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いつもの日々に  作者: ルウ
喪った影を探して
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もう一組の試練、探索。

高見原中央区 サイファ警備保障高見原支社 三階資料室


その部屋はとても厳重な作りをしていた。どれぐらい厳重かと言えば、まず扉の間には鉄格子でその格子は能力者でも破壊にてこずる特別製。格子の鍵は指紋とパスワード。さらにそこから中に入ると耐火性の金属製の分厚い扉がある。こちらはもっと厳重な鍵がかかっており、IDとパスワードに虹彩キーとAIによる顔認証とガッチガチである。

その中に入る男が一人、特徴のあまりない顔つきをした青年だ。あえて特徴があるとしたら、口元の微笑みが少々嬉しそうに浮かべていることだろうか。

その男は格子と扉の鍵を外してさっさと中へと入る。

資料室と書かれているが中は、広い机と椅子だけで光沢のある滑らかな黒の壁で囲まれた閑散とした部屋だった。

男は手に持った書類を机の隅に置くと、机に手をかざした。すると、フォンと何かの起動音が鳴ると机の上に薄いホログラムのキーボードが現れる。それと同時に黒の壁が映像を写した。


「ナノマシンリンケージ。入室IDとパスワード、生体認証キーを確認」


すると壁から放たれるレーザーが男を精査するように動く。


【IDとパスワード、生体認証キーとナノマシンファミリアIDの一致を確認しました。おかえりなさいませ、三剣風文様。システム『フトダマ』より通達、メッセージが届いております。】

「メッセージは何だ?」

【天中会長からの依頼が一件、多々良様から中間報告と依頼の品の引き渡し予定の時間を聞きたいという事で二件、七瀬様から報告書ファイルが一件。】

「会長の依頼と多々良老の中間報告を私の端末に送ってくれ。引き渡しは七薙しちなぎが明日取りに行くと返信しておいてくれ。七瀬の報告書は開いてディスプレイに表示、七瀬に繋いでくれ」

【承知しました。暗号アプリケーション起動、秘匿回線より七瀬様の端末に繋ぎます。…呼び出し中。】


すると画面の一部にPCと同じようにウインドウが開き、呼び出し中と表示されていたものが通話中へと変わる。


『はい、こちらMK2』

「私だ。報告書はざっと目を通したがあれから変化はどうだ?」

『特にありません。インビンシブルが依頼通りやってくれました。あの時集結していた部隊は八つの部隊、総勢35人。インビンシブルが処理した1人以外では8人が戦闘で死亡、26人は制圧後に記憶操作をお願いしました』


『インビンシブル』

それは裏の世界で無敵と呼ばれた掃除屋の名称である。国籍不明・性別不明・年齢不明・姿形をだれも知らない暗殺者。唯一知れ渡っているのは姿も見せずにいつの間にかにやられている事と、よく使う武器がボールペンほどの細い刺突武器を使っているという事だ。

それは時枝思惟の裏の顔であったりもする。


「インビンシブルは何か言ってたか?」

『人使いが荒すぎる。と』


フフッと笑うと風文はそうかと言って椅子の背もたれに体重を預ける。


「それで、状況は?」

『おおよそ予想通りです。桃山の部隊が一番多く死者数の約半分が該当しています。これから判るのは、奴らまだ完全に解明できてないかと』

「まあ、予想通りって言っちゃ予想通りだ。桃山の連中の死因は?」

『回収した奴らの死体を検死に回した所、戦闘中の突然死という事です』

「奴ら自分のところの一般戦闘で実験しているという事か」

「見たいですね。検視を担当していただいた先生の話によると脳を過剰に使いすぎたせいで急性脳炎を引き起こしてたらしいです」

「不完全な薬を使うから…」


ヤレヤレと溜息を吐きながら、風文は桃山の所業を揶揄する。


「しかし、不完全ながら我々と同じ能力が使えるのは脅威となるな。低出力で使うとどうなるか聞いてきたか?」

『極低出力で行うなら二・三日寝込む程度で行けるみたいです。連中それのデメリットを緩和する為に覚せい剤を併用していました。』


死因はそれだなと当たりを付けながら、風文は話を続けるように促す。


「まあ、それはひとまず良しとしよう。それで話によると泣きつかれたらしいが?」

『勘弁してくださいよ。俺そっちの趣味ないんで。どうも。東哉は精神的に幼さがありますね。莉奈の言うように、実験の影響で、精神的なものが成長していなかった可能性がありますよ。』

「話によると脳の成長期に合わせてたみたいだからな、精神が見た目より年下として扱った方が良いかも。ほらあれだ、漫画で聞いた事のあるフレーズの逆。」

『見た目は大人、頭脳は子供ですか? やめて下さいよ、今回の事で微妙に顔合わせずらいのに、俺どんな顔して会えばいいんですか?』

「笑えばいいんじゃないかな?」

『ホント勘弁してください。まあ、とりあえずは記憶操作のお陰で東哉の記憶持っている奴は減ったと思います。ただ一人を除いてですが』


ただ一人、それを聞いて風文は珍しく眉間に皺を寄せる。


『フレイマ・F・バーンブルグ。今はフランベルジュと名乗っているあなたの弟だけです』

「あースマンな。腹違いとは言え弟だから手を出すわけにはいかなくて、な」

『気にしないでください。むしろ我々はあなたがそのように葛藤しているだけで安心しています。俺は違いますが、第三部隊の前身たる報復部隊のメンバーは皆声をそろえて言っていますよ。家族や恋人を奪われた我々の長が、いくら敵とは言え親族を簡単に切り捨てるのは良くないって』

「気にする事はないんだがなぁ…まあ、お前らには感謝してるさ」


二人で笑いながら話は続いていく。別の話からその派生、段取りや根回し話し合う。


「とりあえずはこんな所だ、緊急事態にならない限り暫くほとぼりが冷めるまで情報収集を行いながら潜伏する様に全員に通達しておいてくれ」

『了解しました。隊長はどうなさいます?』

「ちょっと気になるところがあるから調べものって所だ。とりあえずは多々良老の所に思惟に頼まれた報酬を持って行ってからかな」

『了解です』


そこまで言うと回線が切れる。部屋はどことなく聞こえる機械の駆動音だけが響く。


「さて、俺も行くか。監視モードへと移行、それ以外はスリープモードへ」

【了解しました。またのご利用をお待ちしています】


それと同時に部屋がまた薄暗い部屋へと戻った。




高見原北区、そこは数多くの工場が立ち並ぶ高見原の工業地帯である。その中でも大きいのが高見原の工業の中でも多く最大の工場を持つ雉元の薬品工場だ。

その一角、緑の茂みの中で誠一達が身を潜めていた。


「ここがそうか?」

「ええ、灯さんから聞いた『同じ雉元でも容易に入り込めない工場』がここらしいわ」


敷地面積約60,000㎡の巨大薬品工場、その入り口前である。


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