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いつもの日々に  作者: ルウ
悪意の残響
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悪意の残響 異形

某日 サイファ学園都市 泡来あわき大学部内 重金教室内


重金浄が教授を務める教室内、教員席に座る二人がお茶を飲みながら話していた。


「あー、実験がキツイ。同じ実験を繰り返すのはきつ過ぎる。」

「解る。普通は他の大学に分けて実験を行うらしいけど。この実験は他の大学には漏らせないからな。」


教員の一人が試験管に入った液体を振りながら下から眺める。その液体は緋色に染まった鮮やかな色、秘密裏に入手した偽神薬のカプセルの中身だ。


「成分は脊髄液と数人のDNAを使ったナノマシン…人間を使った薬剤。倫理観がない外道の様な研究者が作った薬だぞこれは。」

「効果は飲んだ瞬間に唾液に溶け、脊髄に一気に到達。脊髄から第三脳室脈絡叢まで根を張るように能力者の演算野を仮形成して能力を使えるようにするか…副作用がありそうだ。作用範囲から考えると脳の疾患がでそうだな。」

「出そうじゃなく確実に出てるわよ。実験用のホムンクルスを使った治験で副作用が出たわ。繰り返し使う事で脳の一部が摩耗する様に欠損してた。」


三人目の教員、友永と呼ばれる黒縁眼鏡のショートヘアーの白衣の女性だ。彼女は手元にあるタブレットから情報を見ると苛立たしそうな顔で言う。


「覚醒剤や大麻も脳に影響が出るけど、これも例に漏れずよね。後々の社会への影響はも同じくらい…でも多分これもっと不味い副作用があるわ。勘だけどね。」

「あー多分それありそうっすよね。」

「新海先生…いつの間に。」


もう一人背広を着た中年の男性が現れる、先生と呼ばれるがどっちかと言えば体育教師が白衣を着てるような男である。彼の名前は新海和也しんかいかずや、新素材開発室の教員の一人である。


「それの成分分析の詳細を浄先生に持ってきたっすよ。」

「ああ、ありがとうございます。正確なデータが揃えれば、教授も正確な結果が出せますしね。ところで、先ほどの話は何か根拠が?」

「ああ、勘ではあるんですけど。これって普通の人間を能力者にするんですよね?」

「そうだね。身体の中にハードを増設する様なものだからね。」


新海はそう聞くと、口元を隠し少し悩むと考えた事を口に出す。


「これ能力者に使ったらどうなるっすか?」

「えっ…。」


時が止まった様に場が凍る。考えてもみなかった事を言われたからだ。そしてその結果が朧気ながら解っているからだ。


「ま、不味いんじゃない?」

「確かに…特定の演算野を作るわけじゃないから能力者が使ったらどうなる?」

「恐らく演算野が異常形成され倍に…相乗効果で脳内の『賢者の石』濃度が上がるぞっ!?」

「っ!! 能力者になる薬だから能力者が使用する事を考えていなかった。能力者変異体になる可能性が高い!! サイファの細目本部長に連絡!!」


途端、動き出す三人。置いて行かれた新海は何が起こったか解らない。


「ちょっと、なにがあったっすか!?」

「能力者は記録によれば紀元前からあるとされている。過去にいた奇跡を起こす神なんかがそれにあたると言われているが、神以外にもいるだろう能力者みたいなのが。」

「昔にいた能力者みたいなの…もしかして、妖怪とか西洋の怪物とか?」

「そうだ。うちの教室ではそれは能力者の成り損ないなんじゃないかと言われてるがな。ただ浄教授は日本神話にこれなんかじゃないかと言われたものがあると言ってた。」

「神話?」

「そうだ、神産みの神話を知っているだろう?」


記紀に記された話曰く、伊弉諾イザナギ伊弉冉イザナミの間に生まれたその神は、火の神であったためにその身に火を纏っていた。出産時にその日に体を焼かれ伊弉冉イザナミは死んでしまう。


「昔の能力者が神ならばおかしな事に気付く。能力者の能力が発動する年は大体いくつだ?」

「確か、十代初め? あれ?」

「そうだ、いくら能力者と言えども生まれながら能力は使えない。ただ昔の文献とかを調べてみれば、三歳くらいが能力が使える最少年齢らしい。そこから能力者の始まりとを考えれるのは恐らく脳の成長具合だと予想が付く。」


