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いつもの日々に  作者: ルウ
喪った影を探して
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地響き

「共振現象を使った振動観測?」


共振とは物体に固有振動(物が持つ復元力による振動)を繰り返し与えると、離れた場所の似たようなモノにその振動が伝わり同じように震える現象である。


「これは色々条件があるんだけど、固有振動数とそれを繰り返す事が大切なんだ」

「固有振動数か、俺に出来るか?」

「出来る。いや、能力者じゃないとできないんだ」

「どういう事だ?」


以前、能力者の定義を思惟が語った。(26話能力者の定義より)

その時、思惟は言った『神域内の空間処理速度』と。

それは能力者には能力を使うために、超高速で空間内を処理する能力があるという事である。重金教授曰く、そのスピードは最先端のスーパーコンピューターを凌駕すると言われている。その能力を駆使すれば、固有振動数の割り出しは簡単だと桂二は言いたいらしい。


「暴論じゃないか?」

「まあ、いきなりやれって言っても無理なのは解っている。だからこれだ」


桂二は手に持っている金属の棒を誠一に渡した。


「これは?」

「ただ頑丈で弾力があるだけの棒だ。『儀式彫り』で見た目より頑丈に作られている、これを近くの公園の中心にぶっ刺して、振動させるように思いっきりぶっ叩いてくれればいい」

「…俺に適任だという事が解った。ところで、共振って言ってたけど何を共振させるんだ?」

「ここ」

「…ん? ・・・ここ!?」


桂二が指さしていたのは、展望台のあるこの塔だった。




「この地下に地下鉄を利用した搬入路があるとすれば、鉄杭を伝った振動波が通路によって反射してこの塔の基底部に伝わり共振現象が起こる可能性がある。そして振動は波だ、蒼羽さんならその能力なら解るはずだ」

「そうね、まかせてよ」


すると予兆の様な振動が高見原タワーを震わせ始めた。

桂二の想定以上の波は地震の様で、いくら剛力無双を地で行っている誠一でもこれは異常だ。考えられる状況から桂二はまさかと天子に聞く。


「蒼羽さん、地下通路は何本だ!?」

「…1、2、3…6本!! 桂二君この揺れ何!?」

「これは、振動の合成だ! 響いた地下道が音叉の役割をして、全部が一斉に響いた。それがこの高見原タワーで収束して、振動が合成されて想定以上の波になってる。まずい、ここまでの規模は想定していない。折紙さん‼」

「…こっちに来ている奴らはいないけど、下の方で集まって…?」


その時、鐘の音が鳴った。

鐘の音と言えば、教会の鐘や寺社の鐘などが連想される。それらは宗教に関係することが多いため、荘厳や静謐なイメージが付きやすい。だがこの鐘の音は違っていた。


「なんて気持ち悪い音…、無意識で逃げたくなる…」

「本能で嫌だと思うような音だわ、音の方から逃げたくなるような…」

「チッ、『忌避の鐘』か。」


苦虫を噛みつぶしたような顔をする彩と天子を見て、桂二は携帯を取り出して操作する。

すると携帯から音が鳴り始めた途端、桂二達の周りから不快な音が気にならなくなっていた。


「桂二君、それって?」

「カウンターサウンド、さっきの音の合成の逆だ。今聞こえるこの音は『忌避の鐘』っていう人を音源から無意識に遠ざける人払いの鐘だ。その鐘の音に含まれる人払いの音と逆位相の音を発する事で中和しているんだ。とは言え、厄介な状況になった」

