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いつもの日々に  作者: ルウ
喪った影を探して
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影を探して 追手

三人そろって工場地帯から抜ける道へと歩く。誠一と彩は帽子を目深に被り、天子はスポーツウエアのフードを被って顔を隠して歩いていた。

隠しているからか三人は監視カメラに映らないようにややうつむきながら歩く。


「天子さん、まだついて来てる?」

「人数が解らないけど四人」

「彩さん、こっちは確定?」

「意識がこっちに向いてるから間違いないと思う。そこ左に、じゃないと囲まれる」


路地裏に入らないように気を付ける。下手に入り込んでしまうと、捕まる可能性があるからだ。

三人は後を付ける一団を振り切ろうとするのだが振り切れない。


「こっちは確か緑化公園か」

「この街で一番必要ない公園だよね~」

「そんなこと言ってる場合かっ! 誠一君、まずいよ」

「解ってる、誘導されてた…逃げられないなら、いっそ迎え撃つか?」


囲まれるのを嫌って避け続けていたが、それは相手に誘導されていただけだった。集団戦としては、相手は完全に格上。自分らはまだ若い未熟者だ。

それを誠一は苦い思いをしながらも認めると、迎え撃つ算段を立てる。


「私賛成~。ぶっ倒して逃げた方が良いと思う」

「いや、知らないふりして逃げるってのもあるけど?」

「駄目よ、どこまで付いてくるかもしれないわ。それ以前に、私達全員が演技できると思う?」

「あっ駄目だわ。俺がボロ出しそう」


そもそも相手がどの位こちらを把握しているかも分からないのだ。下手に動けば全部バレる可能性もある。

それならば、一当てして怯んだ隙に逃げ出すのが良いと思った誠一は、ジャケットの腕に仕込んだ重い塊をそっと触ると言い放つ。


「蹴散らすぞ」

「ええ」

「うん」




突然だが能力者はあまり武器を持たない。結論から述べるが、原因は励起法だ。

励起法とは身体強化と単純に思われているが、実際はかなり違う。身体強化は『力』を強化するものだが、励起法は『力』だけではなく『耐久力』『瞬発力』『体力』『感覚』すべてが強化される。

それの肝は精緻極まる身体操作だ。

励起法の強さは『深度』と言う単位で表される。


深度1 身体レベルの単純強化。

深度2 細胞レベルの生命強化。

深度3 遺伝子レベルの形質強化。

深度4 分子レベルのエネルギー強化。

深度5 原子レベルの物質強化。


が一般的だ。理論的には深度8まであるが、実際は深度5が限界ラインだとされている。

そして能力者で、モノになるとされるのが深度3からである。

そして武器を使わない理由がここにある、深度3の能力者は小口径の拳銃であれば痛みを感じない程度だったりする。

こういう話がある。

アメリカの片田舎で能力者同士のイザコザがあった。お金の事でのトラブルが発端でカッと血が上った一方が小口径の拳銃で脅していたらしい。セーフティーを外したまま引き金に指をかけてた所為で、簡単に銃口から弾が吐き出されたという。普通なら死ぬがそこは能力者、励起法を使い避けようとしたら、よろけて避けそこなったという。逆に慌てたのが拳銃を撃った方だ、脅しには使ったが殺すつもりはなかったからだ。慌てて撃たれた方に駆け寄るが、撃たれた方はピンピンしていて殴り返されたと言う。

その時の励起法の深度は4、銃弾は傷一つない男の頬に受け止められていたと言う。

この話から分かる通り、励起法を使う同士では拳銃は豆鉄砲と変わらないぐらいなのである。

では剣や刀などの近接武器ならどうかと言えば、別の意味で使わない人間が多い。

それは…。




三人は緑地公園に走りこむ。

天子は公園に入ってすぐに逸れて森の中へと姿を消した。回り込んで樹の中に隠れる相手を迎え撃つ。

誠一は両腕を横にした状態で顔を隠す様に上げて走る。彩は腰を落として誠一の影に入る様に追随する。


「お前らちょっと聞き…と、止まれ!」


目の前に立ちふさがるのは三人、話から入ろうとするが走る誠一がスピードを落とさないのを見て慌てて懐の拳銃を取り出す。

腕の隙間から覗く誠一は、この数日で慣れた励起法の起動を刹那で行うと一気に深度を下げる。


「励起法っ! 気を付けろ、励起放射波から見るに深度はおおよそ4。見た目は素人だがあの深度では、脅威になりうる」


声を掛けたリーダー格の男も能力者なのだろう、誠一の励起法から発せられる波動から脅威度を割り出すと同時にサイレンサー付きの銃を発砲。他二人も追随する様に発砲した。


「彩さん」

「はい、はい」


深度4近くまで励起された誠一の身体は鋼より硬く強化ゴムよりも柔らかい。そんな身体には小口径の厳重、ましてはサイレンサーで減速した銃弾では貫くどころか皮膚にも傷はつかない。

銃弾の盾になっている誠一の背を蹴り、彩は跳んだ。


「よいっしょー!」

「危なっ」


いつの間にか持っていた5尺(約150cm)程の棒をやり投げの様に投げつける。まっすぐ飛んだその棒は声を掛けてきた男の顔の横を掠るように三人の中心にと突き立った。


「このっ」

「駄目だ!」


跳んだ彩に拳銃の照準を合わせるが、完全に拍子を外されている上に落下状態の標的に照準を合わせるのは難しい。銃弾は天子の頭の上を通り過ぎる。


「甘いよって、よいっしょ」


そこから流れるように刺さった棒を掴むと、天子は掴んだ棒を中心にグルリと一回転しながらリーダー格の男以外を蹴りつける。

うめき声をあげながら吹き飛ぶ二人にリーダー格の男は一瞬、そうほんの一瞬だけ気を散らす。


「ふっ」


小さな息吹で最速の一撃、それがリーダー格の男に迫る。


「壁よ!」


しかしその一撃は防がれる。男の前に土の壁がせり上がったからだ。しかしながら強度が足りない、紙を打ち抜くように壁を突き抜ける誠一の拳。


「ばっ、化け物か。」

「失礼な、壁が脆いだけだ。」


そんな訳はない、その土壁は能力で作り上げた物で何度も男の危機を救ったものだ。それが豆腐の様に崩されるとは、はっきり言って悪夢のようなものだ。

再び突き出される拳、土壁を出す暇も距離もない。男は腰にさしてあった警棒を盾の様に持つと受け止める。

鈍い音と共に拳の形に曲がる警棒。

そうこれこそがあまり武器を使わない理由、普通の武器より肉体の方が強すぎる為に武器の方が負けてしまう。それは使う側と使われる側両方に、だ。


「畜生っ」


男は後ろに飛ぶと、拳銃のマガジンを落とした後ジャケットから赤色のマガジンを入れて銃身を引いた。

今回、男達には一つの任務が与えられていた。最近、薬品工場の周囲で何かを調べる人間がいる、その人間を捕らえ所属と目的を探る事だ。しかし、相手が手ごわい場合は生死構わないと、一つの銃弾を渡されていた。

それは通称『鎧通し』と呼ばれる銃弾。特殊な素材と『儀式』で作られた強力な弾丸だ。励起法と能力を阻害する特殊な素材で出来た弾を発射した直後で加速する儀式で突破するものだ。

この銃弾を受ければ、良くて大怪我悪くて死。

男は銃口を誠一の胸へと向けて、引き金を引いた。


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