囮の奮闘
少々遅れました。活動報告には書きましたが、身内に不幸がありバタバタしていたため遅れました。
公園で杭を打ち見つからないように急いで去った後、誠一は近くの公衆トイレで着替えを始める。白のインナーを着て、紺色のスラックスに同色のオーバーサイズのパーカーを羽織る。そして鞄の中から顔にフィットするように作られた龍を模したマスクをつける。
トイレの鏡で自分の姿を見ると、誠一は呟いた。
「だっせぇ」
自分の姿に苦笑いしながら励起法を最大深度まで上げると、ドアを開いて飛び出した。
公園からタワー前広場まで約1km、励起法で強化した足ならば30秒も掛からない。道なき道を走り、樹の幹を蹴り上へと跳びあがる。それからは身を隠すように枝から枝へとスピードを落とさず飛び移る。
そして辿り着く、最後の樹の幹を少し強く蹴りつけて広場の中心の上空へと飛び上がった。
空中で構えると固有能力を発動し、着地と同時に掌底を打ち付けた。
落下エネルギーと同時に励起法・固有能力『水系の理』による強化の重ね掛け、そのエネルギーを全開で誠一は叩きつけた。
同じ能力者からも異常とも言うほどの怪力で打ち付けると、あまりのエネルギーに打点は小さなクレーターになりその周囲は波紋の様に波打った。
「さて、囮を務めますか」
誠一の目的は彩たちの撤退を補佐する為の囮だ。タワーの展望台はある意味密室となる、そこで情報収集するのならば、見つかった場合は逃げ場がない。そこで誠一が囮を務めることで、逃げる隙を作り出すという事だ。
数分もたたずに完全武装した人員が集まってきた、20人ほどの人員。思っていたよりも少ないが、誠一は今やれることをやろうと袖に隠しているトンファーの持ち手を握り締める。
「いくぞ」
腕を盾に誠一は突っ込んだ。
その日、桃山グループが抱える対能力者戦闘のプロたちは自信を粉々に崩壊させた。
数々の能力者を鎮圧し捕縛してきた『ハウンド』部隊まではいかずとも、二番手で実力者と植われるほどの年季の力があり自信があった。しかし、その日高見原タワーに来た相手は単身で乗り込んできて恐ろしい立ち回りをしたのだ。
最初はショットガンの一撃だ。普通、鎮圧や捕縛ではゴム弾を使うが、今回はクマやイノシシを狩るときに使うスラグ弾だった。これはコンクリートブロックを砕くほどの威力があり、能力者といえども当たり所が悪ければ致命傷になりかねないほどだ。
しかし今回の相手は違った、スラグの一粒弾が当たったにもかかわらず怪我どころかのけぞりもしないと言う異様さだったのだ。
しかし歴戦の隊員でもあるので動揺もなしに、数人が特殊硬化ライオットシールドを構え囲んだ。だがそれは握手だった、相手の得意距離は近接戦だった。至近距離のマグナム弾すらはじき返す特殊硬化ライオットシールドが、相手の拳一つで凹むどころか突き抜けたのだ。
突き抜かれたライオットシールドを持った隊員は、どれだけの膂力で突きを入れられたのか解らないほど、地面と平行線を描きながら吹き飛ぶ。
他の隊員はそれに怯むことなく特殊警棒で殴り掛かるが、男が持っていたトンファーでガードされもう片方のトンファーで殴りつけられ、先ほどの隊員と同じ結果を辿った。
その間炎を操る能力者がいたのか、誠一を直径一メートルほどの炎の球体が襲う。誠一はそれに動揺することなく腕を鞭のようにしならせ、励起法が許すだけの速度と膂力で掌底を炎の球体との間に打ち出した。するとどうだろう、炎の球体がひしゃげるように崩れ霧散した。
「バカな」
誰が呟いた言葉だろうか、それはそこにいた桃山グループの隊員の心の中で思った言葉だ。それほど現実感がない光景でもあるともいう。能力者と普通の隊員の混成である部隊でこれだから、その異常性は察していただけると思う。