研究員の話は続く。人間の脳は生まれて二十年位で完成すると言われている、しかし三歳くらいで九割型完成すると言う。そこに目を付けた教授は予想を付けたらしい。


「神話では火の神だったからイザナミは死んだとされるが、実際は生まれた時に脳の異常発達を起こし暴走状態になってたんじゃないかって結論になった。脳が異常発達する時、能力者は能力を暴走させ、怪物や妖怪と呼ばれたんじゃないかってな。」

「…ハイハイ、話はここまでよ。教授にこの事を話したら、この薬の分布を調べて、その地域で起こっている事件を調べて欲しいそうよ。新海先生手伝ってください。」

「え~…浄教授にはお世話になっているから断れないなー。それより、その能力者の暴走体って名前とかないんですか? 変異体とかじゃなくって。」


話が途中で終わってしまい、新海は聞きたいことを尋ねる。


「どういう事?」

「いや、なんか名前ないとこう、しっくりこないなって。」

「…良く解んない理由。名前は決まってないが、教授は総称してこう言っていた。『蛭子ひるこ』と。」




「あ、あああ、あががががっあああああああああっ!!」


偽神薬を飲み込んだ直後、男の身体がガクガクと震え薄っすらと光りはじめる。


「あが、あががああああああっ!!」


苦しみ叫び続けながら段々体の所々が膨張し始め、身体に鱗が生え始め手がネコ科の様な手になっていた。


「なんだこれ、おい誠一これなんだ!!」

「わからん。だが、気を付けるに越したことない、気を抜くなよ!!」


身体が変化していく男に目を逸らさず警戒しながら誠一が言うと、この状況を見てたかの様に東哉の携帯電話が鳴る。


「こんな時にだれだって、桂二?」

「東哉、出てスピーカーに!!」

「おっおう。」

『二人とも気を付けろ!! 学校に設置されてるカメラ越しでしか分からないがそれは多分『ヒルコ』だ!!』

「ヒルコ!? なんだそれ!?」


古事記において国産み儀の際、イザナギとイザナミの手順を間違えた為に異形として生まれた子がいた。手足が異形で奇形で生まれた為、その子は葦船に乗せられて海へと流されたそれが蛭子ヒルコだ。


『ヒルコとは言ったがそれは総称だ。正式名称は先日決まった名称は『能力者暴走変異体』と言う。それは遥か昔から確認されてきた、怪物とか妖怪とかの類だ。』

「それは、強いのか?」

『強いってものじゃない。昔は数人の手練れの能力者が策をろうして討伐した記録が残っている。だから気を付けろ、まともに戦ったら死ぬぞ東哉が。』

「俺がかよっ!!」

『当たり前だ。誠一のタフさはトップクラスの能力者以上だからな、お前のピーキーな紙装甲とは違うんだよ。それより、お前らに頼みがある。時間稼ぎを頼む。』

「時間稼ぎ?」

『そうだ、そいつはもうちょっとで変化が終わる。そうなったらそこら一帯に被害がでる可能性が高い、だから…今からそれを倒せる人が行く。危険を伴うかもしれないが…それまで頼む。』


切羽詰まった桂二の声に、二人の顔つきが引き締まる。東哉は莉奈が帰ってくるこの地を守る為、誠一は被害を出させないために。


「任せろ!!」

「ああ、耐えて生き延びてやるさ。」


誠一は拳を握り前に出る、どんな攻撃が来ても防ぎ耐える為に。

東哉はあらかじめ持っていた鉛筆をいつでも投擲できる様に少し離れる、邪魔にならない位置で援護する為に。


「くる。」


男の変化が終わる。顔は虎の様に口が前に出て牙が伸び、膨隆した身体が服を破りそこから覗く皮膚に青黒い鱗が見える。手は鱗に鋭いネコ科の爪、足は膝が反しバネのようになっている。

それは昔大陸にいた妖怪、踵がない虎の要素を持つ人型の化け物『虎人こじん』であった。


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