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いつもの日々に  作者: ルウ
悪意の残響
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悪意の残響 過去語り

夜の部に入る前の喫茶店『里桜』、そこには残ったままの天子と桂二がいた。


「いいのか? 俺と二人で、誠一の奴が勘違いしたらどうするんだ?」

「だいじょーぶ。灯さんがいるから。」


天子はそう言ってカウンターを指さす、桂二が見れば苦笑いした灯が手を振っていた。


「それに今回の件が一段落したら、一緒に買い物行く約束したんだよ。デートよ、デート。」

「いっいつの間にっ…ん? 買い物行く約束って誠一はただの買い物って勘違いしてないか?」

「どこの鈍感系主人公よ。東哉君じゃあるまいし。ともかく私は一歩リードよ。」

「へーへ。青春をおくれて幸せなこって…てか、幸せ報告で残っている訳じゃないだろ? 本題を話せよ。」


人の幸せは喜ばしい事だが、色々と忙しい中での呼び出しに少し苛立っていた桂二の言葉が荒れる。


「忙しいのは解るけど、誠一君に聞かれたくない話なのよ。」

「聞かれてたくない話?…あいつの過去に関係する話か?」

「そう。私がまだ実験体モルモットだった時の話よ。」




数年前 某所 桃山化学 実験研究所。


桃山財閥の中でも極秘となっている研究所、そこではとある研究をする為に色々な人体実験が行われてきた。その実験の目標は能力者の『能力』についてだった。

能力者の定義や能力者の持つ三つの要素の詳細はサイファ学園都市によって解明されつつあると話にはなるが、実際能力とはどのようなものかと言う研究はなされていない。

励起法はどのような機序で行われるのか、神域の支配領域の演算は脳のどの位置にあたるか、固有能力の発生は身体の一体どこで発生させるのかなど知らない事が多い。

桃山化学研究所はそれを解明するべく、日夜研究している能力者を使って。


「今となっちゃあまり覚えてないんだけど、当時私は両親が死んでふさぎ込んでいた子供だった。小学校一年の頃だったかな、両親が乗る車がダンプカーと事故を起こして死んだの。まだ子供だった私は塞ぎ込んで、親戚をたらい回しになって所を孤児院に送られたの。」

「そうか…」

「いらない気遣いよ、今となったら色々な出会いがあったから悲しくないわ。」


寂しさはあるけどねと言いながら天子は話を続ける。

天子がいた孤児院は桃山財閥が経営していた、経営者から職員まで桃山財閥の手が入っているのだ。孤児院に入った後、一週間も経たないうちに天子は移動させられた。バスに乗ってどこかの中継地でコンテナに積み込まれて、あの研究所に送られたのだ。

最初の一週間は入院着に似た服を着て余り美味しくないご飯を食べて過ごした、次の週から段々過酷になっていった。良く解らない実験、体のあちこちが痛くなるような投薬、苦しくストレスがかかる検査。日が経つにつれ連れてこられた子供たちは、段々異常を来した人数が増えていく。弱っていって櫛の歯が欠けたように、一人また一人と子供たちは消えていく。

そんな毎日を、地獄のような毎日を過ごしていた。だがそんな毎日の中でも天子たちの間には妙な連帯感が産まれ、家族の様な兄弟の様な親友の様な関係が出来ていた。


「あの研究所では私たちは名前じゃなくて、実験体№で呼ばれてたわ。莉奈ちゃんは67番東哉君は108番、手首程の穴をあけることが出来る40番、光を操るお姉さんは145番、お調子者でリーダーに成りたがる260番、凄い身体能力で頭をよく天井にぶつけてた黒人の男の子581番、中東生まれのだと思う磁力を操る女の子617番、そしていつも本を読んでた711番…他にもいたけど、最後まで生き残ったのはこの8人位だった…」