「ええ、マズイわ。人が集まりだしてる。」

「この状況で集まるってのは、バレてるね」

「何とかする、蒼羽さん」


桂二はタブレットを投げて天子に渡すと桂二は最高速でタイピングを始める。


「出している地図にさっきの地下道を書いてくれ、その間に俺は下の奴の足止めを出来るだけする。彩さん。」

「解ってる、迎撃ね。」


彩は腰に巻いていた二つのベルトの一つの端と端を持って伸ばすと、雑巾を絞るように捩じった。すると不思議な事に、ベルトは一本の棒へと変形する。


「桂二君、こっちに来るルートは?」

「エレベーターは止めた、4・5人ほど非常階段から来ている」

「ならそっちに行くわ」


棒を担ぐと彩は非常階段へと向かう。それぞれがそれぞれの役割をまっとうするため動き出した。




高見原タワー地下三階 中央管制室


桂二の見立て通り、地下には地下鉄を利用した搬入路があった。一つは港からタワー地下へと続く路線、昔から残る南の港から伸びる路線、通常の地下鉄とジョイントする隠し路線、そして残るのは高見原の各地にある研究所に伸びる路線が一つとさらに地下に伸びる二つの路線があった。

そしてその地下鉄の運行を管理するだけではなく、エネルギー供給やセキュリティを統括し運営する場所がここだ。

普段はゆったりとしたこの場所は、今だかつてない異常事態に包まれていた。


「高下‼ 状況は!?」

「10分前の長周期地震かと思われた振動ですが、今は使われていない南路線の換気口付近だと解りました。上にある公園に人員を派遣しましたが原因はまだわかっていません。ただこれが囮の可能性もあるので、敵味方識別の為に『忌避の鐘』を使用しました」


『忌避の鐘』それは人間の本能に作用して、音源から無意識に遠ざかるように仕向ける『儀式具』だ。実はこの儀式具には一つ特徴がある、鐘の効果は能力者や儀式使いには効果がないもしくは低いと言う点だ。


「それにより、上のタワーの入場者管理システムの入退場に三人残っている事が解りました」

「怪しいな、鐘が効いてないなら恐らく能力者だ。何人か向かわせろ。」

「小隊を向かわせてます。しかし、どうも変なんです。」

「変?」

「はい、鐘の直後にエレベーターが使用出来なくなって…」

「ばっ馬鹿野郎!! ハッキングされてる、人員を回せ」


この中央管制室は、ハッキングによるシステムを乗っ取られる事を想定して、タワーのシステムを独立させているのだ。もし鐘を使った後この場所で何か異常があった場合、それは能力者の襲撃がある場合だ。


「全員出せ、敵は上の展望室だ!!」

「はいっ!」


その時だった。体を揺らす程の振動が再び響く。


「何だっ、状況報告!!」

「室長、六番モニターを見てください! タワー前広場です」


室長と呼ばれた男がモニターを見ると、顔を龍の被り物をした青年が立っていた。




タワー内にある非常階段、そこは人が倒れ死屍累々と言うような状況になっていた。

中でも息を切らせている一人の男はゴーグル越しに、目上にいるキャスケットを目深に被った少女を睨んだ。


「なんなんだ、お前」


ほんの五分前、五人一組でタワーの非常口を上っていた。地上150m近くにある展望室にエレベーターじゃなく歩きで上がるなんてとぼやきながら登っていた時、そいつは現れたのだ。

フッと蛍光灯で照らされた非常階段に無音で影が差したと思った瞬間だった。女が二列で歩いている男達の中心にいたのだ。気付いた時にはもう遅かった、真ん中の二人が急所を瞬時で貫かれて悶絶する間もなく気絶した。更にそれに対応したもう二人が、一人は拳の軌道を逸らされ同士討ちになり一時行動不能、いれた方は顎に手首を入れられて(孤拳や鶴拳とも言われる打ち方)ノックダウン。同士討ちされた方は鳩尾に蹴りを入れられ、蹲った所を棒の一撃で沈んでいた。

その一連の行動を僅か数秒で行い、四人を沈めた手腕に残った男は恐れおののいた。


「なんだ、何なんだお前ぇ―!」


あまりの事に男は狂ったようにナイフを取り出し振り回し始めた。技も意思もないような、子供が振り回すようなその痴態に女性は溜息を吐きながら、一瞬で男の間合いに入りナイフを持った手を取り投げ飛ばす。


「がっ」


顔から落ちた男に女性は足を振り上げて、…踏みつぶす。


「ただ未熟ね」


小さな声で呟いた瞬間、再びタワーが揺れる。大地が震えるような音と共に。


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