悪意の残響 読心の落とし穴
能力者の肝、主な力と言えば以前も話した通り固有能力と励起法、そして神域だ。
励起法は身体強化だと思っている人間が多いが実は違う。励起法とは物質操作によるエネルギーの効率化と増幅だ。身体から生まれるエネルギーを効率化により最小エネルギーで最大の効果を生むように使い、細胞内のエネルギーを励起深度分のエネルギーへと乗数増幅させるのだ。
また固有能力は増幅されたエネルギーを利用し、体内にあるとある出力器官を介して個人それぞれの能力へと昇華し出力される。
とまあ、ここまでが以前説明した事に少し補足したものである。が、一つだけ説明が出来ていない。
「私程度の神域があれば、そうそう心を読まれないと思ったんだけどなー」
「そうなの?」
「そうよ? 彩ちゃん、能力者に覚醒してどれくらい?」
「えーと、覚醒以前から読心使えてたんだけどハッキリしてきたのはここ数年ね。そう考えると…二年前ぐらい?」
「能力者の講義とか受けた?」
「なにそれ?」
初耳のだと頭をかしげる彩にそこからかーと天子は頭を抱えた。とりあえず色々な疑問を飲み込みつつ天子は順番に話を始めた。
能力者の三要素の最後の一つ神域。正式名称『神域結界』、似たような名詞を二つ繋げているので普通は神域と呼ばれる。神域は以前説明した通り能力者の支配範囲をいう、これは名前の通りその範囲の中では、能力者の絶対的な感知範囲になり固有能力を使える範囲となる。
「ん? 解りにくいわ。」
「簡単に言えば神域範囲内では能力が使えて範囲外は減衰する。逆もまたあるわ、相手の能力で作られたエネルギーを減衰させる力がある。」
「それってゲーム的に言えば自分にバフ、相手にデバフって事?」
「あまりゲームしないから良く解らないけど、多分あってると思うよ。」
そうそれが神域の最大の特徴だ。そしてそれが今回の話に繋がっていた。
「そうだからこそ今さっきの話に繋がるの。物理現象は尽く減衰される、能力も例に漏れない。だから私の神域であれば防げると思ったんだけど、たぶん励起法の深度が私と近いからだと思う。」
固有能力と神域の強さは、それのエネルギー源たる励起法にある。それ故、励起法の深度は固有能力と神域の強さと比例するのだ。
「そうすると神域の強さが距離/励起深度係数に…ああ、ごめん。訳解んないよね、でもこれ能力に覚醒した時に私も教えられたのよ。」
「誰に?」
「あなたも知ってる人だと思う。サイファ学園都市の重金浄教授。」
能力者には暗黙の了解がある。出会った人が能力者の可能性がある場合や覚醒しそうな年下であったのであれば、知識を与えて今後の進む道を決めさせるのだ。
その様な事がある為に、天子は彩が知らない事に対して頭を抱えたのだ。正確には知らないのではなく知っていることが少ないと言うのが正しいだろう。
なぜならば、これは能力者と言うか読心系の能力者の弊害だった。
「多分私、読心の能力の所為で無意識に解った気になってた。」
話を聞いたりする場合、読心の能力を持つ人間は無意識に心の声に集中してしまう。普通の会話やコミュニケーションによっては得られない真実の声の方に集中してしまうのだ。
「教授から聞いてた言葉を無意識に聞き流してたのね?」
「そうだと思う、あの先生頭の中と喋る事とが結構違う事が多いって、あとで気づいたんだ。」
それで心の声を中心に聞いてたら思い出せないわけだと天子は溜息を吐いた。
「だったら私が教えるわ、心の声を聞くんじゃなくって言葉で聞いてね?」
そう言って話が始まった。
学園都市の大きさは約200㎢、盆地にあり町の各地には温泉が湧いている。寂れていた温泉地だったのを『サイファグループ』が当初、地熱発電研究所を立てたのを引き金に色々な研究所が立ち並び、人材を集める為大学が立ち現在の形になった。
そんな学園都市の創立の歴史の裏で進んでいた、能力者による能力者を教育する機関。桂二との出会いは二年前、サイファ学園都市内の能力者関係者エリアの中でだった。
「桂二君と出会ったのはサイファ学園大学附属中学校のカフェテラスの横で首根っこ掴まれて引き摺られているところだったの。」
「あいつ何してんのよ。」
「引き摺ってた人によれば、好奇心だけで危険なとこまで突っ込んじゃって。取り返しのつかない所に行く前に捕まえたらしいの。」
当時の桂二は中学生の身で、好奇心だけで突っ走る馬鹿な子供だった。最初はただ噂好きの少年だったのだが、ある日テレビの特集で流れた噂話の真実とやらのせいで噂話を掘り下げる快感を知ってしまったのが運の突きだった。それから彼は噂を求めてあらゆる場所へと出向くようになったと言う。西に噂があれば情報収集に向かい、東に不穏な噂話があれば飛び込むべく体当たりで話を聞き、北に噂話の好きな女性がいれば口説き倒した事だってある。
そこが彼の分水嶺だった。噂好きの女性(20代)が不味かった、まさかのヤクザの情婦で能力者の用心棒がいる組に連れていかれると思っていなかったのだ。
「アホね。」
「私もそう思う。欲望のまま突っ走てたんだと思うよー。まあ、落とし前を付けられる前に、丁度乗り込んで来た第三部隊の戦闘部隊が乗り込んできて助けられたんだってさ。」
彼はとても運がよかった。何しろ部隊内で一番情け深い通称『爺部隊』が両手両足猿轡の桂二を助け、第三部隊の大隊長が桂二の才覚を見抜き直々に鍛えたのだ。
「その日は訓練で気絶していた所を引き摺られていたのがその時。今でも思い出す、白目で泡吹いてぶっ倒れてる桂二君が、目の裏に映るわ。」
「地獄を見たのね…わかるわー」
「わたしもー」
優れた能力者は弟子に地獄を見せる傾向があるのかなと二人は遠い目をしながら考えた。
「という事は、その時からの付き合いって事?」
「そういう事。最初は何でも聞きたがる少しうざい奴だったけど、今じゃ立ち回りがうまい師匠譲りの食えない奴になったけど。」
「…そもそも第三部隊って何?」
「あーそれはね。」
第三部隊、裏で流れる噂では、集団戦闘を得意としながらも個人々々も戦闘力が高い正体不明の集団だが本当の姿は少し違う。
個人が強いのはそうだが、一番はそこではない。全員が能力者であり上位の隊員が斥候・歩兵・諜報・支援・指揮すべてが出来る訓練された兵だ。
そしてのその出自は全て。
「初期メンバーと上位隊員は、みんなサイファ学園都市の出身なの」




