悪意の残響 焼けたモノ
高見原学園の敷地は大きい、生徒数が4000人程となる場所が必要なので当然となる。
敷地面積10ヘクタールと広大な学園で、六棟の校舎と三階建ての体育館、運動場と野球場、サッカーグラウンドに屋内プールがある巨大な学校である。
そんな学校の運動場で火が上がっていた。
夕暮れの中、煌々と燃えるそれは踊るように動いていた。
いや踊るようにと言うのは誤りだ、それは人型をしていたのだから踊っていたが正確だ。
日も沈みかけようとしていた時間帯ゆえそれはグラウンドを照らし、身に纏った炎をまき散らすように踊っている。
テスト期間の最終日、だれもいない学校の放課後で起きた事。
遠くで消防車のサイレンが響いた。
「ん…あー寝てた」
連日のテストとテスト明け早々思惟からの技を伝授で疲れていたのか誠一は、自室に入ると直ぐにベットで寝ていた。気づけば早朝、メールの着信音で目が覚めた。風呂に入んなきゃなと呟きながら枕元に置いてあるスマホを手に取り文面を見てみると、彼は目を見開き慌てて通話ボタンを押した。
「…もしもし、これは本当の事か!?」
『マジもマジ。工業科の後藤が死んだ、死因は焼死らしい。』
電話の相手は桂二、内容は学校で焼死体が発見された事らしい。
「何時だ?」
『えーと、待てよ…昨日の八時くらいらしい。部活の奴らも帰った後、戸締りする先生が運動場が光っているのを見て近づいたら、燃えるものを見たらしい。近づいたら人間で、慌てて110番通報した流れらしいな』
後藤利夫、工業科二年に在籍する所謂不良と呼ばれる人間だった。この学校では不良とか半グレとか呼ばれる人間は少ないのだが、いると言えばいる。
『軽い身辺調査で分かったのは、結構いろいろと悪事を働いている奴で。直近では恐喝や暴行、窃盗の犯罪行為を繰り返してた。』
「それで? この間の東哉から聞いた声と能力者は関係はあるのか?」
『わからんが、東哉の話を聞いて色々と聞きこんでいた事と関係するかもしれない』
「と言うと?」
聞きこんできた話によると、その後藤かは分からないが痴情のもつれ男女関係の争いがあったのは確かだという事らしい。
「俺は聞いてないけどな。」
『そう思うならもうちょっと人と関わり合いを増やせ、拳法馬鹿』
「すまん」
『まあ。ともかく、俺はもうちょっと調べてみる。事件で今日は臨時休校になったらしいから、みんなで一回集まろう…灯さんの店に一時でいいか?』
「了解、行くよ」
電話を切ってから誠一はシャワーを浴びながら考える。自分が今からどうするべきか、何をすべきか。
「彩さんが来られない?」
「そうみたい。古文で赤点取っちゃったんだって」
「何やってんだ…まあ東哉の奴も暴走してるっぽいから今はいいかもな」
「暴走?」
「そう、どうも今回の件で責任に感じているらしくてな、拓海の奴を捕まえてパトロールするつもりらしい」
「斎ちゃんからの情報によると校門の近くで喧嘩しながら歩いてたらしいよ?」
あのブラック拓海に絡みに行くとは度胸あるなと誠一は苦笑い。東哉が罵倒されているのが目の裏に映るようだ。
「三人だけ、何とかなるか…」
「ああ、何とかなるさ…それより、聞き込みしてきた。天子さんもするって聞いてたけど?」
「一応友達に聞きまわってみたけど、手掛かりはなし」
「後藤の女性関係は聞かなかった?」
「ごめん、私の方は無かった~。あの男、本当に誰かと付き合ってたの?」
後藤と言う男は、とても評判の悪い男だった。暴力行為はもちろん、強請り集りを日常的にやっていると言う男だったからだ。
