイトしていたのだ。今日はその日だったらしく、学校のキャラクターとは違う自分の姿を東哉に見られて動揺していた。


「な、なんだよ。そんな可愛い恰好して…それ人に見せるようなもんだろ…俺に見せんの駄目かよ。」

「いや、別に、嫌とか言う訳ではなくてだな。不意を打たれたと言うか、心の準備が必要と言うか…ええい。兄さん一体どういう事だこれ!!」

「いやどういう事と言われてもな。なんか東哉君が凄く悩んでいるみたいで、なおかつ僕に話せないみたいだから、斎ちゃんには話せるんじゃないかなって。」

「それって…よし。」


斎は少し思いつめた顔になってから東哉の耳元に口をやる。


「この間の生徒会室の件について話がある。」

「えっ?」

「兄さん、奥の個室借りる。」

「はいはい、程々にね。」

「ありがと。ほら、東哉お茶を持ってこっちだ。」

「あ、ああ。」


斎は東哉を引き連れて、喫茶店の奥へと入る。そこには衾で区切られた個室が三室あり、斎は一番奥の部屋へと誘われた。そこは小さな庭に面した個室で、それは晴喜の拘りで作られた京都の町家にあると言う建物内部にある坪庭と呼ばれるものだ。


「兄さんが京都に修学旅行に行った時に感銘を受けて、この店をやろうと思った切っ掛けらしい。まあ、そんな話はさておき。お前の悩み…この間の話だな。」


そう斎が話を切り出せば、東哉が頷いた。先日の一件、正義感と勢いで事件を解決しようと息まいてたが、結果は無駄に騒いで迷走して最後は逆に手伝うだけであまり役に立っていない。唯々、自分の力不足を感じていたのだ。


「ん? それだけか? 死んだ奴の話で悩んでいると思ったのだが。」

「ん、いや。それも少しはあるぞ。あの選択肢は正しいのかと言われたら今でも悩む。あの時の状況考えたら、仕方がないって思うよ。…人を殺すのを肯定している訳じゃないぞ、ただ、あの時誠一の言葉に納得してしまったからで…。」


誠一はこう言っていた。『スマン…、ここでやらなきゃダメなんだ。多分この間言った俺の消えた記憶にあると思う…ここで、やらないと後悔する気がするんだ。』と。


「消えた記憶?」

「実は俺と誠一。多分偶然だと思うけど、小さい時の記憶がないんだ…特に五年前から昔の記憶がない。」


東哉は以前、誠一に話して聞かせた事を斎にも話した。もちろん他言無用にしてもらう。


「そんな事があったのか…しかし、その話から考えるとお前と誠一の過去とは繋がっているんじゃないか?」

「あ、ああ。そうかも…しれないな。だけど、あいつも忘れているからあまり聞けないんだ…俺もそれで辛かった事もあったからな。斎もそれに触れないでやってくれ。」

「そうだな、不用意に出す話題じゃない…それよりもだ、お前これからどうするつもりだ?」

「これからって? …そうだな、そもそも俺が何をしたいか言ってたっけ?」

「聞いてない。」


冷ややかな目で斎に睨み付けられた。ここ数週間は莉奈が居なくなって斎と浩二、天子とは少し疎遠になっていた。その事もあるのだろう、斎は東哉の発言で少し不機嫌になっている。

これは少々不味いなと、東哉は今までの事やそして自分の目的『自分の過去を知る』事を話した。

すると聞いた彼女は馬鹿を見るような冷ややかな目で溜息を吐いた。


「お前は…私たちがどう思うか考えたことないのか!?」

「うっ、スマン。」

「私たちはお前の友達だ。そんな私達は、お前が知らない世界へと踏み込んで危険な事をしていて、悩んでいると聞いて………心配しないとでも、思っているのか…。」


段々と涙声になる斎に頭を深々と下げていた東哉が顔を上げると、目に涙を溜めた顔が見えた。


「お、ちょっと、泣くなって…。」

「お前たちは、莉奈もお前も勝手すぎる。私が、どれだけ心配したんだと思うんだ…馬鹿ぁ。」


そしてとうとう泣き出してしまった。生徒会室の一件は元々、斎が何かできないかと焦って違和感を感じて危険を顧みず猪突猛進で動いてしまった事だった。

その根底にあるのは、莉奈の失踪と東哉の能力覚醒だ。友達だった莉奈が突然の失踪それだけでもショックな事なのに、東哉による超能力と言わんがばかりの能力の覚醒で自分の生きる世界と常識が足元からガラガラと崩れてしまったのだ。

彼女はそれを取り戻す、もしくは再構築する為に必死になって迷走して無茶をした。東哉はそれを察してしまい、ポロポロと涙を零す斎を必死に慰めるしかなかったのである。


「本当に悪かったって。俺も莉奈の事で頭いっぱいになって、お前らの事を疎かにしてた…ほんとスマン。」

「反省してる?」

「してる、してる。」

「じゃあ、もうこんな事、しないでね。」


妙に精神年齢が下がっている斎に東哉も苦笑いだ。

それから暫く経って涙も引いた後、話は再開した。ただし、泣いて目と顔を真っ赤にした斎と気まずげな東哉の二人だ。


「とりあえずは、お前が何を考えて何をしようかは分かった。同じ事を聞くが、それでこれからどうするんだ?」

「それは変わらない。莉奈が帰ってきても大丈夫なように、いなくなった原因を突き止める。その為に、自分の過去を取り戻したいんだ。」

「そのためにやる事は?」

「やる事…それなんだよなー。謎が多すぎてどれから手を付ければ上手くいくかも解んないんだ。」

「おまえなあ…でも確かに悩むことだが、一番の情報通がいるじゃないか。」


一体誰?と言う顔の東哉に『桂二だよ』と冷ややかに言った。


「気づかないか? 話を聞いているとあの男は不自然なくらい事情通だ。まるで最初から何でも知っているかのようだ。何か企んでいる様な気はしないから信用は出来るとは思うが。」


斎は先日の一件の時、桂二とその仲間による後始末を天子と見ていた。みるみる内に直っていく生徒会室、記憶を弄る事によって今回の事を有耶無耶にする事になった。しかし自分はとある理由と『顔見知りだから』と言う理由で説明と他言無用とだけ言われただけだった。

話をしてみてあの男は色々隠しているが、基本的に悪い奴じゃないと思っていたのだ。


「あの男は多分色々知ってる。だからお前がする事はあの男と親しくなっていく事だ。そうすれば自然とあの男は話してくれるに違いないよ。」

「そういうものか?」

「そういうものだ。」

「そうだったら!!」


東哉が突然立ち上がり部屋を出て行こうとする。


「おい東哉!!」

「そう言う考えなら、早速行ってみる。思い立ったら吉日だ!! おれはやれる事をやるよ、斎!! ありがとう!!」

「どういたしましてって…やれやれ、私も話したいことがあったんだがな。」


バタバタと個室を出る東哉に斎は、少しでも役に立てたかと笑いながらテーブルの上に掌を向ける。するとそこには靄の様な何がが蠢いていた。


「この力の事を私も説明したかったな。」


いつもの日々は少しずつ様相を変えていく、東哉と誠一を中心に。


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