悪意の残響 農場
セントリーガン。軍事や兵器に詳しい人なら知っている銃にセンサーを組み込み、検知した対象に自動的に発射する物の総称だ。元々は軍艦のCIWS(近接兵器システム)だったが、近年は拠点防衛用として使われることもある。
「で、何でそんなものがここに!?」
「わーかんない。私もそんな物もあるんだーって聞いた事があるだけだったし。でも拠点防衛っていう意味じゃ間違ってはないよねー。」
「そもそも軍事兵器がある時点でおかしいだろうが。」
「修羅の国とは地続きだから流れてきたって事で可能性あるかも。」
益体もない会話をしながらも誠一と天子は迫る後続の人員を打ち倒していく。とはいえセントリーガンは脅威、天子は詳細を話していなかったがあのセントリーガンはかなり危険なものなのだ。あれはチラと見ただけで以前師が斬り、スクラップにしていた超高性能AIを搭載した対能力者用アンチマテリアル型セントリーガン『タスラム』。
「流石の誠一君でもあの口径は穴が開くわよ?」
「そんなに?」
「あのセントリーガンは普通の銃じゃないのよ、アンチマテリアルライフルって言って戦車の装甲も貫く高火力の武器。普通の能力者でも当たったら死んじゃうって話。」
「…一発二発なら耐えられるかもしれないけど、連続して撃たれるとマズイかも。」
誠一の特色としては能力と励起法による身体能力の異常なまでの高さ、膂力と耐久力が異常なのが特徴だがそれとは逆に瞬発力が普通だ。その所為で音速かつ連続で撃ち込まれるると簡単に被弾してしまうのだ。
誠一だけであったら詰んでしまう状況ではあったが、ここには彼一人だけではないのだ。
「今度は私にまかせて? 五秒でいいわ、後続を抑えてて。」
「大丈夫?」
「まかせて、霧島神道流の神髄…とまではいかないけど、その片鱗ぐらいは見せてあげる。」
そう言って天子は木刀の柄にある仕掛けを動かし、左手で木刀の刀身を掴み右手の甲を柄へソッと添えた。
それと同時に天子は以前見た、師匠の動きを思い出す。
今少し天子が研究所を脱出した後の事を語ろう。
彼女とその仲間たちが脱出した後、第三部隊に保護され遺伝子検査の為に病院に缶詰にされた。それから桃山財閥の追跡を撒くために、生き残った天子達を高見原市内の別々の家へと養子に出したのだ。
中でも天子が養子で入ったのは昔ながらの剣術道場を敷地内に持つ、元警察官僚の蒼羽家の老夫婦の養子になったのだ。
蒼羽家の老夫婦の下で暫く平穏な日々を送っていた天子は、ある日運命的な出会いを果たす。
ある晴れた冬の日だった。地獄のような毎日から解放されて天子は抜け殻の様になっていた。気が緩んでいたのだろう、自分が何をしていいか何がしたいのかが解らなくなってしまったのだ。石上神社の端にある海の見える公園で、暇があれば海を見ていた。そんな時、声を掛けられたのだ。
「大丈夫か?」
振り向けば黒いレインコートに身を包んだ不審人物がいたのだ。これが師との運命の出会いだった。
そこから紆余曲折があり、その男に師事し実戦経験を積んでいった。そんなある日の話である。
とある施設に乗り込んでた時、出会ったのがあの対能力者用アンチマテリアル型セントリーガンだ。
天子は今でも覚えている、自分の師の強さと寒気を覚えるほどの芸術的な技を。師は戦車の装甲ですら貫く弾を前に散歩する様に向かい、銃弾を躱し刀でいなすと言う絶技を見せたのだ。
それを思い出しながら天子は、あれを自分でも出来るだろうかと目を閉じ精神統一してあの動きを思い出す。
天子は意識を深く集中させる、そして励起法の深度を自分の出来る最大深度を超えるように丁寧に励起させていく。
あの時の師の動きは凄かった、銃弾の軌道を読み切り最適な足運びで銃弾の隙間を掻い潜りいなし三台のセントリーガンを斬り壊したのだ。
「行くよ、誠一君。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
両手で持った木刀を腰だめに構えたまま、膝を落とした瞬間その姿を消した。
能力者の使う武術は色々ある、日本における能力者の武術は普通の武術を応用しているのがほとんどだが、一部能力もしくは励起法を前提に考えられた武術もある。その一つが霧島一族が使う霧島神道流、雷神『建御雷』を祖とする剣神の系譜と言われる。そしてその能力者が使う武術にはさらに基礎がある。それが六神通と呼ばれる超能力を基とした技だ。
今、天子が使った技もそれで霧島流においての神足通、霧島神道流『迅雷』だ。
画像のコマ送りの様に次に現れるのは、セントリーガンが待ち受ける廊下の壁に現れる。それに反応したセントリーガンのAIが反応し、一瞬で照準を合わせると発砲。壁を歩きながら射線をずらす、顔の横を通り過ぎる弾を見もせず二台目のセントリーガンの発砲を再び『迅雷』で避ける。後はその繰り返し、常人が見ればコマ落としの様に縦横無尽に現れ歩いては消えると言う事を続ける事26回。天子は二台あるセントリーガンの間に立ち、木刀の柄を両手で持ち目の前まで持ち上げると、握ったまま腕を開いた。
「人以外なら遠慮なく使えるわ。」
握ったまま腕を開くと木刀の中から現れるのは白刃。
「切祓へ『波波木』!! 霧島神道流『群雲の雷』」
抜いた瞬間それは終わっていた、電光石火の連続切り払い。セントリーガンはバラバラになるほどに切り刻まれていた。
事が終わったことに気付いた誠一が近づいてくると、驚いた顔でセントリーガンの残骸を見つけその一つを手にとる。
「切断面が滑らか…斬鉄ってここまで凄いの?」
「神道流の斬鉄の技『流刃』。ここまで出来るようになるのはかなりかかったわ。…それより先に進みましょう、この先が目的地よ。」
そこまで言うと天子と誠一は、奥に見える観音開きの大きな扉へと顔を向けると。
「扉が自然と開いた!?」
「私たちを招待しているみたいよ? どうする?」
「行くさ。」
二人は笑い合うと扉をくぐる。すると室内はとても暗く廊下の光が入り込む場所だけがうっすらと見えている、二人が目を凝らせば中がゆっくりと見えてくる。
「これは…。」
「260番…まさかこれは…」
誠一はその光景に茫然として…目に怒りが灯り。天子はその光景に、信じられない物を見て絶句する。
そこは液体が満たされた円筒形の透明な筒がいくつも立ち並び、中に満たされた液体には一つ一つ全裸の男が浮かんでいた。
その男の顔は、天子にとって見た顔であった。
「誠一君、ここは。」
「同じ顔…体格…クローンかっ!! どこまでも、どこまでもっ人を弄ぶか!!」
誠一の怒号が部屋に響いた。




