悪意の残響 水傀儡
時間はまた少し巻き戻る。
生徒会室の扉を開けた東哉、その先で見たのは倒れる人と拘束された生徒会役員…そして。
「斎!!」
生徒会室の床で横たわっていたのは東哉の友達、いつもの五人組のメンバーの一人だ。慌てて近づき抱き起すと、目を覚まさない。何度も声を掛けて、外傷の有無を確かめていると薄っすら目を開いた。
「…東哉。」
「斎、何があった!!」
「それは…。」
「それは僕の正体を暴こうとしたからだよ。」
聞こえた第三者の声の方へと視線を移せば生徒会室の一番奥、生徒会長の椅子がぐるりと回り足を組んだ生徒会長が笑っていた。
「生徒会長!? …か?」
「東哉、気を付けろ。そいつ生徒会長じゃあない。」
「なんだって!?」
苦しそうに起き上がりながら斎が東哉に警告を出す。彼女曰く、学習室の一件から妙な違和感があり、最近の東哉達の話を聞いてて妙な違和感を感じていた斎は生徒会長を危険とはわかりながら観察していた。
そして気付いてしまったのだ。
「徐々に顔が変わっていってた?」
「そう、最初は見間違いかと思ったんだが。徐々に変わっていってたんだ、入学当時の職員室にある顔写真付きの名簿を見て確認したから間違いない。成長して顔つきが変わったと言う人もあるかもしれないが、あそこまで変わるとおかしい!!」
斎は観察しているとふと気づいてしまった、入学してきた当初の生徒会長はこんな顔だったかと。そこで斎はこれは東哉達の後押しになるかと調べてみたのだ。最初はだれも気付いてなかった、だが残っていた写真や画像を確かめると時系列順に並べたら徐々に顔が変わっている事が解ったのだ。
「色々考えたけど私には解らない事が多かった。だから、私は直接聞きに来たら…」
「気絶させられたって事か…だったら、お前は誰だ!!」
東哉は生徒会長の椅子に座りニヤニヤと笑う男に指を突き付ける。すると、男の顔が溶けるように崩れ落ち。その下から生徒会長に似た別人の顔が現れた。
「…誰だ。」
「僕は水虎、とある場所で使われてるしがない複製体さ。」
「水虎? 複製体?」
聞きなれない言葉に疑問が尽きないが、場に流れる異様な雰囲気に言葉が出ない。
「僕の任務は、この学校における能力者の発掘と捕獲。そして、処理って所さ。」
「今この惨状が、処理って事か…。」
「いやまだだよ? この場にいた子たちは、そっちの子が何か言う前に僕の能力で昏倒させたから問題ないよ。」
処分。
その不穏な言葉に刺激された東哉は、先日の山の中での戦闘を思い出した。戦い、人が死んでいく。東哉自身も半分自分の意志だったけど、自分の死の危険と他人が死んでしまうかもしれないあの場所で人が簡単に死んでいく様を見た今であれば、言葉の意味は敏感に感じた。
「やらせるかよ!!」
手を前に出し斎を後ろ手に庇いながら東哉は声を上げた。
「ふうん。素人にしちゃ勘が良いね。でも…想像力が足りない。」
想像力と言われた瞬間、倒れた生徒会役員や備品の隙間から透明な何かが凄いスピードで伸び東哉と斎を絡めとる。
「ぐっ、なにこれ!?」
「これ、スライム、か?」
いつの間にか床に透明な粘液が覆っていた。そこから伸びる触手の様な何かが東哉を縛っていたのだ。
「スライム? 違う違う、どこにでもある水さ。ただ僕の体液が少し混じっている、操れる水ってだけさ。ウフフフ!!」
自慢げに言う男が笑っている間も東哉は励起法を全開にして振りほどこうとしたが、強力な粘性と弾性を持つ液体はピッタリと体に巻き付いて外れる事はない。
更に不味い事に斎の首が徐々に締まっている、このままでは彼女が死んでしまう。
「クソッ、止めろ!! 離せ!!」
「知ってたかい? 好奇心は猫を殺す。正体を知らなければ、探らなければ死ぬ事はなかったのにねぇ。」
斎だけではない東哉の首にも万力の様な力が加わっている。首にかかる力は甚振るかの様に段々と力が入っていく。
「へえ、普通ならここで気を失うんだけど頑張るね。僕の能力、『水傀儡』は早々抗える筈はないんだけど」
「ぐああああぁぁ!!」
「無駄だって…諦め悪いなぁ。さっさと死んでよ。」
段々と力が強くなっていく、息苦しいがそれよりも斎だこのままでは死んでします。
「やべろ。や、げ、ろ。」
「力にも相性がある、僕の能力は特にそうだ。直接的な力、普通の打撃や衝撃には無敵の力でもある。」
斎の顔が真っ白になってきた、マズい自分だけならともかく斎も死んでしまう。それだけは、それだけは許すことが出来ない。でも、自分には抗う力が…。
気が遠くなりそうになりながら、どうやってこの場を脱するかを考えるが思いつかない。
「さあ、終わりだ。これから僕は君たちの片付けに忙しいんでね。」
視界が塞がる、これは不味い。そう思って意識が飛びそうになる瞬間。扉が外側から吹き飛び男へとぶつかる。
「東哉!!」
「斎ちゃん!!」
飛び込んできたのは誠一と天子。正体を隠しているのか二人ともフードで顔を隠しているが声で二人だと解る。
状況を見た誠一は一瞬で状況を理解すると親指と人差し指、中指を龍の鉤爪の様に構えると東哉と斎の首に巻き付く水の粘液に突き立てた。
「これ、力技じゃ無理だってええええぇぇぇ!?」
外れない筈の粘液が外れる。いや正確には誠一によって抉る様に切断された。
尋常じゃないパワーと誠一が纏う神域、そして技によって破壊されたのだ。
「護天八龍『龍爪』ってな。東哉、力技じゃなくって能力だ。」
言われて東哉は思い出す自分の能力を。首を絞められ頭に血が回っていなかった上に焦ってた所為だ。
「こっちは大丈夫、斎ちゃんを安全なところまで運ぶわ!!」
「ああ、頼んだ。」
見れば気を失っている斎は天子に抱えられていた。東哉は意識がない斎が思ったより悪くなっていない事に安堵しながら、男に向き直った。
「行くぞ東哉、何とかしよう。」
「おうよ、ぶちのめしてやるさ!!」
二人は構える、今ある障害を打ち倒すために。