「その話は俺も知ってる。校舎が違うにも拘らず普通科の俺達でも知っているからな。桂二はあいつのグループに知り合いがいるからくわしいんだろ?」
「情報収集のために知り合っただけだよ。とは言え、お前らよりは詳しい。噂は本当、ただ彼女はいないない…がさっき聞いた話だと彼女はいないんだが寝取った相手がいるらしいんだ」
「うわ、最悪…死んで良かったんじゃないの?」
珍しく顔を顰めさせて罵倒する天子に、誠一もそこまで酷い奴だったんだなと眉間に皺を寄せる。聞けば合コンに大学生と偽って入り込み来た女の子に酒をしこたま飲ませて泥酔させて、ホテルに連れ込んで暴行した挙句に撮影をして脅しているらしいとグループの男から聞いたらしい。
「なんつーか話を深掘りしていったら更に関係者が増えて行って、裏取りしたらヤクザまで話が広がっちゃって困った。」
「話がデカくなりすぎだ。」
「どうするのそれ。最悪、組事務所ごと潰さなきゃいけないんじゃない?」
あまりに話が大きくなりすぎた為、三人は頭を抱えてしまった。対処するにしてもこのままではどこまで対処していいか解らないからだ。犯人だけを捕まえればいいのか、それとも関係者も何とかするのかどのレベルまでやるかを決めないとズルズルと長引きそうな問題だった。
暫く悩んでいると誠一が口を開いた。
「よし、とりあえずはこの話は犯人を見つけてからしないか? 対処するにしても犯人の動機が解んないしな。」
「確かに、色々考えているより一つ絞った方が良いかもしれない。ちょっと街の様子もピリピリしてるしな」
「街の様子? なにかあったの?」
「路地裏のグループが息をひそめるかのように静かだ。桃山の裏の部隊も最近ずっと待機して出動も見られない。」
なにかがある、その前兆のようだと桂二は言う。が、桂二本人はその原因は解っている、その原因の一員だからだ。
「ただ言えるのは、桃山の奴らは守りを固めている。彩さんの方はこのままだと進められないから、一時休止だ。むしろ、この件はあいつらに気付かれる方が不味いさっさと片付けた方が良い。」
能力者狩りをしている桃山に気付かれた場合、この学校の事を調べられ最悪乗り込んでくる事も考えられると桂二は言う。学園に武装集団とかどこの妄想テロリストだと呟きながら誠一は言う。
「じゃあ、彩さんの件は少し待ってもらって、こっちをさっさと片付けないと。」
「今後の調査に影響出るわねー。頑張りますか、で今後の予定は被害者探し?」
「そういう事になるな。彩さんの補修と再テスト含めて二週間くらいかな? そこを目標に解決しよう。」
「俺の方はどうする桂二。」
「調査の方は俺がやるよ、だけど今回の件とは違うんだけど頼みがある。」
「頼み?」
そう言うと桂二は誠一と天子を見て笑った。
高見原港区 倉庫街 芝川組系列 高山組倉庫
「バカ野郎が!!」
倉庫の中に大きな怒号が鳴り響く。細身の強面の中年が座っている若いチンピラに向かって怒っていた。内容はどうも警察に引っ張られた男の話についてらしい。
「それでなんだって? 死んだ後藤って尻の青い餓鬼に持ち掛けられた仕事がバレたって?」
「はい、スミマセン!!」
頭を下げるチンピラたちは震えながら頭を下げる。それだけ男の剣幕が凄いのだ。しかしそれは当たり前の事だった、取るに足らない小遣い稼ぎの様な商売をするために危うく彼らの本当の商売がバレるところだったからだ。
「バレたらどうなると思ってんだ!! 関係者すべて口封じされるのが解んねーのか!!」
そうやって強面の男はドンと後ろにあるコンテナを叩く、中には円筒形の大きな透明な筒の中につまった液体の中に浮かんだ全裸の男が眠っていた。