とても寂しそうな顔をして天子は語る。地獄のような毎日の中でも励まし、笑い合い、喧嘩しながらも生き延びたあの頃が、とても大切な日々だった事も否定できなかった。


「私は能力者としてはあまりサンプルにならないって事で良く殴られたり罵倒されたりしていたの。そりゃそうよね、能力者の中で一番多い感知系の能力。識者だとあまり実験に使えないみたいだから…そんな私をよく庇ったり助けてくれてたのは711番、よく持っていた本を顔の前にだして守るように私の前に立ってたのを今でも思い出すわ。」

「おい、それって…。」

「そう、711番は誠一君よ。私あの頃、ずっと彼に守られてたのよ。」

「…それにしては、あいつ気付いてないし…記憶がないみたいに見えるけど?」

「それは多分、あの日。研究所が火の海に包まれる少し前にあるの。」


研究所が火に包まれる少し前の事だった。

天子が今でも覚えているのはその日研究所の空気がいつもと違っていた、建物の中が落ち着きが無いような胸騒ぎがするような感じだった。窓から外を覗けば、玄関のロータリーを滑るように入ってくる黒いリムジン。そこから出てくるのは薄ら笑いを張り付けたかのような毛色の違う研究員が来たのだ。

気持ち悪いナニかと言う印象を抱かせる男で、その時天子は見て目が合った瞬間に言いようのない悪寒が背中を走ったのを覚えていた。


「その男が何者かは解らなかった。でも、何をしに来たかは何となく解ってた。それを身をもって知るのはすぐだったわ。」

「…」

「能力者を使った実験。私と260番と東哉君の能力を開発するという名目だったんじゃないかな? 私はアイソレーションタンクが嫌いで、恐怖しかなかったからあの時はとても抵抗して、東哉君が守ってくれてたの・・・そうしたら。」


薄気味悪い男は薄っぺらい笑顔を張り付けて、いつの間にか実験室の中に入っていた。そして抵抗する私と守る誠一君を楽しそうに一瞥すると持っていた杖を260番に突き付けたとおもったら。260番が突然豹変したかのように誠一に襲い掛かったのだ。

獣じみた動きで当時小学校の高学年ほどの身長の260番が片手で誠一の首根っこを摑まえると、罪人を捕まえるかのようにアイソレーションタンクに叩き込んだのだ。


「そんな事が…。」

「私は研究員に押さえつけられ、誠一君が260番に頭を押さえつけられてアイソレーションタンクに沈められたのを見ていた。私はその時憤ったわ、自分の力のなさに心の弱さに。そして誠一君を助けたい一心で、身じろぎして研究員の手から逃れようとしたその時、身体を震わせるような強い揺れが来たの。そこからは同じ流れ。火災報知器が鳴り響いている中で誠一君を背中に抱えて、みんなと合流してバラバラに逃げたって話よ。」

「お前、それ何で今話した。もっと早い時点で言えただろう?」

「忘れてたのよ、と言うか誠一君も私もそれぞれの生活があったから、あまり話せなくってね。」


そりゃあそうか追手がありどこでだれの目があるか解らない中で、そんな対応を取ったらバレる可能性があるのだ。しかし忘れてた? なんで今と桂二が頭を捻っている中、答えは天子から簡単に出た。


「うちの生徒会長、260番よっと言いたい所なんだけど…」

「おいおい、マジか、生徒会長までか…」

「違うって、私もそう思ってて話してたんだけど…ちょっと別人っぽいのよね」


天子も最初生徒会長が、あの260番だと思っていた。顔も成長してから変わったのだろうが面影があったし、話を何となく振ってみたがその当時の事を語ってくれたのだ。だから彼女は彼を260番だと思ったのだが、挙動のおかしさはスレイブジーンにしては何かがおかしすぎると天子は直感で感じ取っていた。


「何かおかしい、生徒会長か。」

「桂二君お願い、260番を調べてくれない?」

「いいよ、出来る限りの事はしてみよう。でも対価が欲しいなウチも慈善事業やってんじゃないからさ」

「解ってるわ、ただ今回は情報よ」

「どう言う?」

「さっき話した260番に杖を向けた男…多分『残響』よ。」


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