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いつもの日々に  作者: ルウ
喪った影を探して
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影を探して 作戦会議

それは天子と戦った翌日、喫茶店『里桜』の奥まった四人掛けの席の事だ。

座るのは誠一と彩、天子と桂二の四人。いや彩と天子は誠一の横で睨みあっているので。正確には二人である。


「一寸どいてもらいたいんだけど」

「えー、私は誠一君の横が良いんだけど。同じクラスメイトだし」

「はあ? 彼は私に協力してくれるって言ったのよ。だったら隣にいるのは私じゃないかな?」

「ぽっと出た人が何言うかな?」

「ただのクラスメイトは邪魔になるんじゃない?」


それから睨みあっている、5分近く。


「おい、誠一。どーいう事だ」

「どういう事と言われてもな、蒼羽さん「天子って呼び捨てでいいよ」…天子さんと昨日路地裏で会ってな」

「そー言う事じゃねーよ。なんでギャルゲーみたいな展開になってんのかって事だよ」

「知るか!」

「なんで解んねーんだよ。ネット小説の難聴系主人公かっ!!」

「だーれが鈍感系主人公だコラ!!」


一方は睨みあい、一方は言い合い。微妙に収集がつかなくなってきた時、うんざりした様な声が間に入る。


「君たち、あんまり五月蠅くしないでくれよ。客がいない時間だからとは言え、店の雰囲気的には静かなカフェなんだから」

「すみません。」

「でも、灯さんこの子が!!」

「私の所為にするつもり!?」

「二人ともやめないか。今から作戦会議だろう? 話す内容が内容だから、わざわざ客のいない時間帯を選んだんだろう、早くした方が良いんじゃないか?」

「うぐっ」


人数分のケーキとコーヒーを、灯は配りながら話を続けた。お互いを指さしながらも責任を押しつけ会うも、彩と天子は灯の顔を立て一時休戦とばかりに椅子へついた。

二人は視線でけん制し合っているが、話が始まらないと桂二は誠一に話をする。


「なにはともあれ、こっちは戦力が整ってきたな」

「こっち?」

「何でもない。それより、お前から頼まれた件だけど目ぼしい所をいくつかピックアップしておいた」


苦笑いしながら桂二は傍らに置いておいたリュックからタブレットを取り出すと、三人に見えるように置いた。


「話を貰って調べたんだが、第二セクターの桃山生物化学研究所は、今は無くなっている。建物が無くなっていると言う意味ではなくて、そう言うセクション自体が消えているみたいなんだ」


タブレットには火事で無くなった研究所跡地と調査結果の一覧が出ていた。


「それは名前が変えられたんではなくてか?」

「表向きは別の名前でって事もあるよねぇ」

「そこは色々な伝手を当たってみたし不動産の登記を調べてもみたけど該当するところはなかった」

「それじゃあ、手掛かりは…」

「気が早い」


桂二はニヤリと笑いタブレットに別の画像を出す。


「これは?」

「五年前の高見原における流通の流れだ。この高見原は森林都市と呼ばれるだけあって樹の影響でインフラに制限がある。だから出荷や入庫は限られた専門の業者になりやすいんだ。それでその業者の過去の記録を洗い出した」

「どうやってだよ」

「社員に成りすまして入り込んでちょろっとな」

「言ってる事が産業スパイなんだけど。誠一君、君の友達大丈夫?」


明らかに不法侵入に営業情報の窃盗と言う刑事的責任に追及されそうな発言に誠一は苦笑い。彩は目を細めてこいつ大丈夫かと思った。


「いや、これでも役に立ってるから大丈夫。多分」

「大丈夫なのかな? …流石風文さんの弟子だ」


誠一の微妙なフォローに、天子はどこかでよく見る光景に誰かを思い出す。


「俺の事はほっとけ。とりあえずは話し続けるぞ。これが五年前の荷物の詳細と流通の推移だ」

「えーっと、なんだこれ? 読めないけど、ラボラトリー…ケミカルズ…?」

「試薬、大雑把にいうと実験に使われる薬だ」

「それって…‼」


実験に使われると言う事は研究所に使われている事だ。


「研究所の研究はその目的で、納品する試薬の割合が大体一緒らしい。そこから今の流通と照らし合わせると…」

「ここは…」

「桃山薬品工場。薬品製造用の資材に巧妙に紛れ込ませているみたいだが。恐らくはここだ」


桂二は高見原の北に広がる工業地帯、その中でも一際大きい敷地が広がる一角をタブレットに表示させる。

それを横から見ていた灯が眉間に皺をよせていた。


「桂二君、それは本当かい?」

「ええ。一応他の場所も一通り調べてはみたんですが、確証がとれるのが此処しかありませんでした。」

「多分、ここで合っている…」

「灯さん?」

「桃山の薬品工場は、うちの雉元化学の手が入っているんだが。ここの一角には我々『雉元家』の人間も入れない区画がある。対外的には大きな倉庫と登録しているが、研究職の人間が出入りしているのを不自然に見かけたと話に聞いた事がある…」

「という事は」

「ああ、そこに奈緒美が追っていたナニかがあるかもしれない」




それから二日後、休日の朝早く高見原北区の工業地帯の入り口に三人は集まっていた。誠一は地味な普段着で上半身はシンプルなジャケットとスラックス、天子は黒のスポーツウエアにパーカー、彩はいつものノースリープにカーゴパンツとキャスケット。全員が地味な色合いの服を着ていた。


「ねえ、固まっていると逆に目立たないかな?」

「だったら私が誠一君と行くよ」

「あんた、そのトレーニングしますって服で工場地帯歩くと不審よ、ここは普段着同士の私たちが」

「いや皆バラバラで……聞いてないなー」


最近定番になりつつあり二人の言い合いに誠一は肩を落とす。止めたいのだが誠一は鈍感系主人公ではないので、二人からの好意を無碍に出来ない。前回の話し合いの後にも何度かこのような事があったのだが、誠一が頑張って二人を宥めすかして神経をすり減らして何とかなったぐらいだ。

今まで武術ばっかりで対人スキルが低い誠一には、かなりの労力がいる。対人スキルマックスか疑いそうになる桂二からの助言で何とかなったようなものだ。


「えー…二人とも、服がよく似合ってるから目立ちそうだよね?」

「えー、そうかな?」

「…」


褒められてちょっと照れる二人。

とりあえずは落ち着いたようだ、今日はここにいない桂二(仕事で山の方に行っているらしい)に感謝をしながら誠一は予定を決める。


「予定通り皆バラバラで桃山薬品工場の近くまで接近、出勤する社員に蒼羽「天子」…天子さんが話しかけてその社員の心を彩さんが能力で読み取る。その時に例の区画の情報が解れば今日は終わり。これがプランA。終わらなければ続行、一週間で結果が出なければプランBだ。いいね?」


話し合いの後で桂二達と決めた内容を誠一が言うと、二人は頷いた。


「監視カメラがあるらしいから、桂二から言われたルートで行こう。それともしもの場合は」

「プランEでしょ?」

「励起法全開で逃亡、解ってるわよ」


三人は挑む相手の巨大さに恐れながら、それを払拭する様に笑い合い別れた。


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