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いつもの日々に  作者: ルウ
悪意の残響
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悪意の残響 後日

学校の死闘から数日。

誠一は屋上にある拓海のテントセットのローチェアに座って空を見上げていた。目を眇めて彼方を見ていた、何かを悼むかの様に青い空を。そんな彼の後ろにそっと寄り添うように立つ影があった。


「誠一君。」

「…天子さん、か。」


彼女は少し複雑そうな色が混じる心配するような顔で佇んでいた。正直な話、天子にとっては誠一に手を汚して欲しくなかったのだ。彼と違い自分は手を汚しているのだ…あの場では正体がバレたとしても自分がやるべきだったのではないかと思ってしまったのだ。

しかし、そんな思いは誠一の言葉で驚き吹き飛ばされる。


「大丈夫だよ、あの選択は俺に必要だったんだ。あれはもう死んでて、あのまましていたら他の人間を傷つけた。だからと言って、あいつ…俺のオリジナルのクローン。まあ、同じ仲間を俺以外に殺させるわけにはいかなかった。そうだろう、102番?」

「っ!! 誠一君あなた………いつ思い出したの?」


衝撃の言葉。それは、知っていても話すに話せなかった、隠していた真実とかつて呼ばれていた自分のナンバー。

そう、彼は過去を思い出していた。


「とどめをさす直前かな? 俺とあいつは同じ素体、お調子者で変な正義感を持ってた260番のクローンだったから…戦っている最中、変な記憶ばっかり浮かんでいたんだ。」

「…そう。」

「あの研究所の日々は完全じゃないけど思い出した。そしてようやく260番の気持ちが解った気がする。」

「気持ち?」


自分がなぜクローンか解ったかと言えば、生まれた直後から研究員からよく言われていたからだ。

『お前は260番から作られ調整されたクローンだ』と。


「260番も知ってたんだろうな。だから自分の複製体が、自分と違う容姿と性格だったから…」


多分最初はちょっとした気づきだったのかもしれない、誠一と同じように聞かれていたのかもしれない。自分と同じ誠一が羨ましかったんだと思う、そうなんじゃないかと思った。

それが原因で自分を見失い、隣の庭が青く見えたのだろう。


「ただ、今俺の記憶は戻ったと言っても所々抜けがある。完全とは言えないから、今言った事は確率が低い予想だ。」

「ううん、それでも知ってると知らないじゃ大きな差があるよ…知ってる人からしたらそれが本当かもね。」

「かもな。」


どことなく二人の間に沈黙が広がる、誠一の雰囲気に悲しみが見えたからだ。それを破る様に天子は隣のローチェアに座り話を続ける。


「これからどうするの?」

「…約束したから、護るって。彩さんのお姉さんの真実を突き留めるまで…。」

「そう。」


そう誠一が返すと天子は途端不機嫌な声で返した。


「え゛!?」

「へー、ふーん。誠一君は昔の私との約束を忘れたんだー。」

「えっ、ちょっと。だから、抜けて完全じゃないんだって。」

「ふーん、ほんとかなー。女の子ならだれでも言ってるんじゃなくて?」

「いや、言ってないって…ていうか、俺何言ってたの?」


慌てて天子の方を見ると、膝を抱えそこに顔をうずめて悲しそうな雰囲気を纏っている。誠一は慌ててしまい言い訳を重ねるが、彼女の雰囲気は変わらない。むしろ、肩を震わせ泣いている様な感じまである、誠一はテンパってしまいよく訳の分からない事まで言いはじめた。

膝に埋めた顔は笑っていて、笑いを堪える為に震えているだけなのだが。

天子は笑いながら、心の中で声にならない言葉を呟いた。


『同じセリフを言ってくれたのよ。あなたは変わらないね。』


彼女は、地獄の中で聞いた自分を護ると言ってくれた言葉を思い出した。




高見原中央区 サイファ警備保障高見原支社 五階 支社長室


「学園の生徒会室と校庭の惨状は設備班の能力者によって修復しました。同時に昏倒していた生徒会役員に同じく催眠系能力による記憶の改竄、カバーストーリーを植え付けることにより何事もなかったようにします。香住屋斎には現状を説明して黙ってもらっています。」

