影を探して 調査
「あのーすみません。お話良いですか?」
いつもの通勤路、工場の近くに建てられている社宅からの続く道の途中で声を掛けられた。
「はい?」
「すみません、今お時間大丈夫ですか?」
目をやれば大手コンビニのジャケットを羽織った女性が、バインダーとボールペンを持って立っていた。
「えっと、君はコンビニの?」
「はい、私は派遣なんですけど大手コンビニチェーンがこの近くに出来るらしいんですけど、チェーン店のどんな種類の商品が欲しいのかをアンケートを取っているんです」
「へぇ」
言われてみれば周りには自分と同じように声を掛けられたんだろう、バインダーに挟まれた用紙に書き込んでいる社員が何人かいた。
「これってアンケート書いたらほしいものが陳列されるって事?」
「そうです。このアンケートの結果により。朝にはこの商品が多く昼にはこの商品が多く入ると言うように調節が付きやすくなりますので、お客様にとっての便利にお買い物ができると思います」
「そりゃいいや」
思えば朝遅刻したとしたら、コンビニでオニギリでも買えば始業前にパパッと食べれられる。昼休みに弁当が多く入るなら、薬品工場の事務で働く自分ならすぐに買いに来れる。
一人暮らしの単身者にはとてもありがたい事だ。
「どこに出来るの?」
「それもアンケートに書いていただければ、反映できるかもしれません」
「んー、まあ期待せずに要望だけ書いておくね」
「ありがとうございます」
女性はニッコリと笑ってお辞儀をして、バインダーとボールペンを渡してくる。男はそれを受け取ると、近くにコンビニが出来るといいなと思いながら書き込んだ。
「と言う訳で。今日の分は終了。手掛かりはなし」
「まさか、かすりもしないとはね…調査こんなに大変とは」
「木刀振ってる方が楽だわぁ」
昼過ぎの『里桜』、ランチタイムを過ぎた為か人はかなり少ない。誠一達三人は前回作戦会議をした席で、疲れ切った顔で椅子に体重を預けていた。
「ちょーっと、調査を甘く見てたね」
「私の『モーション・エモーション』とあんたの能力があれば簡単だと思ってたんだけど、甘い見通しだったわね」
二人の会話に誠一も頷く。調査うえでこの四人の中でも詳しそうな桂二も言っていたのだが、調査は地道に重ね確証までもって行くのはとても難しい。それを今日一日で退官した三人だった。
調査の方法は単純、まず天子が大手コンビニチェーン店の上着を羽織りアンケートと称してアンケートを取る。その時、食事やお茶飲み物などを仕入る一環だと添える。すると人によっては何時もの食事風景を思い浮かべ何が食べたいかを考えるのだ。人間は本能に直結した記憶はとても残りやすい、特に三大欲求『食欲』『睡眠欲』『性欲』は鮮明に覚えているのが多い。そこで、少し離れた場所で誠一に守られた彩が能力を使い読心をする事により、アンケートを書いている時、頭に思い浮かんだ光景を精査する。
単純だが、こちらの正体を気づかれ難い手での情報収集としては良い線を行っている・
だがしかし、これでもすぐに結果は出ないのだ。
更には、彩は複数人の心を読むのでダウン。天子は普段しない演技でグロッキー。誠一としては長時間、極力気配を消しながら周囲を警戒して精神疲労である。
「調べ方もそうだけど、いつもアイツはこんな事やってんのか桂二は…頭が下がるね」
「見た目がチャラチャラした人だけど、多分擬態なんじゃない?」
「私もそう思う。彼良い性格してると思う~」
天子はやっぱり師匠がアレなら弟子もアレだねと失礼極まりない事を思った。
「それはともかく収穫なし。心を読んだ人間は30人だけど、まさか全員外れとか」
「唯一の収穫と言えば、工場の全体的に万遍なくいた事かな? 目的の区画以外だけど」
「…」
そこまで話していて彩と天子は誠一が押し黙っていたことに気付く。見ればアンケート用紙を見て何かを考えているようだった。
