表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもの日々に  作者: ルウ
悪意の残響
69/174

悪意の残響 薬の材料

開戦の合図は誠一の一撃。左足で踏みだし左腕を振り上げ男が座っている机をめくり上げた。流れるように右足を前に、机を貫く様に右拳で突く。


「甘い!!」


水が集まり盾となり拳は阻まれる。誠一はそれに怯まず拳を反しさらに踏み込み掌底を打ち込む。護天八極『水撃ち・波紋』、特殊な打ち方で打撃の振動を叩き込む内部ではなく外部を破壊する技だ。

しかしそれでも水の壁は破れない、打ち込んだ衝撃は盾の表面を広がるように流れていた。


「東哉!!」


しかし誠一は相手の能力を自分よりも少し高めに想定していたので動揺しない。即興だが東哉と連携をとる為に、声を掛ける。

東哉は前回、散々吹き飛ばされて誠一の強さを解っている。だから助けられて目配せしてきた誠一の意図は解っている、恐らく自分が一緒になって戦ったら巻き込まれるから後方支援もしくは倒れている生徒会役員を救出する事だ。

誠一が攻撃する間、床に広がっている水に手を当てて能力を発動すると生徒会役員を縛る水を分解する。


「こっちは任せろ!! ぶちかませ!!」

「応よ!! 力は受け流せるだろうが、床に広がる水の土台がなければ、どうなるかな!!」


両手を使った掌底・双掌打、誠一のその一撃は彼の怪力と合わさって男が体に纏う水ごと派手にガラスと共に吹き飛んだ。

生徒会室の外は運動場、奇しくも焼死事件があった場所。


「行くぞ、東哉!!」

「えっちょっと。まっ、ここ三階!!」

「励起法使ってたら大丈夫!! ビルの屋上から落ちても大丈夫だった!!」

「えっそれ大丈夫って、ええい!!」


破壊された窓枠に足を掛けた誠一が言うと、三階の高さから飛び出す。それを見て躊躇った東哉も覚悟を決め、励起法を全開にして飛び出した。飛び出し一瞬の浮遊感の後に着地、太陽が山の陰に入って運動場が暗くなっていて着地を失敗するかと思ったが難なく行えた。

東哉はホッとしながらも前を見据える、身体につく水を触手の様に使い空中に浮かぶ男を睨み付ける。


「あはは、まさか水傀儡ごと叩きだされるとは。中々いい素材になりそうだ。」

「素材…。その姿、体格…まさか、八港の倉庫街の…。」

「あれ? 工場を知ってる? 今日処分を頼んだはずですが…?」


誠一は気付いた、あの倉庫街の倉庫にカモフラージュされた謎の施設にいたクローンと容姿と体格が似通っている事。


「安心しろ、今頃灰になってるよ。………やり合う前に一つ聞かせろ、あそこは何の施設だ?」

「ん? あそこに行ってたの? まあいい、あの施設が気になるなら聞かせてあげるよ。冥土の土産って奴さ。」


この状況を切り抜け東哉達を倒す自信があるのか、男は腕を組み余裕ぶってニヤニヤしながら話し始める。


「あそこは偽神薬を作ってるプラントの一つさ。偽神薬って知ってるかい? 一錠飲むだけで能力者の力が使えるような薬さ。」

「偽神薬…。」


その言葉は東哉と誠一、二人とも桂二から聞いていた薬だ。巷で流行っている薬物の中でも依存性が高い薬、能力者の素養すらない普通の人間が飲めば一時的に能力者となれると言う危険な薬だ。


「さて、ここで君たちに質問だ。能力者とはどうやって能力を使うか知ってるかい?」

「使うって…。」


東哉の呟きに誠一が止める。


「東哉止めろ!! 聞くなっ!!」

「えっ? どうして?」


誠一は以前から能力と自身の使う拳法を上手く運用する為、套路をする傍ら能力が使えなくなる状況は何だと考え、それから能力者の能力はどこから来るのかを考えた事があるのだ。その時気付いた事と倉庫街の事、今聞いた事を総合して一番悍ましい推論に行きつき東哉を止めたのだ。誠一は男の声を止める為に、仕留める為に踏み込み攻撃するが水の壁は厚く突破できない。

