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いつもの日々に  作者: ルウ
悪意の残響
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悪意の残響 鍛錬と過去

ズシンと大地に響く震脚の音、大地と並行に飛ぶ東哉。いつかの見た焼き直しの様な光景に、東哉は芝生に大の字になって仰向けに倒れた。肩で息をしながら空を見合上げると、今にも雨が降りそうなどんよりとした雲が見えた。


「青空じゃねーのかよ」

「あースマン、手加減してたんだけど…これでもまだ強かったみたいだ。」

「お前、どこまで強いんだ」


小走りで駆けてくる誠一に、東哉は起き上がり半目で愚痴る。


「多分本気で打ったら励起法使ってガードしても突き抜けると思う」

「怖っ」


あれから半時もたたずに二人は対峙していた。東哉の現在の実力を知りたい桂二と、その東哉が余計な事をしない為の言い訳として誠一に押し止めてもらうために、ちょっとした勝負をする事となったのだ。

結果は完敗と言うか惨敗、東哉は何もさせてもらえずに叩き潰された、しかも手加減されて。


「でもなんで、攻撃が一発もはいらなかったんだ? 防御はいくらか出来てたけど。」

「ガードの上から打ってたんだから出来るさ。…東哉、お前は短期間で訓練をしたんだと思うけど、直した方が良い癖がある」


東哉の攻撃に癖がある。誠一は最初、戦いを習い始めて数週間だと当たりを付けて東哉を観察していた。教えた人間が優秀だったのだろう、素人にありがちな大ぶりの攻撃や照れポンパンチの様な独特の癖もない。だが、訓練期間が明らかに少ない癖が消え切れてなかったのだ。

誠一がそれを伝えると、東哉はムゥと唸って考え込む。


「どうした?」

「最近、よく言われてるんだ…」

「お前も苦労してるんだな。」


ひと昔前の自分を思い出して誠一は、基本的な身体の使い方と癖の消し方と癖がない事のメリットを教えた。


「とまあ、癖がないと相手の指標が一つ消える。相手がそれだけで迷いそれだけで有利になる」

「なるほど。自分に有利な状況を作り出すってこう言う事か、聞いた事はあったけど実際どんな風にやるか聞いたら納得したよ。」


東哉が納得して考え事をしている間にも誠一は日課の套路を行う。ズシンズシンと踏み鳴らす音は芝生の上とは思えないほどの音だ。


「なあ、水上」

「誠一でいいよ、水上って言いにくいだろう?」

「ああ…誠一、お前どうしてそんなに強いんだ?」

「強い? ああ、気を悪くしないでくれ。俺の周りって強い奴が多すぎてさ、負け越してるんだ。だから、強いって言われてちょっと嬉しくってさ」


誠一は言った。元々彼は強さには興味がなかった、興味があったのは自分の過去だ。誠一は約五年以上前の記憶が曖昧だ、誠一がお世話になった児童養護施設の職員によれば誠一は昏睡状態になっていたらしい。原因はおそらく溺れて酸素欠乏状態になったのが原因らしい。


「その所為で五年前から以前の記憶がどうもハッキリしない。その所為で一時期荒れてたんだ、中学に入ったころには周囲にあたって路地裏でよく喧嘩してた。」

「誠一、お前も…」

「ある日、路地裏のチームの抗争に巻き込まれて殺されかけてな、その時に今の師匠に助けられて強くなりたいと思ったんだ。」


誠一は今でも思い出す、無造作にナイフを振り回す男の切っ先がこちらを向いた時、そのナイフの腹に刺さる釘。ナイフを振り回す男が茫然とした瞬間に懐に入る小さな影、その影が動いた瞬間には男は倒れていた。それから数分と立たずに周りのチームは全滅していた、コマ送りの映像の様に次々と倒れていく男達を茫然と見ていた。誠一はその時倒していく影を見て憧れてしまった。


「あれは本当に強かった。それを見て気付いたんだ自分の荒れ具合に無様さに、自分の弱さに。思わず弟子入りする程だった」

「お前それ多分、精神状態が最悪の時に見たからじゃないか?」

「はは、多分そうだと思う」


その影は酒の入った瓢箪をかついでフラフラと歩きながらチームの男達を倒す思惟だった。まかり間違っても憧れとか尊敬とか畏怖とは程遠い姿だったのだ。


「東哉が言うように今思えば、精神的にやられた時で衝撃的な光景でやられてたんだろうね。でも、今となっては師事して正解だったと思うよ、ちょっと地獄見たけど」


焦点が合わない目をした誠一に東哉は冷や汗をかく、荒れていた精神がすり減る様な鍛錬はどれだけ過酷だったのだろう。


「とまあ、何で強いのかと言えば単に鍛錬に鍛錬を重ねただけだ」

「…えっ!?」


誠一の過去に同情していたら、東哉は突然肩を掴まれていた。


「鍛錬は大事。なに、癖が無くなる様な鍛錬は得意だ。今日中に出来るようになろうか」


肩を掴まれたまま無理やり立たされると引き摺られるように鍛錬の場に出された。

この後日が暮れるまで鍛錬が続く。




東哉が誠一に鍛錬されて死にそうになっている頃、桂二と拓海は学校の屋上にいた。二人は普段は鍵がかかって誰も入れない場所で、屋上の床に何やら書き込みをしていた。


「桂二―、これなにさ」

「あー、これか? これは、その前にお前の所にあるライムとオリーブ取ってくれ。」

「えーと、これか…こっちもミッドナイトブルーとインディゴとって」

「あいよ」


二人は屋上の床に巨大な魔方陣を書いていた。


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