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いつもの日々に  作者: ルウ
喪った影を探して
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塔の上から

高見原は太平洋に面した町である。大きく湾曲した入江が特徴で北には岬がある。その岬の付け根、南に広がる海浜公園との境目にそれはある。

高見原タワー、高見原を見渡せるシンボルタワーにして、複数の事業者の電波を送信する集約電波塔だ。


「とすれば、ここは拠点とするにはいい隠れ蓑だって事だ」



高見原中央区 八巷通り(はちこうどおり) 高見原タワー展望室



誠一が展望室から見降ろす景色は、見渡す限りの樹海。見渡す限りの緑が所々出ているビルの頭が、ここが高見原だという事を理解させる。ここまでの樹海を持つのは富士の樹海と此処ぐらいだ。


「で? 良く解らないんだが?」

「単純に言えば、この高見原全域を監視して素早く対応するには此処が最適って事だ。例えばこの地で戦いがあったとする。誠一、戦いにおいて一番大切なものを知っているか?」

「この流れでその質問、雑すぎん? まあ普通に考えれば情報かな?」

「正解。問題の流れはともかく情報が大切だな。しかし情報は、収集するだけじゃ意味がないんだ。必要なところに必要なだけ渡したり、絞って伝えたり遮断したりと色々なんだ。んで、これを行うとしたら必要なのが」

「なるほど、通信に関係するって事だ」


展望台の一角にある高見原タワーの紹介パネルを見ながら誠一が呟いた。

その時、ドーナツ状の展望室をグルッと回ってきた彩と天子が談笑しながら戻ってきた。


「二人ともおかえり、何か面白いものあった?」

「あった、あった。高見原のマスコットキャラクターのククッチ君がいたよ~」

「え゛」


一瞬、時が止まる。楽しそうに笑う天子と苦笑いの彩。誠一と桂二は思わず顔が引きつる。


「えー、と。桂二、特別展望室まで行こうか?」

「お、おう。」


二人はそそくさと上階にある特別展望室へと足を向ける。

高見原のマスコットキャラクターは、高見原の男性にとっては一寸したトラウマであると彩は地元の友達から聞いた事がある。


「えー、二人とも行こう。上で話そう。」

「ん? どうしたの二人とも?」

「LGBTに理解があっても、生理的に受け入れない見た目は危機感を覚えるのよ」


良く解ってない天子と苦笑いをする彩は二人について行った。




炭酸飲料のタブを開けて誠一は一気に煽る。


「ぷはぁ。美味い」

「ああ、確かに美味い。あの冒涜的な見た目に近づかれなくて良かった」

「思い出させるな…」


特別展望室の休憩コーナーで駄弁る二人が、ぐったりとした表情で話し合っていた。


「SAN値が下がりそうなのは解るけど、話を続けてくれる?」

「…ん、んん。失礼、まあ話をしようか。さっき誠一にも話していたが、この場所は情報収集と発信にとても向いている場所だ。そして、お前らが集めた情報を総合すると。この地下にはおそらく、以前あった資材搬入用の線路をそのまま地下に移して作った地下搬入路がある。」

「ん? 実験室があるんじゃなくって?」

「ちょっと待て…」


桂二は持っていたリュックサックからノートパソコンと携帯ルーターを取り出して操作を始める。


「何をしてるんだ?」

「ハッキング…。一応ここは監視カメラに映りにくい場所だけど、念のため…。よし、ここのセキュリティは予想通りあえて弱くしてるな」

「どういう事だ?」

「待て。システム『フトダマ』に接続、監視カメラに映った俺等の画像を使ってAIによるフェイク動画の制作を依頼。ここに俺等がいないように動画を流してくれ…これでよし」

「お前、色々できるんだな」

「俺が出来ると言うより、アプリケーションが優秀なんだ。それより話を続けるぞ。先ずはこれを見てくれ」


そう言って桂二は紙を取り出して広げる。それは高見原の地図、それも地図の内容を見るに古い地図だ。


「国土地理院のところから持ってきた、開発当時の高見原の地図だ。これを見ると良く解る」

「これは…南の港が今よりかなり遠いね。隣町じゃない?」

「本当、これ私が住んでる町だ。港から線路が出てる、そこから北の高見原に今の在来線に繋がって…」

「今の高見原港まで伸びてるな…高見原港から資材が入っているなら経路があるはずだけど。」


誠一は展望室から高見原港が見える位置へと移動するも、高見原港からタワーにくるトラックなどは見られない。


「そういう事か。倉庫がないし資材搬入用の出入り口がない」

「そういう事だ、研究施設ならそれに必要な資材保管庫とそれにつながる搬入路がない。一応このタワーの基底部の施設に班有する搬入口も調べたけど、シロ」

「…という事は手詰まり?」

「結論を急ぐな。ここが重要拠点だという事は変わりないんだ。」


桂二は説明を続ける。この高見原タワーは確かに情報を扱うには重要拠点には変わらないのだ。では、なぜここが重要拠点なのかと言えば。


「恐らくここにハブ駅がある。」

「ハブ?」

「交通結節点、いわゆる路線と路線をつなげる駅だ。多分、従来の地下鉄と繋がる秘匿された別路線の地下鉄がある可能性がある」

「そんな、映画じゃあるまいし」


天子が揶揄すると、地図を見ていた彩が頭を上げる。


「私はあると思う。私の能力で見た映像、あの感じ何となくそう思う…確信はないけど」

「確信はない…か。桂二、確かめる方法はないのか?」

「…一応ある」


誠一が聞くと、桂二はリュックサックから50cm程の金属の棒を取り出した。


「誠一、共振って知ってるか?」




高見原タワーから少し離れた広場。海に面した小さな公園のような場所だ。桂二曰く、地図を見る限り地下鉄工事の為の資材搬入用の竪穴があった場所らしい。

誠一は周りに人気が無いのを確認すると、励起法の深度を自分の出来る最大深度で行う。


「はぁ、ふぅう」


そして、桂二から預かった一本の金属棒を握る。長さは約130cmほどの長さで、表面にびっしりと文字の様な物が彫られた金属棒だった。

銘は『偽如意金箍棒』。物語の如意棒と違い伸びたりはしないが、この棒はひたすらに強靭性を追求した、ただの壊れにくい棒だ。

誠一は励起法を全開にしたまま、棒を大地に突き立てた。

ズンと重い音が響く。

これで終わりではない、誠一は一歩後ろに下がると腰を落として左を前に半身になり構える。

これから打つのは思惟に教えて貰った勁の一つ。誠一は能力者の力を最大限使い、静かに力まず内勁と寸勁を併用した浸透する勁。


「護天八龍拳『水震』」


突き刺さった棒を掌で撃った技は強力な振動となり、空気を震わせ大地へとその震動を伝へ誠一の足元を細かくそして広がるように震わせた。

誠一は顔を上げて高見原タワーを見つめる。


「桂二、後は頼んだ」


突き立った棒を抜くと誠一はその場を立ち去った。




「来たっ。蒼羽観測頼む。折紙さん能力を使う分そろそろ気付かれる、遊撃で囮をしながら攪乱頼む」


展望室の窓際、双眼鏡で誠一を見ていた桂二が指示を出す。


「了解」

「面倒だけど、やってやるわ」


天子は何時もの黒いレインコートを羽織り、彩はキャスケット帽を目深に被ると戦闘準備を始める。


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