動揺が部隊に広がり、隊員たちの足をその場に止めた。攻撃が通じない防御は意味がない、牽制を簡単につぶされる能力としての攻撃を後出しで完全に対処された。これだけをたった一人が行い、ものの数秒で数人が戦闘不能状態だ。
何をしても通じない、そんな現実が隊員に足枷を掛けた。
「怯むな!!」
そんな足枷を破壊するような力強い声。
「攻撃が効いてない様に見えるが、見えるだけだ! 少しでもいい、畳みかけろ!!」
それはチャコールグレーのスーツに赤いワインレッドのネクタイをした男。
東哉が見れば誰かが解るだろう、天子が見れば警戒するだろう。彼の名は解らない、だが通り名は有名すぎて知るものが多い。二つ名は『崩壊のマエストロ』、通称は『炎の剣』フランベルジェという。
『炎の剣』、なぜ彼がそう呼ばれたのかと言うと能力者としての彼の固有能力にある。
彼の固有能力は依然話していた通り東哉と同じ『分解』に関しての能力だ。ただ分子間結合を切る東哉と違い彼の能力は分子自体を振動させて強引に切る方法だ。
それ故彼が能力を行使すると、分解した部分から粒子状の分子が噴出し場合によっては対象が燃え上がる、そこからつけられた二つ名である。
誠一は桂二からこの付近にいるであろう要注意能力者の事を聞いていたから相手がどんな能力者か解っていた。
だから、誠一は地面を揺らす様な踏み込みと同時に、身体の捩じり両腕の開き体捌きをもって一歩でフランベルジェに肉薄する。
「判断が、早いっ!?」
自分を見てから数秒で踏み込んでくるこの判断力。雰囲気かそれとも最初から自分の実力を知っていてなのか、初手でチェック狙いかとフランベルジェは戦慄する。
「最近は、若い奴が、厄介だっ‼」
先日の失態を思い出しながらフランベルジェは誠一の攻撃をかわす。
一撃目の攻撃はスウェーバックで避け、二撃目の中段打ちは内に入るように躱してしまい三撃目は肘でガードする。
肘でガードするも誠一の突きは絶大、綺麗に吹っ飛んでしまうがフランベルジェはただでは起きないとばかりに中段蹴りを撃つ。
「うぐっ」
「痛っ」
何だこの一撃は、いくら励起法で強化されていてもこちらも励起法を使っているんだ、子供っぽいと言え甘く見たか?
体勢を崩しながらも、こんなに強い蹴りが放たれるのか? 聞いていた通り、歴戦の戦士だな。
二人はお互いの技量に驚きながら、心の中で舌打ちをする。気が抜けない戦いになる、自然と互いに実力を認めたことになる。
そこまで考えて誠一は、周りの包囲がじわじわと狭まっていることに気付く。自分の能力がいかに規格外とは言えども多勢に無勢だ、撤退の為に誠一は腰を落とし…。
「五番!!」
変声機で変えられた電子的な声に、誠一は能力で頭周囲を強化しバク転の要領で頭を抱えながら後ろに飛んだ。それと同時に誠一がいた場所に投げ入れられる、1,5ℓサイズのペットボトル程の大きさの金属の筒。
「全員対ショック体勢!!」
フランベルジェがそれが何かに気付いて隊員たちに警告を出すが遅かった。地面に落下した直後、150万カンデラと言う失明しかねない光度で光り200デシベルと言う人体を破壊する衝撃波と言っていいほどの音が起こった。
対能力者鎮圧用閃光手榴弾、通称『フラッシュフラッド』、あまりの光度の強さと持続性に光の洪水と称された代物だ。腕で目を隠したフランベルジェ、偏光グラスを付けたうえで顔を隠した隊員ですら何も見えない聞こえない状態に陥ってしまった。
それから数十秒して視覚と聴覚が先に戻った能力者達が周囲を見ると、そこにはもう自分たち以外は誰もいない状態だった。
「逃がしたか…、無駄だと思うが感性に連絡して追跡を…次から次へと最近は厄日だ」
フランベルジェは舌打ちを一つするとタワーへと入った。




