彼に足りないもの
それは数日前の事。
「東哉、能力者の強みって何だと思う?」
何らかの訓練の最中で桂二に聞かれた。
話に聞いて何とか取得しようとしていた励起法に四苦八苦しながら芝生の上でぶっ倒れていた時の話だ。
マルチタスクで励起法を行いながら戦うと言う事で頭がこんがらがって、簡単に桂二に叩きのめされたのだ。そんな時にふと聞かれたのだ。
「能力者の強み…それは、能力とか」
「そりゃ当たり前だろうが、能力者なんだから。そんな普通の事じゃないんだよな」
「なりたての俺に聞かれても解んねーよ。教えてくれよ」
妙なところで素直なんだよなこいつと、桂二は内心溜息を吐きながら答える。
「能力者と一般人の違いは能力のあるなしなのは違うが、俺は違うと思ってる。今まで何十人の能力者に会ってきたが、共通して敵わないと思ったのは分析力と対応力だ」
「普通の人間でも変わらなくないか?」
「いや、普通の人間と比べても段違いだよ。その根源となるのはやっぱり能力だ。能力者は神域結界の中を完全に把握している、なぜならばその神域の中を完全に把握してないと能力として成立しないからな。それが分析力と対応力に繋がっているんだ。完全に把握できているから分析出来て、能力を使うから対応できる」
「へー」
「お前の事でもあるんだがな…」
ヤレヤレと肩を落とす桂二。
そんな訓練の合間の話を思い出した。
壁の一部を再び毟り取りながら廊下と部屋を煙幕で満たす。相手の能力者はおそらく『識者』の能力者一人、三人の内一人だろう。あの時煙幕の中で正確に東哉を狙ってきたのは一人だ、銃弾の間隔と音からの感触で間違いないと思う。
識者は感知系の能力者であるのならば何の能力者かと考えれば、桂二の話を思い出す。
識者の能力は大半が五感(視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚)に依存している。
実際はもっとあるのだが、それも含めて考え東哉の煙幕とスタングレネード擬きを絡めると何の能力かは解る。
光や熱を遮る煙幕、強烈な光と音で相手が動きを止めた。それは至極簡単、答えは振動を感知する能力だ。
東哉は知らないがこれは彼の友達、天子と同じ系統の能力である。
「だとしたら俺の基本戦闘法とは相性がいい」
東哉の戦闘法は分解の能力を基礎とした戦い方だ。物を分解し、分解した分子の段階に応じての化学反応を利用した戦い方で、爆発が基本となる。
普通の攻撃が爆発、隠密とか周辺の被害とか損害とか考えない迷惑この上ない攻撃だが、今回に至っては相性が良かった。
今回東哉は色々な物の成分を調べてきて、それに伴い準備もしてきた。腰のベルトにつけた数本の瓶を取り出すと能力を発動させながら混ぜ合わせる。
普通合成をするときには純粋な100%の物は作れない、だが東哉は能力を使う事で合成中に目的のもの以外の物質を分解し続けることにより極限まで100%に近づけることが出来る。
「出来た」
瓶の中に出来たのはペットボトル内に詰まった粉、先ほどとは比べ物にならないほどの純粋な爆発物。(規制に引っ掛かるのでどんなものかは書けません)後はこれをと考えていると、視力が回復したのであろう三人組の足音が聞こえてくる。
ペットボトルのキャップを強く締めると、東哉は能力を発動させて三人組の方向へと投げると部屋の中に退避する。
そして爆発。
急激な分解による化学反応で中心部が爆発、最初の爆発は同じく能力で劣化させたペットボトルが破裂し中身を拡散。それがさらに酸素と混合し大爆発を起こしたのだ。
「今だ!!」
爆発と同時に先ほどと同じ壁を分解して抜け、爆発の中心へと駆ける。
神域で相手を確認すると、拳を振り上げ。
「ぐっ」
東哉の腹に重い一撃が突き刺さる。
カウンター気味に入ったのは自動小銃の銃床。いい感じに鳩尾に入ったのか、呼吸が止まる。
同時に足払いを掛けられ、背中から仰向けに倒れこみ肩を踏まれ動きを封じられる。
「素人が手間かけさせやがって、俺が動きを止めてる間に誰か書類を探せ」
煙幕が晴れていくと東哉の目の前には銃口が見える。
「死にたくないなら余計な事するなよ、この銃に装填している弾は能力者の励起法を突破するための特殊弾頭だ」
「…なんで、煙幕が聞かなかったんだ」
「バカかお前は、同じ手が何度も聞くと思うなよ。フラッシュバンは来ると解ってたら対応できるんだ」
そう言って東哉を押さえる男は片手で耳栓を見せて偏光グラスを指さした。
「ああ言うのは不意を突いてやるのが基本だ。俺の能力を看破したまでは良いが、その対応がお粗末だったな。戦闘経験の少なさを自覚するんだな」
「確かにそうだ、だから今回の作戦なんだ」
唐突に聞こえた声に三人の男が警戒する。声の発生源はまだ腫れない煙幕の中。
「今回の目的は三つ。一つ永井さんの言う通り戦闘経験のなさを何とかする為に」
次に聞こえたのは最初とは真逆の方向。
「二つ目は書類の重要性を知る為、三つめは…」
煙が完全に晴れる。すると黒い人型の影が三体、それと。
「桂二!? おまえ…」
胸に穴を空けながらも平然と立つ血まみれの桂二がいた。