男は人を食ったような笑顔で話を続ける。


「能力の起点は脳だ。能力者が能力を発動させるには神域内の知覚、知覚した範囲内での能力をおこす為の演算、そして出力となる。ならその出力は一体なんだと思う?」

「出力…? それは…。」

「東哉、聞くな。攻撃しろ!!」


水の壁はビクともしない。むしろ水の壁が分厚くなっている。何故だと見れば、水の触手がグラウンドの芝生を貫いていた。


「スプリンクラーの供給管かっ!!」

「正解。水が尽きない限り破れないよ。ふふ、話を続けようか。当初、能力の出力には何かしらの器官が頭の中にあるとされた。しかし百年近くの研究でそれは見つからなかった。だが近年、それの出力は気付かないだけで脳の傍にあったのが解った。何だと思う?」


男はポケットからタブレットケースを取り出して、一錠つまむと二人に見せる。それは緋色のソフトカプセルの錠剤。


「別名『賢者の石』と呼ばれる考える有機流体金属、それが答え。これが演算通りに振動する事により周囲の空間に働きかけ奇跡を起こす。それが能力の仕組みだ。ここで、問題です。この有機流体金属を普通の人間に投与するとどうなるでしょう?」


ニヤニヤと笑う男が深淵の様な黒い瞳で東哉を見つめる。一瞬何を言われたかを理解できなかったが、今蔓延している薬物の量を思い出すと、東哉は苦虫を一気に噛みつぶしたような顔になる。

だから聞かせたくなかったと誠一は口の中でだれにも聞こえないように言うと、東哉が暴走しないように声を掛ける。


「落ち着け東哉、怒りは今は押さえろ。今何が優先か解るか?」

「これが怒らずにいられるかよ!! こいつら、人を材料に薬を使ってやがる!!」

「それでもだ。冷静になれ、相手は怒らせに来てるんだ。その隙に、何かしらの手を打つためにな。だから、怒りは忘れずに冷静に怒れ。…こいつは末端かもしれんが、逃げられたら被害が拡大するかもしれん。ここで仕留めるんだ。」


そう言われると東哉も納得したのか、怒りながらも男から目を離さない。今さっき斎を処分するなんて言ってたくらいだ、ここで逃げられたら斎はいつ襲われるか解らない毎日をずっと過ごす事になる。


「させるかよ…。」

「そうだ、お前の能力であれば。突破できる、だから!!」


言葉が終わるよりも前に二人は励起法を全開にして飛び出す。作戦なんてない、やる事はシンプル。東哉が分解して誠一が打ち倒す、ただそれだけの攻撃だ。

誠一が前に出ると水の触手の先が鋭い刃の様になり二人に迫る。そこを誠一は持っていたトンファーを回転させて水を弾き飛ばす。それに合わせるように東哉が周囲の水を分解にかかる分解されるのは水、簡単な構造なので水素と酸素に分解できる。周囲の水と男を守る水の盾がみるみると体積を減らしていく。


「ちっ。いやな予感がしてみればやっぱりか。水か分解される。」

「ああ、そうだ。お前みたいなやつとは相性が最悪の能力者だ!!」


男は地下の給水管から水を吸い出して補充するが、東哉の分解と誠一の突進力に水の供給が追い付かない。

段々追い詰められていく男、攻撃は止まない。

誠一はトンファーを回し棒の方を前に出すと大きく薙ぎ払った。


「ぐっふっ。」


東哉の能力で薄くなった防御が誠一の怪力によって抜かれた瞬間だった。男の脇腹にトンファーがめり込み、薙ぎ払った状態の慣性でポーンと打ちあがった。と同時に水の盾と触手が弾けるように飛び散った。


「なんだコレ!?」

「多分、能力が解除されて、ただの水になったんだと思う。そんな事より東哉、多分気絶している筈のそいつを見ててくれ、桂二に連絡して引き取ってもらう。」

「大丈夫なのか?」

「少なくとも俺とお前よかましだ。あいつの知り合いならこいつを有効活用…マズイ、東哉奴を止めろ!!」


見れば、身体が動かない様子の男が口に何かを入れようとしている。あれは偽神薬。能力者ではない人間が飲むと一時的に能力者となる薬だが、能力者に使うとどうなるか解らない物を飲もうとしていた。

いや飲んだ。


その瞬間、強烈な気配が校庭を覆った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