悪意の残響 恋敵
高見原学園の屋上。いつもならば安全を考慮して屋上へとつながる扉は施錠されているのだが、今は二人の男子生徒が無断使用していた。
「だーかーら。なんで行かないんだよ!!」
「何でも何も、僕はここにいるのが役割なんだって言ってるだろこの石頭の向こう見ず!!」
屋上は給水タンクと安全用の柵だけなのだが、今は様相が変わっていた。中央に描かれた大きな幾何学模様の魔方陣はそのままだが、それの周囲にあるものが問題である。
まず一つが別の校舎から見られないように出入り口の傍に設置されたテント、その横に置かれたローチェアとローテーブル。ローテーブルの上にはランタンとバーナーとコッヘルが乗って、その横にはイーゼルにキャンパス、絵具にパレットまで揃っていた。
「役割にしちゃなんだよ、この生活感は‼」
「美術科のノルマがあるんだからしょうがないだろ‼ 提出が来週なんだ、点数悪くなったらどうしてくれるんだ!!」
「家でやれよ‼」
「この陣はここしかないんだって解んない奴だな。動き回っても手掛かりないんだから意味ないだろ、この唐変木‼」
「唐変木となんだ、唐変木とは!!」
ここ数日はこんな調子だった。初日は口論した後で無理やり連れていかれ、二日以降は口論の果てに東哉の捨て台詞で別れると言った感じだ。
そして、こんな感じの言い合いが10分ほど続くと何時もは一人で見回りに行く東哉だが、今日はちょっと違った。
ドカッとキャンバスに向かった拓海の真後ろに座り込んで、東哉はムスッとした顔で押し黙った。
「今日はいかないの?」
「…いかねーよ。」
それからの沈黙。運動場や校舎の間でから聞こえる生徒の声と吹く風の音の中、一人は別の物に集中する様に筆を動かし、もう一人は睨み付けるかのようにもう一方を見ていた。
「見られてたら気が散るんだけど…いつもみたいにパトロールでもしてたら?」
「…なあ。」
「ん?」
「お前、何でそんなに冷静なんだよ。」
突然の事で拓海は一瞬何を言われたか解らなかった。しかし彼は人の心から漏れた声を聞く能力者だ、能力の行使をしていない東哉から何を言われたかなんて漏れ出た声で良く解る。
「冷静? 僕が? 馬鹿じゃないの?」
とは言え優しく諭してやるとつもりは拓海には全然ない。
「莉奈さんがいなくなって不安になってるのは解るけど…それはカッコ悪くない?」
「ぐっ」
「多分君の事だから、障害や争いがなければ莉奈さんが帰って来るからと思って焦ってるんだろうけど…君甘すぎるじゃないか?」
「ぎぎっ」
「そもそも依存している上に君の頼りなさと、短絡的な所で出ていたんだと思うよ。」
「ぐはっ‼」
東哉、精神が瀕死である。
最近色々な事を経験して東哉も思うところが出てきた。それに伴って、何故莉奈がいなくなったかを改めて考えたのだ。
手紙には言えない事情と書かれていた、今なら解る『能力者』の事だ。そう考えると自分の五年前以前の記憶もそれに関係している可能性がある。だから莉奈は身を隠したと考えたらしっくりくる。
「とはいえ、人に言われるとクルなぁ…。」
「何? 自分の不甲斐なさを感じたらさっさと出て行ってくれよ? こっちは君みたいに暇じゃないんだ。」
「それはそれとしてムカつく!!」
東哉は拓海を後ろから羽交い絞めにして嫌がらせを始める、ちょっとした細やかな報復だ。
そんな時、突然魔方陣の中心、逆さにしたバケツの上に乗せられた少し大きめのグラス、更にその上に乗せられた盆と言う妙なオブジェクトが小さな音を奏でていた。
「なんだそれ?」
「ちょっとどいて!!」
東哉を振り払い、それに近づくと盆の上には白い砂が敷かれておりそれが音によって動いていた。
「鳴っているのはお盆の下のグラス? 白い砂が動いてる?」
「桂二が設置していった簡易励起波増幅装置らしいよ。この盆の砂見てみると解るよ。」
「砂…盆に描いているのはこの学校の地図…砂が何個所かに集まってる?」
「この数日、時々収集していた声が途切れたり聞こえずらくなっていたんだ。桂二に相談したらこれを設置していったんだ。」
話によると、拓海が感知している心の声は脳から漏れている精神波をキャッチしているモノだと言う。波の阻害がされているという事は、携帯の電波が遮られていると同じなのだ。
そこで桂二は波の性質を利用して、遮っているであろう励起法の余剰エネルギーをキャッチし振動する特殊なグラスを持ち込んで携帯の位置を知る為の三点測位を利用して励起法を行っている人間を探し出すものを作り出したのだ。
「あいつも色々やってるんだな」
「とは言えこれで励起法を使ってるやつ…能力者が見つかる。」
「この位置は…どこだ?」
「平面図だから解んないけど、ここは一階の図書室・二階の自習室…三階の生徒会室。」
お盆に描かれた地図は空から見た地図なので、高さは解らない。それゆえに場所は三か所に絞られた。
「俺、行ってくる。」
「ちょっと待ちなよ…行っちゃったよ。能力者が犯人とは限らないけど、桂二が言うには可能性は高い…あー、僕も人が良いよね。まあ、莉奈さんが悲しむといけないから仕方がないか…。」
そう言うと拓海は携帯を取り出して桂二と誠一に連絡を取った。
放課後の生徒会室、先日の殺人事件で校内に人が誰もいない。東哉は自習室と図書室を見て回って誰もいなかった、最後の場所はここだ。
引き戸を開けて中に入ると、その中は東哉が思っていない光景があった。




