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いつもの日々に  作者: ルウ
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導く者

東哉と莉奈の別れと誠一と空から落ちてきた少女二人の邂逅の時間、それは奇しくも場所と時間は同じだった。少なくとも屋上と道路という差はあったが。

時間を遡る事約一日前、それは誠一が力加減を誤って落ちた時だった。


「くっ!!」


黒いレインコートの少女は落ちた誠一を助ける為か、助走をつけて屋上から身を乗り出す。

しかし、それをさせじと棒を持った少女が槍投げの様に棒を投げた。


「逃がさない‼」

「邪魔をっ」


意識が誠一にあったのかかろうじて避けたのだが、ギリギリだった為か黒いレインコートのフードが弾け飛ぶ。

あらわになった顔は、長い黒髪をまとめて肩に流しアンダーリムの眼鏡をかけた少女。学校の時の柔らかな雰囲気と表情が抜けた蒼羽天子だった。


「その顔覚えたわ」

「くっ」


顔を見られて不味いという事もあるが、それ以上に落ちた誠一が心配でそれどころじゃない。その時だった、重いものが落ちる音と衝撃音そして悲鳴。

一瞬、誠一の落ちた音だったかと思った。しかし音の出た場所と人の集まる気配を見るに音源は違う。場所はもっと先、それは天子のフードを貫通した狙った棒が飛んだ先。


「確か、あっちはビル建設工事の…あっ逃げた」


天子の呟きが聞こえたのか棒を投げた本人が逃げ出していた。

なんて奴と思いながらも今は落ちた誠一だとビルから覗き込むと、ビル建設のために切られた樹の隙間から落ちた場所より離れた所で立ち上がる誠一が見えた。


「良かった!?…ん?なんで、無傷? えっまさか…よね」


この高さから落ちて無傷、樹の枝クッションがあったとしても普通ではありえない常識外の出来事。多分同類だと天子は確信しながら、もう一つ気付いてた方へと目を向ける。


「何しているのかな二人とも」


眼下には半ばから腐食する様に折れた鉄骨と手を伸ばす東哉、振り切るように逃げる莉奈の姿があった。

死人は出て内容でホッとしながらも、友達が死にそうになっていたのが驚いたのか、重い重い溜息を吐いた。




莉奈は逃げていた、何から逃げていたと問われれば正確な理由はなかった。あるとするならば、それは過去。彼女が置いてきた過去とそれに付随する東哉にも隠している『能力』でもある。

東哉は覚えていない過去ではあるが、彼女と彼は元々孤児である。



普段は入らない裏路地に滑り込み、ビルの壁を這う蔦に手をかけ踏み切りと共に体を引き上げる。スカートなのも気にせず、一気に室外機へと跳ぶ。それを繰り返しスルスルと屋上まで登って行った。



この町では成長期の時に一気に人口が加速的に増えた。その弊害か、孤児が大量に増えたのだ。これにはあまり理由がないと言うより、理由が様々ありすぎて主軸となるような理由がない。その為に対策が立てれなかったという過去がこの町にはあった。

だがそれを利用した奴らがいた。幼い時に聞いたので莉奈も覚えていないが、研究者たちがいたのは覚えていた。いや正確にはそれ以外のことが酷すぎで、他の記憶が薄れているのだ。


『あの時の座学の授業では意味が解らなかったけど、今ならわかる。あいつらは…』


行われていたのは実験で、それは過酷であり凄惨だった。

よくわからない薬剤を注射されたり、検査の毎日。日々減っていく仲間と、在庫の補充とばかりに追加された孤児達。

酷い時は唐突に血を吐き出して死んだり、体の一部から全身に変色して死んだり、体の水分という水分が抜けてミイラの様に死んだり、四肢が爆発して死んだり、死んだり、死んだり。

地獄のような日々だった。


『そしてあの日、爆発があったそして…』


五年前のあの日、莉奈たちがいた場所が爆発したのだ。あの時のことは今でも鮮明に覚えている、建物を揺らし身体の芯を突き抜けるような衝撃を伴った爆発だった。

そして続くのは炎、あっという間に広がる炎を莉奈は唖然として見ていた。その彼女の手を取って連れ出したのが今の保護者役をやっている父だ。

彼と東哉の母役をやっている彼女は元々あの施設で研究員をやっていたのだ。研究に罪悪感を覚えその中でも仲良くしていた二人だけでもと、爆発と火災のどさくさで連れ出したのだ。あの爆発は今でもなんで起きたかはわかっていないが、そのお陰で東哉と莉奈は死んだ事となっている。

ところが莉奈はとっさとはいえ、『能力』を使ってしまっていた。

あの時の組織はどういうものかは聞いていない、父からは知れば変に意識してバレる可能性があると言われて莉奈は今まで聞けずじまいだった。

だがそんな生活も終わった、終わらせてしまった。

キュッと唇を噛みながら屋上を伝い莉奈は移動する、これからの事に不安を持ち思い悩んでいたのが不味かったのだろう。誰もいないはずの屋上で、後ろから声をかけられた。


「今のトレンドはやっぱり屋上移動だよね~」


毎日聞く間延びした喋り方、それを聞きながら首筋の衝撃を受けて莉奈は意識を落とした。




「う…ん?」


莉奈が目覚めたのはベッドの上だった、寝ぼけた頭でみたのは見知らぬ天井。痛む首筋をさすりながら起き上がると、積み上げられた段ボールに囲まれたスペースに小さな机と辺りを照らすデスクライト。どうやらどこかの倉庫の中に作られたプライベートスペースの様だ。


「誘拐された?」

「やだなあ匿ったんだよ」


声が響く。気絶する前に聞いたあの声。


「天子!?」

「せーかい」


ライトとは逆の位置、スペースの暗がりが可笑しそうに震えた。目を凝らせばそれは人の形をしており、丸椅子に座って背を向けている小柄な身体が解る。頭の部分がグルリと回り、黒のグローブを付けた手が勢いよくフードを下した。

フードの中から出てきた顔は莉奈がよく知った顔だった。


「天子…なんで、いやそうじゃなくて、どう…して?」


あの逃げ出した時に覚悟していたはずだった、あの日常に戻れない事を。しかし、日常の方が近づいてきていた。


「どうしても何も、今言ったでしょ? 匿ったのよ、逃げていたんでしょう?」

「何その喋り方、いつもの喋り方と違くない?」

「今聞きたいのそれ?」


状況が状況なのにそのような莉奈の反応、天子は呆れながら頭を抱えながら小刻みに震えるように笑っていた。

いつもは柔らかく笑いやや間延びしたような喋り方をしていたが、今はやや鋭い眼差しに間延びしない砕けた喋り方をしていた。普段は見せない天子の姿に莉奈は目を見張る、いつもと違うがおそらくこれは天子の本当の姿なのだと何となく思った。


「ま、いいや。それよりハウンドから逃げてるんでしょって事よ…えっ?違った」

「ううん、違ってはないんだけど。ハウンドって何?」

「………ううーん、ハウンドを知らない? 桃山の能力者狩り部隊」

「えっ?」

「え?」


早とちりだった?いや逃げてたって言ってたし…と頭を捻る天子。知らない単語に混乱する莉奈。場は混沌としていた。

頭が混乱した二人はとりあえずは落ち着くために、お互いの知っている事をすり合わせることにした。


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