「なあ、彩さん。このアンケートを書いた人達の所属とか勤務している場所とか解る?」
「え? ええ、解るわよ。」
「なら、蒼「天子」…天子さん、灯さんから大きめの紙と書くものを貸してもらってくれ」
「解ったわ」
天子が紙と書くものを借りてきている間に誠一はメールを送る。
「どこにメール?」
「桂二。あそこの工場の見取り図とかないかと思って…ん、もう返ってきた。早いよ」
メールを開くと工場の図面が出てくる。
「灯さんから貰って来たよ~。製図用の紙とボールペン」
「ありがとう。ちょっと待っててくれ、この紙に工場の図面を大雑把に描いた…彩さん、アンケート書いた人がどこにいるかをこれに書き込んでくれるか?」
「あ、うん」
そうやって大雑把に描いた工場の図面に彩が書き込みをしていくと、ある事が見えてくる。
「これは…空白がある?」
「やっぱり。アンケートの書き込みを見てたら、何個所か同じ場所に建てて欲しいって回答があったからね」
三十人の中で半数が書き込んでいたが、数か所の場所で同じ所にコンビニを建てて欲しいとと書いてたのだ。買い物で同じ場所に行きたいという事は、恐らく同じ場所で働いている可能性が高い。そこで、心を読んでいる彩に頼んで三十人分の勤務場所を記してもらう事にしたのだ。
そしてそれにより浮き上がったのは一つの空白。
「ちょうど一か所だけ空白がある」
「確かここは…」
桂二から送ってもらった図面と照らし合わせると、空白の場所が解る。
「第三資材置き場?」
「資材置き場だから人がいないんじゃなくて?」
「薬品工場の資材って言ったら危険物が多いから管理が厳重だと思うけど?」
「厳重だからこそ管理者がいると思うんだけど…精査した記憶の中にはその光景はないわね…逆にその位置に扉がない?」
「扉がない? 怪しいわ、秘密のスペースって奴かな」
「彩さん、そこに行ったことがある記憶がある人はいるかな?」
「………今のところいないわ、まだ見ていない記憶かもしれない」
そうなると、このままだと手詰まり。
「どうする?」
「もうしばらくやり続けるしかない、偶然この場所で働いている人間がいなかったかもしれないしな」
その可能性もあるなと三人とも頷きながら、暫く気苦労が続くと項垂れた。
暫くアンケートと称して調査し付けること三日、結局は成果が出ないまま終わった。工場地帯の裏路地で三人はカモフラージュ用の上着を脱ぎ、壁に背を預けて蹲っている。
「全然手掛かりがないわ。どういう事よ」
「明らかにおかしすぎる。誰一人あの場所に近づかないどころか意識が向いていない。」
「私聞いた事ある。多分あれ『儀式』だよ、人を寄せ付けなくなるやつだ」
それは以前聞いた事がある単語だった。錯乱していた東哉を制圧するときに桂二から聞いた単語。
となると、その様なもので隠さないといけない場所と考えると、そこは何かがある場所だと考えられる。
そんな事を考えていると、彩が誠一の服の袖を引っ張っていた。どうしたのかと彩を見ると、険しい顔をしていた。
「彩さん?」
「しっ‼ 表情を崩さずに聞いて、私たち囲まれてる」
「…‼ どうして」
「解らないわ、もしかして気付かれたのかも…周りの気配を感じていてもどうも様子見をしている風でもあるから、相手もこっちの事を把握しきれてないのかも」
口は柔和な形をしているが、誠一以外には見えない目元はとても険しい。横の天子は能力で何となく解っているのだろう、何事もないかのように携帯を弄っている風に振舞っている。
「どうする?」
「相手が把握していない方にかける。何事もないようにここを離れよう」
そう言うと誠一は立ち上がり鞄を肩にかけると、仕事終わりで疲れたような演技をしながら路地裏から出る。彩と天子もそれに続く。
「いやー今日もバイト疲れたねー」
「ホント、慣れないバイトはキッツいわー」
三人はゆっくりと違和感がないようにゆっくりとその場を立ち去った。




