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いつもの日々に  作者: ルウ
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落ちてきたのではなく

高見原は以前の寒村の人口とは違い、百万人を超す政令指定都市になっていた。

そこまでの人口になると業種は多岐に至り、それに伴うように日雇いやパート・バイトの種類も増えている。

誠一はその中でもこの町特有のバイト、ビルに巻き付く樹や植物の剪定のバイトである。普通であれば造園業者がやるのであるが、高見原全体が森林になっている状態では業者に頼むととんでもない金がかかるのが目に見えていた。そこで高見原市の行政は、ボランティアとバイトに定期的に巡回し剪定することにより節約することにしたらしい。

本当に出来ているかどうかはともかく、誠一はこのバイトに助かっていた。なにせ必要なのは身一つ、必要な装備は支給されているから。そして割のいいバイトだからだ。

誠一は地下鉄高見原中央駅を降りると、ポケットに入ったスマホの電源を入れアプリを立ち上げる。すると、今日剪定を行うであろう地図が映りそこに向かう。


「ここか」


駅から五分ほど離れた雑居ビル、蔦と樹が生い茂り完全に埋もれている。ビルの周りには数人の男女がたむろしている、おそらく同じ作業をする仲間だ。


「お疲れ様です」

「おー水上くん」


誠一のバイト仲間の大学生アレックス・石田、こう見えても日本国籍を持つスコットランド系英国人。一緒に暮らす祖母を養うために働いている苦学生らしい。

誠一とよくブッキングするので顔見知りである。


「今日はこのビルですか?」

「ああそうだね、こっちのビルと向こうのビルかな。しかし水上君がいるなら、今日は楽出来そうだね。」

「任せてください」


笑顔で了承すると誠一はさっそく身支度を始める。鞄から落下防止用のハーネスを取り出し装着すると、ビルの屋上まで登ると屋上にある器具に取り付ける。


「行きますか」


安全確認をすると誠一はビルの壁面に足をかけて降りる、その間に伸びすぎた枝葉を鉈で刈り取る。普通こういうものはノコギリなどを使うのだが誠一は違った。彼は人一倍身体能力に長け、とくに膂力は目を見張り一度鉈を振るえば生木の樹を一撃で叩き切る。


「おーい、水上君。こっちは気にしなくていいよ。ジャンジャンやってくれー」


下ではアレックスが他のバイト仲間をまとめて落ちてくる木の枝などを、網を使って受け止めていた。安全確認は大切です。

そうしてやる事三十分、もっさりとしていたビルがすっきりとした頃には仕事が終わっていた。


「水上君もういいよ、今日はこの位にしておこう。しかし君はすごいね他のバイトの子だったら二時間はかかるのを三十分ほどで終わるからね」

「時間給じゃなくてエリア給ですからね、さっさとやるに限りますよ」

「確かにね」


誠一が屋上で帰り支度をしていると、屋上に上がってきたアレックスが今日の賃金の手続きをしに来ていた。スマホのバイト用のアプリを立ち上げると、今日の決済を行う。


「決済終わり。誠一君はこれからどうするんだい?」

「もう一軒バイトしてから今日は終わりです」

「そうかー、苦学生は大変だ。ただ、最近何かと物騒みたいだし気を付けて帰んなよ」

「ありがとうございます」


アレックスが手を振り帰ると、誠一は帰り支度を続ける。



そんな時だった、空から女の子が二人落ちてきた。





高見原中央駅から少し離れた、中央区から桜区にすぐ入った楼閣町の裏路地。

深い緑と剪定されていない樹のせいで隠された路地裏は高見原のどこでもあり、その中でもここは裏高見原の数あるチームの中でもやや中堅に位置するチーム『エリアル』の本拠地でもあるのだが。


「駄目ね」

死屍累々と言わんがばかりの男達が倒れる中心に立つのは小柄な少女。黒のノースリーブにカーキ色のガウチョパンツ、黒い無地のキャスケットを目深にかぶった少女だった。

胸ほどの高さの棒を担ぎながら、少し勝気なアーモンドのような眼を機嫌悪そうに細めながら溜息を吐いていた。


「『偽神薬』で能力者になったとしても、しょせんは偽物、弱いわ」


痛みで倒れ伏す男達を尻目に、周りを見回す。

少女の名前は『折紙彩おりがみ あや』、隣町に住む彼女はとある目的でこの町に来ていた。その為の情報収集でここ数日、高見原を歩き回っているのだが街の広さと人の多さで、情報収集は上手くいっていなかった。

上手くいくどころか最悪だったりする。

なにせ初日から裏高見原の最大チームに聞き込みをして、絡まれて、返り討ちにするという三連鎖で大変な事態になっているのだ。

最大チームのリーダーらしき人間を返り討ちにしてしまった事、そのため裏高見原の治安が悪化。その影響で聞き込みが困難になっている。

挙句、幹部格に顔を覚えられて警戒されるどころか、写真まで回ってしまい気分は賞金首だ。その結果がこの状況である。


「弱いけど、こう数が多いと時間がかかるわ、そうは思わない?」


瞬間、彩は半歩だけ体をずらすと振り下ろされた木刀を鼻先一寸で躱す。同時に棒を持っていない左手で払うように手刀で切り上げる。

木刀を振り下ろした人物は、喉を狙った手刀をバックステップで避けた。

その人物は黒いレインコートに木刀と言うアレな出で立ち、小柄で細いながらも柔らかさを連想される体型から女性だと思われる。


「嘘だろ『桜坂の剣士』まで来てやがる。おい、他のやつら起こせ。逃げんぞ」


破落戸の男達の何人が目を覚まして、木刀を持つ人物を見ると顔を引きつらせた。

高見原には都市伝説が多数存在する。このような環境なのでなおさら多いのだが、中でも裏高見原のガラの悪い人間にとって恐怖の存在なのがこの『桜坂の剣士』だ。その存在は高見原の裏路地などで犯罪をおかしていたらどことなく現れて、黒塗りの木刀で叩き潰されると言うものだ。


「なるほどね。悪を裁く剣士、身体能力は高くて…私の『能力』が効きづらい。あなたも能力者ね」


彩は一瞬、刹那の間で剣士の前に瞬間移動の様に現れ、剣士の手を掴むと投げた。


「柔術!? いや実戦合気柔術!?」


投げられた剣士は空中で態勢を整え、壁に足を付け蹴った。思いの外投げられた勢いが強かったのか壁が足型にやや凹み、剣士はその勢いを利用し壁をけり続け上へ上へと登って屋上に消える。


「逃がさないわ、能力者の剣士。『霧島の剣士』」


剣士を追うように彩も壁を蹴り屋上へと登っていった、それが誠一の屋上に女の子が落ちてきた数分前の出来事である。



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