影を探して 一網打尽
撃ち出された銃弾は真っすぐ誠一へと向かう、それに気づいて腕で防ごうとするがそれは無駄だと男は口元をゆがめた。
励起法で強化された動体視力と脳の思考加速で、スローモーションに見える銃弾が誠一へと進む。狙いは心臓、高位の能力者でも死に至る急所へと進む銃弾は例え腕でガードしても、その特殊素材で出来た銃弾と儀式によって加速されている為に容易に貫き心臓を穿つだろう。
男はやったかと内心喜んだが、その目論見は簡単にはいかなかった。
誠一は男が取り出した赤い色違いのマガジンに違和感を覚えていた。銃弾が聞かない能力者相手にわざわざ違う弾を用意していると思ったのだ。誠一は違和感に従って、銃弾に向けていた手の甲を小指側を前にして、先ほどとは違う早いスピードの銃弾を払った。
それに驚いたのは撃った男の方だった。銃弾が穿つこともなく硬い金属音と共に弾かれたのだ。
「なにぃ!!」
良く見れば誠一の少し大きめのジャケットの袖から何かが覗いている。彼が腕をまくるとそれの全貌が見えてくる。それは誠一の前腕と同じぐらいの長さの棒、その片端に垂直の握りが付いた鈍色の金属の武器。
「トンファー!?」
「正解」
誠一は手首を返してトンファーの長い棒の方を前にして男に突き出す。それはいきなりリーチが変わった突き、男は慌てて警棒を再び構えるがいかんせん遅すぎた。
「うごぅ」
深々と突き刺さるトンファーに男の口から絞り出すようなうめき声がでる。腹の急所に入ったせいか男の動きが一瞬止まる。
「寝てろ」
その止まった瞬間を見逃さず、誠一は強く踏み込み身体を沈み込ませて突き上げた。顎を強打されて男の意識は薄れていく。何故か木陰に隠れた仲間がこっちに飛んでくるのを見ながら。
「ぐえっ」
トンファーで打ち付けた逆の手で掠るように顎を打ち上げると、男は目をグルグル回しながら崩れ落ちる。誠一は残心で気を抜いていない…。
「え!?」
抜いていないからこそ誠一は林から何かが飛んできているのに気づく。残心を解いて振り向けばくの字で飛んでくる男がいた。慌てて誠一は飛んできた方へと向くと、その男を受け止める。
「天子さん、下手したら死んじゃうって」
「ごめんなさい、隠れるのがうまくて手こずったから、つい本気で蹴っちゃった」
フードで隠れていない口が苦笑いで謝ってくる。溜息でかえすと誠一は受け止めた男を見ると、胸に足跡。真正面から蹴り抜かれているのが良く解る。
それを彩が横から覗き込んでゲッと顔を引きつらせる。
「どんだけ強い力で蹴ってんのよ。励起法使って丈夫なはずの肋骨がボロボロじゃない、胸骨に至っちゃ凹んでる」
「彩さん。増援が来る前に」
「そうそう」
「覚えてなさいよ、もう」
会話を切られた挙句に茶化されてイラっとした彩だが、時間がないのも確かなので気絶している男の頭に手をやると心を読み始める。
普段は頭から漏れ出る精神波を読むのだが、直接頭に手を当てることでもっと深い場所を読むことが出来のだ。彩は集中して男の記憶を読み始める。
「そういえば誠一君、そのトンファーどうしたの?」
「ああ、これ? 今日出る前に思惟さんに会って拳士と能力者、両方とも道が始まったからお祝いって言ってもらったんだ」
「お祝いって…ちょっと見せてくれない?」
「いいよ」
天子は誠一から二本あるトンファーの一本を持たせてもらう。預かった途端、励起法で強化した腕でも驚くほど重い。
意匠を見るとシンプルな装飾で、隠した軽量化する儀式と分子結合を強化する儀式が組み込まれた、唯々頑強なトンファーだった。そして、天子はこの意匠に見覚えがある。
「誠一君これ私と一緒だ」
「え?」
天子がどこに持っていたのか木刀を誠一に見せる。実は木刀に見えるがこれは木に見える特殊合金製の鞘であり、柄から鞘を引き抜くと刀身が見える。
「これ…」
「銘は『波波木』、師匠からもらった鍛冶神と呼ばれる『多々良老』に打ってもらった刀。今は見せられないけど茎に銘と八芒星が刻まれているわ。このトンファーのここにもほら」
天子に指摘されてトンファーの意匠にさり気なくついている八芒星に気付く。
「結構な業物よ。感謝した方が良いわ~」
「そっか…教えてくれてありがとう」
「いいよ」
と横で和気あいあいと話している二人にムカムカしながらも、彩は男の脳に信号を流し記憶を想起させてその記憶を探っていっていた。
「これは…」
「彩さん、何か解った?」
「ここじゃマズイ、増援がそろそろ来そうだから一回戻ろう」
彩がそう言うと、二人は頷き手早く痕跡を消しながら町の出口へと走る。
「何てこと…」
その場には彩の言葉だけが残った。
高見原は森林都市とは呼ばれているが、ネットワーク上ではオカルト都市とも言われてはいる。
この街ではよく怪現象が見られるとの事でかなり有名だからだ。例えば『森を整備する伐採ゴリラ』や『夜な夜な現れては悪人を成敗する桜坂の剣士』、『いなくなったわが子を探し続ける女』、『恋人と行くと必ず別れる海浜公園のオブジェ』、『根の国へと続く黄泉平坂』『切ったら一日で再生する樹』なの色々である。
中でもよく聞かれるのは『高見原中央地下駅から出る、地獄列車』だ。
それは誰も真相が解らない
それはそんな話の一部。