「一緒に改竄しなかったのか?」

「改竄してくれた能力者によると、近い人間…この場合、自分が近くに行くと思い出してしまう可能性があるという事なので穏便な方法を取りました。」

「…妥当だな。」


一人用のソファーに座る風文を真ん中に右側の三人掛けのソファーに座る桂二が今回の件を報告していた。


「生徒会長だった者の追加調査を行いましたが、状況は芳しくありません。解ったのは同じDNAで…何時から入れ替わっていたのかが解らないという事です。」


今回の騒動で桂二が解った事は少なかった。解った事は、研究所を脱出したメンバーの中にいた260番と今回の偽生徒会長のDNAが同じだったという事だ。だが同じだとおかしな事が解る。天子の説明では260番とは事故の時に別に脱出したと言うのだが、莉奈の話では一緒に脱出したと言うのだ。


「…紫門さんの報告であった燃やされた大量のクローン、明らかに精神状態がおかしくなる生徒会長。様子の違う『水虎みとら』と名乗る偽生徒会長…。」

「最低でも三体のクローンが稼働しているな。」

「それは間違いないね。」


響く三人目の声、壁から染み出るかのように現れる紫門に桂二は驚き顔を引き攣らせる。


「『工場』から抜けるだけ抜いてきたデータ、そこにあそこの詳細があった。あの工場はクローンから脳髄液ごと賢者の石を抜き、それを生成する施設らしい。ただ賢者の石の性質上、脳の活動が不可欠らしく、何人かのクローンを交代で街に出して生活させていた記録が残っている。」

「…人格や記憶はどうなってる?」


風文が疑問をあげる。脳の活動の為、交代で外に出すのは解るがクローンをそのままで出すのは少しおかしい。話を聞くにクローンには自意識がないはずで、もし外に出すとしても一人で出かける事が無理なはずだ。


「今は燃えてしまって何もなくなっているが、工場の中でこれを見つけた。」

「これは…見た事がない機械だ。これの詳細は?」

「MRWD、Memory Read Write Deviceの頭文字らしい。調べたら十五年前のバベル地下学院で行われた研究発表会の会報誌で紹介されていた奴に似ているのが出てた。」

「確度は?」

「浄がこれを送ってきた。」


紫門が虚空に手を突っ込むと、一束の書類が出てくる。風文に渡すと、彼はそれを読んで眉間に皺を寄せた。


「なるどね。何人かのクローンを外にだして帰ってきたら読み取る。交代のクローンに書き込むを繰り返して回してたのか。基本の人格はオリジナルからか…このやり方だと記憶の混濁や人格が歪むな。」

「それでですね。学校の生徒会長のイメージがコロコロ変わってたのは。」


桂二は疑問だった事が解り、道理でと頷く。今回の調査で一番解らなかったのが、目標の人間のイメージが違い過ぎて確信が出来なかったところだ。

最初に聞いた東哉の話では、声だけだったにも拘らず狂気を感じさせる者。

次に校庭の焼死体、証拠を残さず校庭の真ん中で燃やすと言う知能犯じみた者。

そしてその間の生徒会長も日によって性格が少し変わっていたと追加調査で解っている。


「まあ、桂二の疑問は置いといてだ。紫門、動向はつかめたか?」

「いや、これと言った行動は起きてない。高見原内では完全に沈黙している。」

「という事は、残響の奴が直接動いている可能性は低いという事ですか?」

「いやそう思うのは早計だ。直接的じゃなくても間接的の可能性も考えられるからな。」

「風文さんの見解はどうですか?」


そう言われて風文は少し考えるそぶりを見せると、難しい顔で話し始める。


「感じとしては資金稼ぎを兼ねた実験だな。」

「実験ですか?」

「そうだ半ば勘だがな、残響の奴は今回の実験で何かのデータを取っていた可能性がある。考えてもみろ、能力者に対しての偽神薬の使用なんて誰かに唆された可能性の方が高い。なにせ能力者が能力を求める事はないからな。」

「確かにそうですね…では、ここからの方針は。」

「紫門はこのまま調査続行、残響の足跡を追うと同時に各地の偽神薬の被害状況を。」

「了解。」

「桂二は部隊を再編制して監視体制を一新しろ、我々の目が届いてない所を作るな。あいてが何かのアクションを取る時はまずこの町からの可能性が高い。」

「了解しました。」


風文は獰猛な笑顔で告げる。


「桃山の非道を許すな。すべてを明るみにだして裁く。」


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