罪人の罰
私立高見原学園。
生徒数約4000人、一学年1200人強のマンモス学園だ。学校の特徴としては普通科と専門家があり、中でも専門科に理数系・工業系・農業系・商業系・音楽美術系と多岐にわたる。高校では珍しい単位制を導入しており、授業の構成を自由に出来るため自分の興味や関心に沿った授業を取ることが出来る珍しい高校である。
そしてこの高校、珍しいのはそれだけではない。
それは、生徒会の権力の強さである。
「そもそもこの学校の先生たちは本当の意味での雇われなんだ」
学習室の一角で東哉達四人は顔を突き合わせて、他の人には聞こえない声で話していた。
「どういうこった」
「うちの高校は私立だ。要するに企業や法人(法律上の団体)が金を出している、要するにスポンサーがいるって事だ。そのスポンサーがこの学校を創立する際に決めた事に他の学校にない事がある、それが先生の雇用権だ。入学の時のガイダンスで聞いただろう?」
入学した時にそんな事を聞いたなーと東哉と浩二は思い出す。斎はこの馬鹿どもがと呟きながら話を続けた。
この学校の先生の人事は概ね企業や法人が行っているが、生徒会が一部その人事を握っている。それは生徒の成績の推移や人気、先生の人格などを考慮しスカウトまたは解雇を要請できると言う。
「それ先生としたら気が気じゃねーよな」
「今のコンプライアンスを気にする社会を考えるとそうだな。だが私達生徒としては有意義な事だと思う、きちんとした先生に教えを受けられるんだからな…ただ、その所為で先生は立場が弱く、生徒会の権力が高い。」
「それで?」
それがどうしたんだ?と言わんがばかりの東哉と浩二に斎はイライラが募る。天子は我関せずと課題を進める・
「お前らが生徒会長に失礼な事をしないかで、ヒヤヒヤなんだ!!」
「えー、俺らそんなにか?」
「浩二はここに来た生徒会長に不躾な目を向けた後に『イケメンは爆発すればいいのに』とか言っただろうが‼ 東哉に至っては以前莉奈と話してた生徒会長との間に入って威嚇してただろうが‼ 忘れたとは言わさんぞ‼」
浩二は乾いた笑いを浮かべ、東哉はそんなことあったのかと頭を捻る。斎の頭痛が強くなりそうだと天子は頭痛薬と胃薬のどちらかが良いかと考える。
「生徒会の権力は強い。もしお前らが粗相とかしたら…」
「ははは、それは言い過ぎだよ」
突然、後ろからかけられた声に天子を除く東哉達は驚いた。声が聞こえた方を見れば、先ほど学習室に入ってきた生徒会長。
彼の名は石動一馬、眉目秀麗・文武両道・質実剛健の四文字熟語がよく似合う好青年である。そんな彼が、いつの間にか人好きのする笑顔で東哉達の後ろに立っていた。
東哉達は一名を除いて驚愕の表情になっていた。
「あ、えー石動会長? どうしました?」
「いやなに、何か私の話をしているみたいだから、興味を持ってね?」
マズイ、聞かれたかと斎は顔を引きつらせる。
が、一馬はなんでもないように笑うと、
「まあ、たぶん生徒会の話かな?とは思ってたけど何の話かは解らなかったから聞きに来たってのが本音かな? で?」
「い、いやー生徒会の活動のお陰で私達の学校生活は充実しているって話で…な? 東哉、浩二」
「え⁉ ああ、そうだな生徒会のお陰で先生たちが丁寧に教えてくれるから授業が解りやすい」
「そ、そうそう、とても助かってます‼」
話を東哉と浩二に振ると、慌てて話に乗ってきた。あからさまなワザとらしさ、大根役者っぷりに斎は顔から血の気が引きそうになるが、表情を崩さず笑いかける。
それに気付いたのか気付いてないのか、一馬はニッコリと笑って話を続ける。
「そうか、それは良かった。私も日々色々な事に頑張った甲斐があるね。この際だから聞きたいんだけど、私はとある事を進めようと思ってね、君たちにも意見を聞きたいんだ…」
一馬が話す横で、天子は気付かれないように席を立つとそっと学習室から出る。それから三つ離れた空き教室に入り空いている席に座る。携帯電話を取り出し、そっとメールを打った。
「誰にメールかな?」
暫くメールを打っていると、誰もいない筈の空き教室で声がかかる。天子は目もくれずにメールと送ると、いつもの柔和な目と笑みが鳴りを潜め不機嫌な顔で声の主へ吐き捨てた。
「なに? ストーカー?」
「酷いな、仮にも君に告白した相手に」
「何年前の話よ。」
「五年前かな。君はあれから変わらず可憐だ」
軽口のように流れるような誉め言葉に、うんざりとした顔の天子。
褒められて嬉しいものだろうが、天子には響かないし普通の人間には伝わらない無機質な響きを持つ声色で、嫌悪感すらあった。
「同じ系統なのになんでこうも違うのかな」
「俺が目の前にいるのに、別の男の話かい?」
「いいえ、あなたのよく知る男の話よ」
それを聞いて、その時初めて一馬は顔を顰めた。同じ系統、良く知る男。それだけで彼の中ではよく知った男が連想された。
「…それは、711番の事かな?」
「そうよ。私は彼に救われた。何もかも否定された私に、手を差し伸べてくれた彼がいたから今の私があるの。だから…」
ダンと大きな音が空き教室に響く。それは一馬が机をたたいた音で、彼の顔は無表情ながら眉間に皺を寄せて目に怒りの光が溢れていた。
「あいつは、死んだはずだ!! 俺がこの手でアイソレーションタンクに沈めたんだから!!」
「そうね、それを聞いて私は貴方を殺そうとしたわ。でも、彼は生きてるわ」
「そんな事はない!! あいつの息の根を止めた、心臓の音も止まったのも確認した‼」
「そうね、あなたはそこまでした後、アイソレーションタンクにいれて鍵をかけて研究室に火をつけた…だったかしら?」
「ああ、だから。あいつは死んだ、いないんだ…」
何かに突き動かされるように一馬はふらりと立ち上がって、虚ろな目をしながら何事もなかったかのように空き教室を出て行った。その後ろ姿を見ながら天子は、憎しみではなく憐みの目を向ける。
「スレイブジーンの影響か…。でも711番を自尊心で殺そうとして、そこからの禁止行動からの発現…自業自得よ」
遺伝子に仕込まれた悪意によって歪まされるも、己の悪意によって引き金を引いたのだと天子は憐みを持って嗤う。
「殺人行為による脳内麻薬の量によって引かれるトリガー。馬鹿ね、彼は生きてるわよ260番」




